第123話 スイーツと理想郷

 『天才』と『天才ではないが自分の世界からはじき出された人間、あるいは自分から世界と決別した人間』による美味しいスイーツ探しの旅が始まった。


 あ、全員共感エージェントというくくりでいいのかな? 共感エージェントたちのスイーツを探す旅?

 なんだこれ?


「うまいものを効率よく探す方法ですか?」


 俺は世界Nの喫茶店で『宇宙パフェ』とかいう新作のスイーツを食べながらレム、リムの話を聞いていた。

 もちろん、調査隊の四人がレム、リムに付いて回っている。


「そうなのだ。始めていく世界球は内情が分からず千里眼を使うのが手間なのだ」とレム。

「白球内から遠隔操作でスイーツを取り寄せたいのだ」とリム。


 どうも、多重世界じゅうからスイーツを取り寄せて白球の喫茶室で提供したいようだ。

 調査隊や支援隊に食べさせて、美味しいスイーツを探そうということらしい。でもそれだと、物凄い数のメニューになりそうなんだけど?


「もちろん、全ての店のスイーツを取り寄せる訳ではないのだ」とレム。

「本当に旨いものだけリストアップするのだ」とリム。


 俺が途方もないという顔をしたのでそう言いなおしたが、それでも大変な話だと思う。


「せめて、現地で人気のある店だけにしましょうよ」


 たぶん、それぞれの世界の三ツ星とかで十分だと思う。てか、俺も付き合わされるだろうし他人ごとではない。


「そんな情報がどこにあるのだ?」とレム。

「評価する基準があいまいなのだ」とリム。


 確かに、そうだよな。

 まぁ、そんな基準があったとしても、ある世界の三ツ星が他の世界の三ツ星と同じとは限らない。


「ううん。そうなると、脳内の幸せ成分『ドーパミン』の分泌でも調べるしかないんじゃないですか?」


 冗談を言ってみた。もとい、言ってしまった。


「それなのだ!」とレム博士。

「そうするのだ!」とリム博士。どうするんだ?


 そうだった。天才を前に冗談を言ってはいけないんだった。


「すぐ作るのだ」とレム博士。

「簡単なのだ」とリム博士。


 簡単なんだ。って、どうすんだよ!

 これ、絶対白球システム使うよな。スイーツ探して白球システムの過負荷で停止したら、最悪の展開だぞ? そのくらい大量にあるだろ?


 当然、メリスたちは呆れて……いや、嬉しそうに見ていた。


「いいこと言うじゃん!」とメリス。いい事なんだ。

「名案だね!」とユリ。名案なんだ。

「むふふ。待っていたのじゃ。これだから離れられないのじゃ」とツウ姫。


 ああ、そうだった。


「まぁ、『幸せ検出器』みたいなもんだしな。世の中のためになりそうだな」


「「「「あっ」」」」


「えっ?」


「それ、ヤバいじゃん。理想郷検出器じゃん」とメリス。


 いやいや、そこまでは言ってませんよメリスさん。てか、理想郷見つけるのってヤバいのか?


「ほんとだね~っ。出来るのかな~っ?」


 ユリは、そう言ってレム、リムを見る。しかも期待した目で。


「人の幸福は、それぞれなのだ」とレム。

「うむ。我の幸福がお主の幸福とは言えないのだ」とリム。


 確かに、そうだな。

 全員が幸福になるってことは、かなり難しい筈だ。大抵の人間の活動は一部の幸福とその他の不幸を生むことが多い。


「おしいな」

「ほんとだね~」と残念そうなメリス。

「結構、いい線いくんじゃない?」とユリ。

「わらわは、スイーツだけでいいのじゃ」とツウ姫。


 まぁ、スイーツの美味しい世界は理想郷に近いかも知れないけどな。

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