第118話 原初の星の真実
俺たちが共感遷移に向かないことが分かったので、とっとと低温睡眠で『原初の星』の言語を学習しておくことにした。定例ミーティングの席上で決まった。
「寝てるだけだろ? どうせやることだから先にやってしまおう。とりあえず、四人同時に学習できるようになったそうだし」
隣で、ハクがドヤ顔をしている。顔変わらないけど。
なんでも、元々タイムシフト研究所はもともと多くの人間に低温睡眠学習をさせるための施設だったそうだ。
それをタイムシフト研究所に流用しただけなので今でも最大で10名ほどは同時に学習できるらしい。ただ、使っていなかったカプセルのメンテナンスが必要らしく、とりあえず二名分を追加してもらったという訳だ。
百年経ってるからな。使えるだけ凄いことだ。
「そうだね~。寝てる間にバイリンガル研究者になれるなんて楽ちんだね」とメリス。最近、研究してない気がするが。
「ふふふ。また手当が増えてしまうのね」とユリ。
増えても使う当てがないんだが? 無限回廊だと衣食住全部無料だし。今の俺たちにお金は必要なかったりする。
「見知らぬ国に行けるのじゃ」とツウ姫。余裕の発言だな。確かに使える言語が増えたら、世界は広くなるんだろうな。
そんなわけで、俺たちは『原初の星』のタイムシフト研究所に転移したのだった。
* * *
タイムシフト研究所は特に変わったところはなかった。
神海意次たちが使った後、転移シールド壁を開けてあったので直接タイムシフト研究所へ転移出来たのと、受付のアンドロイドが目礼したのがちょっと違っていたくらいだ。
受付のアンドロイドも進化してるのか?
「学習カプセルをメンテしてくれたのは彼女です」とハク。
なるほど。確かに、ここは彼女のテリトリーだろう。ハクが顔変わらないのにドヤ顔してるように見える。
「そのうち会話もできるようになるかもな」
「はい。仕事が複雑になって来たので刺激になっていると思われます。無限回廊調査隊の言語も既に学習済みです」とハク。
白球システムのアンドロイドは、全部を白球システムが制御してるわけじゃなく、それぞれ個性があるようだ。こっちのアンドロイドが目覚めたらどうなるのか、ちょっと気になる。
* * *
共感遷移室に行ってみると、カプセルが二人ずつなのは同じだった。それはそうだよな。二名単位で追加するわけだ。
「じゃ、私とリュウね」とメリス。
「何言ってるの、私でしょ?」とユリ。
「そば仕えのわらわなのじゃ!」とツウ姫。
いや、別にバディでもなんでもないんだけど?
じゃんけんの末、『俺とツウ姫』、『メリスとユリ』というペアになった。
「初めての共同作業なのじゃ」とツウ姫。
いや、作業しないし。
* * *
低温睡眠学習自体は三日で終わってしまった。
もちろん、これは神海意次たちと同じだった。ちゃんと共感能力が使えている証拠でもある。
だが、経過時間は三日だが、主観時間はそうではなかった。
とんでもない長い時間を経験したような記憶があるのだ。いや、記憶が埋め込まれたのか? お陰で目覚めた後は、普通に『原初の星』の言葉が喋れた。
具体的には長い時間会話をする映像が経験として埋め込まれたのだろう。
覚えたのはアレル語という言語らしい。
正確には時代や地域でバリエーションがあるのだが、百年前の『原初の星』における言葉を反映しているとのこと。さすが白球システムだな。
「ほとんど自由にアレル語が話せるわね。これでいつでも行けるわ」とメリス。
「ホントに、違和感ないのが凄い。なんか、別の人生を送ったような記憶があるし」とユリ。
「わらわは、生きていたより長い記憶があるのじゃ」とツウ姫。
確かにな。しかも、いろんな年齢の会話が入っている。爺さんとも違和感なく話せそうだ。
「でも、これホントに百年前の現地の言語と一致してるのかな?」とメリス。
「そうよね。行ってみたら全然違ってましたってことになると、大騒ぎになるわね」とユリ。
「そうよの。お忍びで調べてみたらどうじゃ?」とツウ姫。
なるほど。いきなり本番はないかもな。非公式に相手の内情を知っておいたほうがいいだろう。
「そうだな。じゃぁ、ちょっと覗いてみるか。服装も忍者モードでコピーすれば大丈夫だろう」
そんなわけで、俺たちはちょっと百年前の『原初の星』に行ってみることにした。
* * *
俺たちにとっては『原初の星』は未知の星だが、そうではない奴が仲間にいた。
そうハクである。ハクにとっては百年前の見慣れた風景であり勝手知ったる故郷の星でもある。ただし、記憶にあるだけだ。知性がなかった頃なので知り合いや友人がいるわけではないのが惜しい。
俺たちは、ハクから説明を受けつつ、タイムシフト分離の過去側の世界球を覗き込んだ。さすがに、いきなり転移できるほどハクも今の事情を把握している訳ではない。
そして、千里眼で覗いた俺たちは驚愕した。
上空から見た『原初の星』は俺たちが知っている未来の『原初の星』ではなかった。少なくとも砂漠のように枯れた荒野はどこにもなかった。
そこにあるのは途方もないほど水にあふれた星だった。
白い雲の下に、青く輝く海がどこまでも広がっている。それは全く違う星だった。この美しい星に何があったんだろう?
俺は背筋が凍る想いがした。
過去の『原初の星』は、未来の『原初の星』とは真逆の星だった。
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