第126話 百年大陸

 何がどうなったのか俺は知らないのだが、今後の『原初の星』の活動に『百年大陸計画』という一大プロジェクトが加えられた。


 いや、確かに神海一族とレム、リム博士による『アレル星救出計画』は素晴らしい。だが、それは彼らアレルの民からしたら、あくまで『危機からの脱出計画』つまり災害対策なのだ。

 だが『百年大陸』は違う。


 この星では昔から大陸への憧れが強かったようだ。

 そこにあるのは島ばかりで見渡す限り海という環境。気づいたら大陸モドキを作ってしまうような星なのだ。単なる憧れではなく、もっと切実な願いなのだ。

 だから、一時の危機に遭遇しようと白球システムが無くなろうと、近い将来に自分たちの念願が叶うというなら大歓迎なのである。しかもそれが漠然とした夢などではなく、具体的な計画なのだから与えるインパクトは大きかった。


 こうして、『アレル救出計画』と『百年大陸計画』を合わせた『アレル改造計画』が大きな期待と共にキュレル首相によって策定された。


  *  *  *


「昔からの憧れって、もしかして昔は大陸があったのかな?」


 俺は、いつの間にか午後のお茶を飲みながらキュレル首相と語らう仲になっていた。


「はい。その通りです。ずいぶん昔のことですが、海底に遺跡が残っています」


 なるほど。海底じゃあまり手出しできないから発掘も進まないか。


「もしかすると、白球システムを作ったという種族のことも分かるかも?」


 俺はふと気になって聞いてみた。


「そうですね。あのシステムを作った種族が私たちと直接交渉していたのかは知りませんが、発掘してみる価値はあると思います」


 そんなに古い話なんだ。


「それは楽しみだな」


 まぁ、いつ発掘結果を聞けるのか分からないが。


「また来ればいいのだ」とレム。

「そうなのだ、研究成果を聞けばいいのだ」とリム。


「えっ? でも、またこの時代に来るのは難しいですよね?」


「研究成果を知りたいなら大陸が出来たずっと後なのだ」とレム。

「そうなのだ、発掘が始まってもすぐには成果はでないのだ」とリム。


 それはそうだな。しかも発掘調査の結果が出るには時間が掛かるだろう。


「ただし、お主たちにとっては直ぐなのだ」とレム。

「そうなのだ。千百年後の世界球が安定していたら訪問すればいいのだ」とリム。


 なるほど、そういうことか。ついうっかり忘れそうだが、俺たちのいた時代に戻れば千百年後の彼らと交流できる筈だからな。


「ってことは、千百年分の研究成果を聞けるんですね!」


「そうなるのだ」とレム。

「果報は寝て待てなのだ」とリム。


 千百年は寝すぎだが、この場合は許されるよな?

 もっとも、ちゃんと世界球が危機を乗り越えて安定しないとダメだ。

 もし、『創造者の世界』の世界球が分離しないなら、それはアレル改造計画が失敗したことを意味する。世界球分離したとしてもそのまま消滅してしまうようなら、それもアレル改造計画が失敗したことになる。

 いづれにしても、新たな世界球が多重世界に残らなくては交流どころではない。


「安定世界球になれないなら、フェーズ2を実行するのだ」とレム。

「うまく行くまでやるのだ」とリム。


 レム、リムは大変だが、お願いするしかない。キュレル首相は、改めてふたりに感謝の意を伝えていた。


  *  *  *


「そう言えば、安定世界球が出来た後のレム、リム博士はどうなるんだろう?」


 予定通りに世界球が分離できたら救出作戦は完了である。レム、リムは、もうすることはない。


「心配はいらないのだ。新しい『原初の星』に行ってもいいし、神海三世界もあるのだ」とレム。

「そうなのだ。我らには仲間が沢山いるのだ」とリム。


 確かにそうだった。仲間はむしろ増えているしな。うん? ただ、レム、リム両博士がいると歴史が変わりそうだが?


「もしかすると、二人が行くと別の世界球が出来るかも知れませんね」


「そうかも知れないのだ」とレム。

「それは喜ばしい事なのだ」とリム。


 派生球を作る気満々? どこへ行ったとしても凄い世界球が生まれそうだ。

 こんどは消えない世界球スーパーノヴァになったりして。


「ねぇ。私たちまた凄い場面に立ち会ってる気がするんだけど」とメリス。

「奇遇ね。私もそんな気がするわ」とユリ。

「そうじゃのう。いつものことじゃが」とツウ姫。

「今回は俺も立ち会ってるのか!」とホワン。

「いつも通りですね」とレジン。

「うむ。懐かしい」とリジン。


 なんのことだ? 別に何もない筈だ。何かあるとしたら、レム、リム関係だろう。新しい世界球が出来るのはいいことの筈だしな。

 とりあえず、世界球を増やしたとか言われたくないし当面は大人しくしようと思った。


 キュレル首相は、微妙な顔をしていた。

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