5匹のクマさん
一色まなる
5匹のクマさん
「8月の箱がここなら……1日、3日……あった27日!」
「こっちに3月分あったぞー、えっと31日だっけ? 母さんの誕生日」
「違うって! お母さんは13日!!」
「おーい! お前達、12月はこっちだぞー!」
わいわいとスーパーの陳列棚の前で3人の子ども達の声が聞こえてきた。お兄ちゃん二人に末の妹ってところかな。
(あぁ、バースデードールかぁ)
私は棚の上に掲げられているポップで3人兄弟が何をしているのか分かった。小さなクマのキーホルダーが誕生日ごとに並べられているのだ。
うるう年も入れて366匹にはそれぞれ名前や好きなもの、正確なんかも事細かに決められていて最近流行っているのだそうだ。
(懐かしいな……)
「お母さんの誕生日は……あった」
大人の人達の間をすり抜けて、私は母の誕生日と同じクマのキーホルダーを手にした。
「これで、全部そろった!」
私は走っていって、レジに並ぶ。おもちゃみたいなプラスチックのガマ口財布を開いて私は硬貨を並べていく。店員さんがお釣りを渡してくれるのを背伸びして受け取って私は道路を走り抜けていった。
「おかえりなさいー」
「ただいま! そろったよ!!」
「あぁ、くまさんね」
「うん!」
私は手を洗うのも忘れて自分の部屋に駆け込んだ。ランドセルや教科書を置く棚のたいっかっくに4匹のクマがちょこんと座っていた。
「お父さんは2月9日」
青いクマは頑固で。
「龍兄ちゃんは4月17日」
緑のクマは辛い物が好きで。
「陸兄ちゃんは11月28日」
赤のクマは泳ぎが得意。
「私は6月30日」
水色のクマはお散歩が好き。
「そして、お母さんが2月29日」
何件もの店を歩いてやっと見つけた金色のクマがやれやれと座った。
「そうだね、やっとそろったね」
そう言えば、あのクマはどこに行ったのだろう。中学校まではちゃんとそろっていたはずなのに、いつの間にか一匹もいなくなっていた。
「……よし」
私は陳列棚の前で深く息をついた。そして、何度も唱えた数字の並びを思い出した。
5匹のクマさん 一色まなる @manaru_hitosiki
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