第120話 未来の星

 『原初の星』に転移してすぐ、現地人から頼まれごとをされてしまった。


「驚いたわね。こういうの普通なのかしら?」とメリス。

「人に何かを頼まれることは名誉なこととされています」


 ハクが『原初の星』の事情を解説する。


「ふうん。それにしても、いきなりよね」とメリス。

「それだけ珍しかったんじゃない?」とユリ。

「以前の潜水モードよりは良いと思うけど」


 メリスは、自分の提案で最近アップデートしたデザインを改めて見直した。


「でも、褒められると悪い気はしないわね」と、ちょっとご満悦?


「標準の図面にして渡しておきました」

「ハク! ありがとう!」

「どういたしまして」もちろんドヤ顔。


「じゃぁ、早めに忍者モードで目立たなくすべきかもな!」

「いえ、下手に忍者モードを使うと、コピーしたという事で問題視される可能性があります」とハク。


「えっ? そうなのか? それはマズいな」

「じゃ、ここでは忍者モードは禁止ね!」とユリ。

「了解!」

「分かったわ」

「うむ」


  *  *  *


「パラソルとかチェアーが欲しいわね!」


 白い砂浜に出るとメイルが言った。

 周りには沢山のビーチパラソルやチェアーが並んでいた。


「はい。では取り寄せます」とハク。


 無線通信で取り寄せ出来るらしい。


 少しするとハクに似たアンドロイドが来てビーチパラソルなどをセッティングしていった。小さなテーブルもあり気が利いている。このビーチでは皆同じデザインらしい。もっとも、パラソルの透明度は変えられるらしい。さすが異世界だな。


 パラソルを広げても砂浜は広く全員がゆったりくつろげた。いいビーチだ。


「さすがに一番人気のビーチだな。広いだけじゃなくてサービスもいいんだな!」


「いえ、このくらいは普通です。もっとサービスのいいビーチもあります」とハク。


「そうなのか? そうすると料金も高いんだろ?」


 そういえば、ハク任せだったが金は持ってないぞ?


「いえ、無料です」あっさりと言うハク。


「ここも?」

「もちろんです」


「もしかしてドリンクも?」とユリが、隣のパラソルを見て言った。


 隣ではアンドロイドがドリンクを給仕していた。


「はい。お好きなものを言ってください」


 軽食や遊び道具なども無料らしい。実際に注文してみたが、素早く持って来てくれた。


「凄いな。どういう経営してるんだろう?」


「殆ど趣味で提供されています。料理研究家や遊び道具を作った人たちが提供しているんです。それはビーチごとに違っています」


「公共施設ってわけじゃないのか?  個人がやってるのに無料なんだな」

「もちろん、まとめているのは公共サービスです。個々に提供するのは個人ですが」


「ああ、なるほど。施設や受付業務は公共サービスなんだ」

「はい。一部、有料のサービスもありますが金銭は殆ど発生しません。名誉だったり、感謝だったり、人々の支持が提供の動機です」


「ああ~っ。ある意味、人気商売なのか」

「そうなりますね」とハク。


「さすがに、クルーザーを借りるのは有料なんじゃない?」


 沖を走るクルーザーを見てメリスが言った。


「無料です。呼びますか?」


「ちょっと待て。それって、持ち主が持ってくるのか?」

「持ち主かデザイナーである場合などが多いですね。運転はアンドロイドに任せる場合が多いようですが」


「ああ、船をデザインするのか」

「はい。自分好みのこだわりのクルーザーを作るわけです」

「ああ、どんな遊びをするかで違うからな」

「そうです。ですから必ずしも設計者という訳でもありません」


「好きなだけ作れるのかな」

「いえ、港の都合で数には上限がありますので競争になります」


 何を競争してるんだろう。性能か? 人気か?


「どうすると、そんなことが可能になるのかしらね」とメリス。

「うん。一時的なことじゃないよね?」とユリ。


 当然、そう思うよな。


「エネルギーが無料、資材も無料。サービスするアンドロイドも無料。必要なのは製造コストだけなんです。これは個人の趣味ですから通常料金に反映されません」


「ほう。確かにアイデアやデザインが浮かべば作りたくなるしな」

「はい」


「でも、一品ものばかりじゃ大量に供給出来ないんじゃない?」とメリス。

「はい。ですから、無料で提供される汎用定型品というものがあります。物理生成で作りますので必要なだけ提供されます。汎用定型品は人気投票で選ばれます」


「人気投票で? もしかして一番人気があったものが汎用定型品になるのか?」

「そう言うことです。これは名誉なことです。公式に名前が記録されます。つまり歴史になります」

「ほう。確かにそれはいいかもな」


 時代を超えて生きた証が残るのは確かに魅力だろう。しかも、公式だから国がある限り消えないんだ。


 それにしても、この星では汎用定型品が一流品で最低料金なんだな。

 俺たちの世界とは上下が全く逆になっている気がした。この星の経済はどうなってるんだ? 何もしなくても汎用定型品という高級品が手に入る世界なのだ!


 まぁ、物理生成機能で作るんだから当然といえば当然か。

 しかも衣食住、全てがこの調子らしい。ちょっと想像しにくい世界だ。


「信じがたいわね」とメリス。

「ここは、理想郷なんじゃ?」とユリ。

「確かにのぉ」とツウ姫。


 まぁ、俺たちも近いことは白球でやってたから驚くという程でもないし、ある程度予想はしていたが星全土に提供している社会を見ると腰が引ける。

 社会全体がどう動くのか想像できない。


「俺たちの世界でも、衣食住は昔に比べたら手軽に手に入るよな」

「時々、後退することもあるみたいだけど?」

「そういや住宅は安くはないか」

「料理が出来れば生活費は安く済むかも」


 負けずに言ってみたが、全く勝てそうにない。


 ただ、古代の人間が見たら俺たちの世界もみんなタダみたいに見えるのかもしれない。

 その意味で、ここは確かに未来の世界なのだろう。それも、かなり未来だ。


 しかし今、この星の文明はその根底から破壊されようとしているのだが。しかも二重の意味で。

 その変化は壮絶なものになるだろう。

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