第127話 アレル改造計画

 翌週には、『原初の星』の改造計画である『アレル改造計画』が星全体に公表された。

 タイムシフト分離の期限が近いため、基本計画という形での発表となった。


 『アレル改造計画』は以下の三大プロジェクトから出来ていた。


・タイムシフトジェネレータープロジェクト

  タイムシフト分離を引き起こす施設の建設。

・白球システム代替プロジェクト

  エネルギープラント

  生産プラント

・百年大陸プロジェクト

  海水を衛星軌道上に打ち上げて大陸を作る。大陸の広さを調整可能。


 最初の、タイムシフトジェネレーターとは白球システムと共に消滅するタイムシフト研究所に代わるものだ。タイムシフト分離を行い、浮遊巨星関連の危機を回避するための最重要施設となる。堅牢なシステムとして建設される予定だが、百年後の稼働開始は絶対条件である。


 次の白球システム代替施設は、文字通り白球システムが今まで担ってくれていた役割を代替する施設だ。同じものは作れないが十分置き換えが可能だとのこと。

 もちろん、このシステムも百年後には稼働する必要があるがそれ以前から少しずつ稼働させる計画だ。何故なら、白球システムのエネルギー不足が未来で確定しているからだ。『アレル改造計画』のために余計に消費する訳にはいかない。


 最後の百年大陸システムは、まだ思い付き程度なのだが原理的には何とかなりそうだとのこと。

 これについては、特に期限はないし確実な方法を探せばいいだろう。


 『アレル改造計画』は、民衆に熱狂的に受け止められた。

 現地のメディアも大騒ぎだ。多少はリークしていたようだが、これだけ大きなプロジェクトが三つも発表になったのだから無理もない。未来人との共同計画というのも、熱狂する要因になっている。

 そんなわけで、いつの間にかお祭り騒ぎだ。


  *  *  *


「もしかして、俺たちの月にも昔は海水があったりしてな」


 『アレル改造計画』発表後のパーティー会場で、俺は料理の皿を持ったまま言った。


「やめて。リュウが言うと本当に聞こえるから」とメリス。

「ほんとほんと。リュウは、ジョーク禁止って言ってたよね」とユリ。

「ふっふっふ。わらわには、こっそり教えるのじゃ」とツウ姫。


 もちろん、みんなテーブルの料理に夢中なので軽口である。


 このところパーティー続きだ。状況を考えれば当然かもしれない。出席させるべき有名人が沢山いるようだ。

 会場のテーブルには、この星の特産品が沢山並べられているが、俺たちが白球から持ち込んだものもあり現地人に大好評だ。スイーツに至ってはレム、リム提供のものに人気が集中している。おまけに俺たちが持ち込んだものは未来の食べ物だということで、ちょっと異常な雰囲気になっていた。


「未来ジュースよ!」

「未来ケーキちょうだい!」

「この未来パフェ、なんて素敵な味なの!」


 そんな名前ではないけど、テーブルに集まった人たちは、そんなふうに言って楽しそうに食べている。これを満足そうに見守るレム、リムのふたり。


「あれ? 今日は食べないの?」


「仕方ないのだ、タイムシフト分離ダイエットは無効になったのだ」とレム。

「ちょっと、計算違いなのだ」とリム。


 そうか、帰るつもりで沢山食べちゃったもんな。


「いま、別腹分離を研究しているのだ!」とレム。

「未来腹を消してしまうのだ!」とリム。


 なに~っ? って、ジョークだよな?


  *  *  *


 パーティー会場では、神海三世界から『原初の星』へ移住する計画なども話し合われていた。

 もちろん共感エージェント限定だし、未来の話である。つまり、千百年後のこの星に移住しようという話だ。


「百年大陸計画が進めば、住む場所に余裕が出るし移住に問題はないでしょう?」


 熱く語るのは神海希美だ。

 百年で大陸が完成しなくても千百年経てば完成しているだろう。少なくとも可能性は高い。


「俺は、あのサンゴのような住宅にも住んでみたいけどな」


 神海意次も移住には積極的らしい。神海三世界とは違って今度の周りは仲間だけだ。神海一族が気軽に移り住める世界なのだ。ただ、大陸が出来た後であの人工大陸が保持されるかどうかは微妙だと思うが。


「むしろ、今のこの世界に住んでみたいな」


 これは上条絹だ。彼女は研究者らしく、いろいろと挑戦したいようだ。千年間の結果が出た世界より、自分が何かを見つけたいと思うのかも知れない。


「私も、この世界に住んでみたい」と夢野妖子。

「憧れのご先祖様の世界だものね」と今宮麗華。

「うん。俺も興味ある」と神岡龍一。


「じゃ、このまま移住しちゃう?」


「ええっ?」と今宮信二。

「それも面白いのだ」とレム。

「やってみるのか?」とリム。


「「「あっ」」」

「ほら出た」とメリス。

「またなの?」とユリ。

「なのじゃ」とツウ姫。


「いや、冗談だよ。さすがに戻れないよ?」


「もうタイムシフト分離しないからな」とレム。

「そうなのだ。これ以上の分離は必要ないのだ」とリム。


 神海一族も頷いている。さすがに気軽に移住は決められないよ?

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