第36話 訓練に訓練を重ねて…
それから、長い間を訓練と共に過ごすこととなった宏樹。
✳︎ ✳︎ ✳︎
初めの1週間は操縦コースにて、より早いタイムでゴールを目指すタイムアタック訓練を行っていた。
「今35分と23秒!あともう少しでゴールだから気を抜かずに走って!」
「はい!」
一番初めに走った時は大体50分以上かかった記憶がある。
それと比べると40分以内に終わるのはかなり良い記録だと思うが、安奈によるとまだまだ伸び代のあるタイムだと言われた。
そんな宏樹だが、評価できるところもいくつかあった。
まず一つ目は運転の技術が優れているという点である。
悪路コースにおいて最も大事なのは、今自分が乗っている車体がどういう姿勢になっているか?ということを常に把握する能力である。
この能力がなければ、これから先の車体の動きを予測することができず正しい操縦ができなくなってしまい、段差道や泥道などでスタックしたり、最悪動けなくなってしまう可能性すらある。
その点において宏樹は車体の向きや姿勢、速度などを感覚的に把握することができる優秀な能力を持っており、危険な段差や深すぎる泥道をうまく避けての操縦ができていた。
「その調子!そのまま気を抜かずに走って!」
「はい!」
そして二つ目の評価点は、宏樹が常に冷静であるという点である。
基本的には決まった道が続く操縦コースだが、時には落ち石のような予測不能な要素が転がっていることもある。
運悪く落ち石や朽ちた木材を履帯に巻き込んでしまい、履帯が外れてしまうというアクシデントもしばしば起こってしまう。
「履帯が外れたわよ!」
「はい!今修理します!」
それはなにも操縦コースに限った話ではなく、実際の戦場ではもっと路面環境は悪化する。
当然ながら戦場で足を止めるのは命取りになるため、早急に修理をして再び動き出さなければいけない。
それをするためには、どんな事態に巻き込まれても取り乱さない冷静さが必要不可欠なのだ。
「修理終わりました!前進します!」
「素早い対応ね!その調子よ!」
…よしよし…!この調子!!
良い評価を受けながら1週間目の訓練を終えた宏樹は、その勢いのまま2週間目の訓練へと突入していった。
✳︎ ✳︎ ✳︎
お次の2週間目はひたすら射撃を行う訓練を行っていた。しかし…。
「宏樹くん!あなたは射撃に時間がかかるから、射撃時の防御姿勢を忘れないで!」
「はい!」
慣らしで始めた射撃訓練において、宏樹はある悪い癖があることがわかった。
前回やった時は緊張であまりわからなかったが、宏樹は射撃をする時に周りへの注意がかなり疎かになっているのだ。
「射撃の技術は良い線をいっているわ。でも射撃をする際、あなたはかなり無防備になっているの」
「はい…!」
「平地で棒立ちなんてしていたら、敵からのいい的になってしまうわ」
当然、できていない場所は安奈からの指導が入る。
「せめて防御姿勢をとって、正面からの攻撃だけでも防ぐよう改善して」
「わかりました!」
宏樹は指摘されたことを素直に受け止め、射撃をする際は被弾経始を意識した防御姿勢をとり、建造物や
どれだけ状況を把握する能力に長けていて、冷静さを失わないという強みがあっても、所詮はどこにでもいる普通の高校生。
戦闘におけるさまざまな防御姿勢であったり、射撃をする際は無防備になりやすいと言った、戦車戦における基本的な知識はまだまだ不足していた。
それに加えて…。
「実戦では必ずしも正面にだけ敵がいるとは限らない」
「はい!」
「360°どの方向にも気を配る…というのは流石に今は無理だろうから。少なくとも背後にだけは気を配れるよう努力して」
「了解です!」
射撃時において目標以外にも気を配るというのは、そう簡単にできることではない。
しかし、瞬時に反撃ができないような位置に敵がいると対処しずらいため、せめてそう言った方向にだけは少しでもいいから注意を向けるようにと安奈は指導した。
…頑張ろう…!!
まだまだ改善の余地ありとの評価を受けながら2週間目の訓練を終えた宏樹は、気を取り直して3週間目の訓練へと入る。
✳︎ ✳︎ ✳︎
次の週。宏樹は学校にいた。
「ごめん美咲!これから少しの間、カフェに行ったり遊びに行ったりできなくなる…」
「どうして…?」
宏樹はここ2週間、美咲からの放課後カフェの誘いを断り続けていた。
そんなことをしていると、3週間目を迎える頃には流石の美咲もちょっと不満そうにしていた。
「ここ最近ずっとそうじゃん!」
「そうだけど…」
しかし、もう訓練を受けるというのは決まっていること。
それができなければ、今後一生美咲と会うことができなくなるかもしれないし、なにより彼女を危険に巻き込みかねない。
…早く一人でも戦えるようにならなければ…!
そのためには今だけでも心を鬼にして、彼女に対して断りを入れておかなければならない。
「どれくらいかかるの…?」
「なるべく早くするよ…」
「具体的にどれくらいかわからないの?」
「…今から…1ヶ月くらい…」
宏樹は怒られる覚悟で、本当のことを美咲に告げた。すると…。
「… わかった。絶っっっ対守ってね!」
「あ…ありがとう…絶対に守るよ!」
彼女は思いの外すんなり?と宏樹の要望を受け入れてくれた。
無事に美咲からの了解をもらうことに成功した宏樹は、その足で訓練を受けに行った。
訓練場へと到着した宏樹は、操縦・射撃とこなして更なる訓練を受けることになった。
「背後がガラ空きよ!」
「うおっマジか!やられた!!」
第3週目で行った訓練は、例の市街地を模したデモフィールドでの背後を取る訓練だった。
安奈曰く、この訓練で得られる技術や知識はかなり高度なもので、実戦に出ても大いに役立つ技術ばかりだという。
「次は5分後!あなたは西側の街からスタートよ!」
「はい!」
スタート地点の街を適宜入れ替えながら、何度も何度もこの訓練を行った。
「英傑戦技、
「英傑戦技、装輪『ベーテータンク』」
訓練では以前と同じようにお互いに英傑戦技を使用しあっていた。
しかし、これまでと比べて規模が全く違っていた。
「
安奈はまだ戦闘慣れしていない宏樹に対して、容赦なく複数の英傑戦技巧みに追い詰めてくる。
そんなことをされれば、すぐにでも背後を取られてしまいかねないが、宏樹も黙って追い詰められるつもりはなかった。
「よっし!もう二体追加!英傑戦技、装輪『ベーテータンク』」
そう、宏樹が唯一使える車両である「BT-7」は複数両召喚することが可能だと教わり、4両もの「BT-7」をなんとか駆使して、安奈に対抗した。
そして訓練回数が30回を越えようとしていた時…。ついに、宏樹はある目標を達成した。
「取りました安奈さん…!!!」
「…えぇ!?…さ、さっきまで中央にいたはず…」
なんと宏樹は、29回目にして見事に安奈の後ろを取ることに成功したのだ。
「それはですねぇ〜」
宏樹は、複数召喚した「BT-7」の内、二両を中央に並べて配置しておく作戦を考えつき、それを実行したと説明した。
二両並べて置いておき車両から出る排煙を多く見せることで、まるで英傑「KV-2」がそこにいるかのように見せかけたのだ。
「感心したわ…。まさか私が背後を取られるなんて」
「いえいえ、運が良かっただけですよ」
安奈は宏樹の話を熱心に聞き、彼が使用した戦術を大いに賞賛してくれた。
それからも何十回にわたってこのデモフィールドでの訓練を行った宏樹。
そして3週間目が終わる頃には、宏樹は5回に一回は安奈の後ろを取ることができるようになっていき、それに付随して安奈も限りなく本気で宏樹との訓練に付き合ってくれた。
✳︎ ✳︎ ✳︎
そうして、3週間にわたる長い長い訓練を終えた宏樹。
「かなり成長したわね。あの頃のあなたとはもう違うわ」
「ありがとうございます!」
第3週目の最終日、宏樹は安奈からのお墨付きを得ることができた。そして…。
「この調子なら、実戦に参加することもできそうね」
「本当ですか!?」
…ようやく…この時が…!!
宏樹は訓練を始めてから早1ヶ月。実戦訓練へと赴くための準備がようやく整ったのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます