第122話 ファーストコンタクト

 非公式の訪問と言う名の『バケーション』を終えた俺たちは、いよいよ正式に過去の『原初の星』とのファーストコンタクトを試みた。

 つまり、首脳部とのコンタクトである。ちょっと気合を入れて臨んだのだが、結果は簡単だった。白球システムを通じたホットラインが存在していたからだ。


 正確にはホットラインではない。

 ただ、白球システムが星のトップへの連絡手段を持っていただけだ。白球システムに対して最優先の要求をする部署は、つまり星のトップという訳だ。


 この部署にハクを通して連絡をしたら返事が帰ってきたのだ。

 最初は疑っていたものの、こちらのメンバーの多くが共感能力者であると知らせると態度がガラッと変わった。共感能力はこの星では科学や芸術以上に評価されていて、共感エージェントは高い信頼を得ているようだ。

 白球システムに依存しているのだから共感能力を評価するのは当然と言えば当然と言える。


  *  *  *


 そんなわけで、初めての会合は共感能力による通信で開催された。

 神海意次たち神海三世界の代表に加えて俺たち調査隊の首脳部も無限回廊調査隊本部の中央会議室に集まっていた。

 もちろん、共感通信はハクを通しているというだけで個人単位で接続している訳ではない。また、多重世界協議会の面々も多重世界通信機で参加している。


 本来、共感は確率波を使っているので多重世界通信機に近い技術だが、今回初めて接続した。


「こんなことが出来るとはな。驚いた」とホワン。

「当然です。余裕です」とハク。


 今までで最高のドヤ顔だ。表情がないのに、不思議だ。


 俺たちの仕事はコンタクトまでのお膳立てをする役なので上層部の会議には直接参加しないのだが、傍で見ていたら『原初の星』の代表に見た顔がいたので驚いた。

 先日、ビーチで会ったキュレルが首相だったのだ。


  *  *  *


 レム、リム博士は何とも言ってなかったが、『原初の星』の正式名はアレルと言うらしい。

 なんで教えてくれなかったのかと思ってレム、リムを見たが二人はすましていた。

  

 ともかく、この『原初の星』アレルとの会合は思ったより順調に進んでいった。

 話の内容が内容だけに普通ならなかなか信用されない種類のものだが、そうならなかったのは共感能力のある子孫からのコンタクトだったことも大きいようだ。


 レム、リム博士は、まず百年後に起こる主な事象とその後の経緯を淡々と説明していった。

 あまりにも衝撃な話なので質問攻めにはなるのだが、適当なところでキュレル首相が打ち切った。これはすべて同じことを繰り返しているだけだからだ。百年後にやることを今やっているだけなのだ。つまり、ほとんど時間の浪費にしかならない。


 その後、レム、リム博士の回避作戦の概要が発表された。

 タイムシフト分離を利用した回避策と、その副作用。およびこの対策である。

 副作用とは、『白球システムの喪失』である。

 また、同時に神海三世界からの支援も発表された。


 さらに衝撃的な提案であるため、またもや質問攻めとなった。

 もちろん、無理もないことだ。そう簡単に理解できることではない。質問が出来るだけでも彼らが優秀であることを物語っていた。普通は質問すら出来ずに呆然としてしまうところだろう。


 質問の中には彼らを支援すると発表した神海一族に対するものもあった。

 現在の神海一族は白球システムに依存しないで存続している。実際に危機を乗り越えた子孫からの提案だけに、アレルの代表キュレル首相は感銘を受けたようだった。


「このような危機に遭遇することが百年も前に分かるとは、私たちはなんと幸運なのでしょう」


 キュレル首相は前向きな姿勢で語った。


「しかも、未来からの朋友による、これ以上ない提案を頂きました。本当にありがとうございます」


 そういって、頭を下げる首相。


「これから経験したことのない時代を迎えることになるのでしょうが、共に新しい世界を築いていけたらと思います。よろしくご指導くださいますようお願いいたします」


 そう、キュレル首相は締めくくった。


 いきなり、こんな話を聞かされたら、これほど冷静な反応は出来ないだろう。キュレル首相が、いかに優秀な政治家なのか分かるというものだ。

 もっとも、冷静でいられる要因には、これが『百年後の危機』ということもあるだろう。

 百年後では、なかなか実感が沸かないかも知れない。だが、未来人の登場という、より現実離れした出来事の前では信じるしかないというのも事実だ。

 しかも、百年後の子孫だけでなく、千年後の子孫とさらに千年後の別世界人までいて協力を約束しているのだ。

 そこまでくれば、幸運どころか奇跡である。明るい未来以外に考えようがないという気持ちになるのも当然か?


 とはいえ、星の未来に大きな『危機』が待ち構えているというのも事実だ。

 有頂天になるわけにはいかない。


 第一回会合は概要説明のあと今後の流れなどを簡単に話して終了となった。

 まずは、現状の認識を一致させる必要がある。具体策を練るのは、その後だ。

 また、この衝撃的な事実を星全体に周知させるだけでも相当な時間がかかるだろう。


  *  *  *


 共感通信による多重世界会議のあと、タイムシフト分離は一旦解除された。

 フェーズ0の終了である。


「タイムシフト分離が解除されている間って、レム、リムたちは四人いるのか?」


 ふと気になって聞いてみた。


「四人いるとは何のことなのだ? 今現在は二人しかいないのだ」とレム。

「戻った時の二人のことは、過去の二人なのだ。今とは違うのだ」とリム。


 そうだけど、どっちでも二人が活動していると思うと増殖したようにも思える。実際、過去でも現在でも仕事してて、タイムシフト分離すると両方の成果を提供できる訳だからな。


「単に、二つの時代の成果を集めてるだけなのだ」とレム。

「昔の偉人の言葉が今に生きているのと一緒なのだ」とリム。


 なるほど。偉人ですね。


 でも、本来なら過去に戻った筈だから、やっぱり仕事は二倍してる気がするな。意識が二つに分かれている訳だし。未来の出来事を知った二人は、過去で何をするんだろう?


「じゃ、スイーツ巡りするのだ」とレム。

「もっとうまいケーキを探すのだ」とリム。


 俺の疑問をよそに、レム、リムはさっさと消えてしまった。

 やっぱり仕事はしてませんでした。気にする必要ありませんでした。って、こうなると、ちょっと遊び過ぎな気もする。


「何言ってんのよ。もう、十分よ」とメリス。

「そうよ。天才は自由にさせるのが一番よ」とユリ。

「そうなのだ。自由にさせるのだ」とツウ姫。

「じゃ、私たちも行くわよ」とメリス。

「だよな」


 当然のように俺たちもスイーツ巡りに参加することにした。

 みんな遊ぶ気満々だな。いや、付いて行くほうは天才じゃないけどいいのか? まぁ、これも仕事だよな?

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