原初の星救出編

第119話 過去の星

 俺たちは、過去の『原初の星』の世界球を千里眼で覗いて目を見張った。


「どうなってるんだ? 海ばかりだ」


 未来の『原初の星』からは想像もできない姿だった。

 その眺めに俺たちは圧倒されていた。


「驚いたわね。これが同じ星なんて信じられない」メリスも同感のようだ。

「未来じゃ、なんで海が無くなってんだ?」


 思わず独り言ちていた。


「未来のあの姿は浮遊巨星の影響です」


 ハクがあっさり教えてくれた。


「どういうことだ? 回避できたんじゃないのか?」


「はい、浮遊巨星は回避しました。ですが、後続の天体があったのです」


「後続の天体かぁ!」

「巨星単体じゃなかったんだ」とメリス。

「巨星の一部かも?」とユリ。

「そば仕えかえ?」とツウ姫。お前かよ。


「ですが、タイムシフト分離をもう一度実施すれば対処可能です」


 ハクは何か問題があるのかという言い方だった。なるほど、もう一度タイムシフト分離すればこれもなんとかなるのか。

 巨星は回避できたが、後ろにデブリを引き連れていたということらしい。確かに、巨星の後ろに何かあっても分からない。

 

 俺たちは、未来の『原初の星』とは全く違う百年前の『原初の星』をまじまじと眺めた。

 そこには広い海があり、その中に小さめの大陸が一つあった。それ以外には、島々が散らばっているだけだった。


「丸い大陸しかない」とユリ。


 大陸と呼ぶには小さいが、この星で大陸と呼べるとしたらそれしかなかった。


「大福のようじゃのぉ」とツウ姫。


「あれは人工島です」


 また、ハクがあっさり言った。

 なんだとぉ~っ?


「お、おい。あれはどう見ても大陸だろ? あれが島なのか?」

「はい。この『原初の星』に大陸はありません。島しか存在しません」とハク。


「島ばかりの星なの?」とメリス。

「はい。ですが不便なので複数の島に橋を掛けて接続したのです。その後、橋が大きくなり橋の上に街ができ、結果大陸のようになりました」ほんとかよ!


 俺たちは今、とんでもないものを見ているわけだ。

 でも、普通そんなことするか? 小さい島同士を橋でつなぐのはわかる。橋の上に施設ができることもあるだろう。でも、それを大陸になるまでやるか?


 俺は、改めて別の種族の星なんだなと思った。ここは、少なくとも俺の知ってる地球ではない。


「エネルギーは白球システムから無尽蔵に供給されています。ですから、必要なものは必ず作られます。躊躇する必要はありません」


 躊躇することがないのか。なんだか、この星の人間とは話が合わないかも知れないと思った。もしかして、思いっきりわがままな種族なんだろうか?


「とりあえずビーチで旅行者の振りをして様子を見るか」


 やっぱり俺たちが最初に訪問するとしたら南国のビーチだよな?

 知らんけど。


「わかりました。それでは、首都で一番人気のビーチにご案内します」


 そう言うと、ハクは大陸の東端にあるビーチの転移室に俺たちを送った。

 この星で、転移は一般的らしい。


  *  *  *


「あら、海がすぐ近くなのね」


 転移室の窓から見える景色を見てメリスが思わず言った。

 目の前には砂浜が広がっていた。


「ここから、流行りの水着をチェックしなくちゃね。ここで着替えちゃいましょ」とユリ。


 そうか、そうなるか。早速忍者モードの出番だな。


「水着とはなんじゃ?」とツウ姫。


 ああ、そう言えばツウ姫は防護スーツしか着たことないな。


「海で遊ぶ時の薄い服よ」とメリス。

「ふふふ。ツウ姫にはハードル高いかも」とユリ。


 そう言ってユリはツウ姫に浜辺の様子を見せた。


「な、なんと破廉恥な」とツウ姫。


「郷に入っては郷に従えよ」とメリス。

「それにしても際どいわね」とユリ。

「わらわは着ないぞ。この羽衣でいいのじゃ」


 ツウ姫はシンプルな潜水モードにした。


「ああ、私もそれにしよう」とメリス。

「じゃ、私も」とユリ。


 仕方ない、俺も潜水モードにすることにした。まぁ、一応水着だしな。


「これじゃ、逆に目立つよなぁ」

「いんじゃない?」

「見つけやすいしね」

「迷子にならないのじゃ」ほんとかよ。


  *  *  *


 転移室から潜水モードで出てきた俺たちは、やはり思いっきり目立っていた。


「あなたたち! それ、斬新なデザインね!」


 たちまち声を掛けられてしまった。もちろん現地の言葉で。


 そこには、同じように転移室から出てきたばかりの女がいた。

 メリスと同じか少し年上くらいだろうか。背は高めで、黒髪ショートの女だった。


「いえ、それほどでも」とちょっと慌てるメリス。

「そう? 見たことないけど、あなたのデザインなの?」と現地の女。

「えっ? ええ、まぁ」

「ほんと? じゃぁ、私にもデザインしてちょうだい!」


 いきなり水着のデザインを頼まれたメリスは戸惑って俺を見た。


「アドレスを教えてください」横からすっとハクが答えた。

「あらっ? アンドロイドも優秀ね。そう、分かったわ。ネムっ」女は、自分が連れているアンドロイドを呼んだ。

「はい。マスター」


 ハクはネムと呼ばれたアンドロイドと通信したらしく軽くメリスに頷いた。

 ハクが居てよかった。が、すでにハクの優秀さがバレたかも?


「私はキュレルよ。よろしくね」


 そう言うと、待ち合わせでもあるのかキュレルと名乗った女はさっさとビーチに消えて行った。

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