第124話 フェーズ1

 『創造者の世界』が再度タイムシフト分離してきた。


 フェーズ1の始まりである。レム、リムと俺たちは早速転移したのだが、レム、リムのふたりから千里眼で覗いてみるよう言われて驚いた。

 新しいタイムシフト分離で、『未来の原初の星アレル』はすっかり変わっていた。果てしなく海の広がる過去のアレルと同じだったのだ。


「浮遊巨星の影響を回避したからな」とレム。

「あの大量のデブリには手を焼いたのだ」とリム博士。


 なるほど。浮遊巨星が連れていた天体とはそれか。それでも2回目のタイムシフト分離で完全に回避できたようだ。

 荒れ果てていた星が美しい星に戻ったのを見ると、改めてタイムシフト分離の凄さが分かる。こんなことが出来る現象を発見したレム、リムは改めて凄い博士だと思う。スイーツを追っかけようが誰にも文句など言わせない。

 もちろん毎日新しい世界のスイーツが並ぶのはいいことだ。無限回廊調査隊の喫茶室は連日満員御礼である。


「これこそが我らの星なのだ」とレム。

「うむ。やっと戻ったのである」とリム。


 確かに美しい星だった。ただ、俺の知る地球に比べて海が広すぎるように思えた。荒廃したときの小さい海は悲し過ぎるが、こんなに広い海もどうかと思う。


 俺の懸念はともかく。俺たちは中央の島にあるタイムシフト研究所へと転移するのだった。


  *  *  *


 低温睡眠カプセルに入ったレム、リムを待つ間も、俺たちの話題はすっかり様変わりした『原初の星』に集中した。

 

「瓦礫の山だったのは、人工大陸の残骸だったのね」とメリス。

「あんなになるなんて凄い量の隕石が降ったんだね」とユリ。

「普通なら世界球が消えてしまうところよのぉ」とツウ姫。確かに。


 海が縮小してしまうほどの危機に遭遇しても、なんとか機能を維持していた白球システムやタイムシフト研究所はやはり凄いと思う。


 そんな話をしていたら、低温睡眠カプセルから戻ったレム、リムが自慢げに言った。


「もちろんだ。タイムシフト研究所の防壁は、白球システムの防壁を参考に作られているのだ」とレム。

「白球システムと同等の耐久性があるのだ」とリム。


 なるほど、それはそうだよな。もちろん、ハクのようなアンドロイドにメンテしてもらう前提だろうが。

 そういえば、転移シールド壁とか普通じゃないシロモノもあるしな。


 俺たちは、誰もいない美しくも滅びつつある星を後にした。


  *  *  *


 いよいよ『原初の星救出作戦』フェーズ1が開始された。

 神海三世界や多重世界連絡協議会など各分野の代表を乗せたエアカーが『原初の星』へと出発した。大型エアカーが使えるのは、世界ゼロからハクによって直接転移するためだ。


 この訪問は単なるセレモニーのようにも見えるが必ずしもそうではない。

 世界間の会議自体は多重世界通信機を使えばビデオ会議でも可能である。しかし、このビデオ会議に『原初の星』が参加出来るのはタイムシフト分離している今だけなのだ。

 そんな貴重な状況での会合を通信で済ますのは逆にもったいないということになった。両者ともに特別な体験になるからだ。時空を超えた一大事件なのだから。


 それで急遽代表団を組織してタイムシフト分離中の過去の『原初の星』を訪問することにしたのだ。

 何しろ一千百年前の故郷を訪問できる機会など普通ないからな。神海一族も大興奮である。


 代表を乗せた大型のエアカーは、人工大陸の中央に位置する首都に向かってゆっくり降下していった。この下はタイムシフト研究所のある島である。


 降下していくエアカーから『原初の星』の様子を眺めていて、人工大陸は単純な平面で出来ている訳ではないことが良く分かった。

 上空からの光を取り入れる空洞もあるし、三次元的に網の目のように結合した形になっていた。それは、どこかサンゴを連想させる構造だった。


「なんだが生物のような雰囲気があるな」


「そうね。貝殻とかね」とメリス。

「なんか、ゲームとかで見た気がする」とユリ。どんなゲームだよ。

「あそこ全部に人が住んでるのかえ? 迷路のようじゃのぉ」とツウ姫。


 確かにな。3Dの迷路か。迷ったら大変だ。中の通路とか、どういう交通ルールになってるんだろ? 3Dのナビとか想像できなかった。


「あの構造だと、重力加速器とか反重力装置とか使ってるんじゃない?」とメリス。

「絶対そうだよね。そうするとエネルギー切れたら落ちるのかも?」とユリ。

「作るときどうしたのじゃ?」とツウ姫。


 そう言えばそうだな。作りながら崩壊するような構造ではないだろう。特殊な軽量素材を使っているのか?


「ぜひ、あの技術は持ち帰るべきよ」とメリス。

「そうね。過去に教わるのも恥ではないわよ」とユリ。

「時代を超えて成長するのじゃな?」とツウ姫。


 それって、俺たちの街も立体的に作るってことか? さすがに、いきなりは無理だよな? もしかするとサンゴの枯山水を狙ってるとか?


  *  *  *


 歓迎式典のあと開かれたフェーズ1の会合は、意外にもすんなり進んだ。


 大きな組織同士の話し合いだと概ね合意できたとしても具体策など各論で紛糾するということが多々あるものだ。しかしテーマが『白球システム依存からの脱却』ということもあり、先人としての神海三世界の意見が尊重されたようだ。


 また、タイムシフト分離については、そもそも専門家でないと理解できない。レム、リム博士以外に専門家はいないので議論にならなかったということもある。

 全てお任せなのだ。


 また、一般大衆の関心はと言うと、やはり『未来人』に集中した。

 しかも、ただの未来人ではない。百年先に加えて千百年先の未来人であり多重世界の別世界人なのだ。緑の宇宙人どころの話ではない。


 もうほとんど珍獣扱いだ。同じ人間なんだけど防護スーツなんて着てるもんだからさらに話題になり、何度も衣装モードを変更したり飛んだりすることになった。もうヘトヘトだ。


 ちなみに、先に非公式で遊んどいて良かった。もう有名人過ぎて普通には遊べない。

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