第117話 共感遷移を学ぶ
多重世界連絡協議会で『原初の星救出作戦』が正式に承認された。
今回は星から逃げ出す前なので星ごと救出するという作戦だ。ただ、『原初の星』のレム、リム博士の提案とはいえ、神海三世界の承認も貰う必要がある。
もちろん、こうなってくると俺たちの手から完全に離れて上層部というか政治的な話になる。
つまり、多重世界連絡協議会と神海三世界とで協議して進めてもらう訳だ。
各世界との連携は多重世界通信があるので問題はない筈だが、そもそも参加する世界の認識を一致させるまでが大変だろう。
そんなわけで、実際に救出作戦が動き出す日程は未定である。
未定ではあるが、どうせいきなりやれとか言い出すのが上層部というものだ。やれることはやっておこうと思う。
とはいえ、既に共感エージェントになってしまった"優秀な俺たち"には、特にミッションらしいミッションは残っていない。
あとは共感エージェントのコマンドに慣れておくくらいで、もう準備万端である。いつでも出動可能だ。
無限回廊監視の仕事はあるのだが、これは支援隊の仕事だ。無限回廊調査は今は停止されている。
「暇なんだから、共感遷移について少し勉強しておいてもいいよな?」
もちろん、現在共感遷移は禁止されている。
特に無限回廊では絶対実行しないことになっている。世界球内の世界の未来ではなく無限回廊の未来を変えてしまう可能性があるからだ。
それはそれで利用価値があると思うが禁止されている以上やるつもりはない。ただ、『やらない』と『できない』の違いは大きいからな。知っておくのはいいことだと思う。
「共感遷移にはバディを選ぶ必要があるんだよな?」
俺は神海チームの神岡龍一・今宮麗華ペアと上条絹・夢野妖子ペアを教師として呼んで話を聞いていた。
神海意次・神海希美ペアが低温睡眠学習に入ってしまったので暇だった四人に声を掛けたのだ。
まぁ、名目上はお茶会なので場所は喫茶室なんだけど。
「そうです。以前にもお話したように仮眠状態で未来へ飛ぶ『バディ』を傍で見守る重要な役割です。高い信頼関係が無いと共感のバディは務まりません」と神岡龍一。
「なるほどね。特に女性が飛ぶ場合、全てを任せられる相手が必要よね」とメリス。
「ああ。そうだろうな」
「だから、恋人候補の私が適任よね?」とメリス。
「何言ってるの? 候補ではダメでしょ? 恋人の私が適任に決まってるじゃない」すかさず突っ込むユリ。
やっぱり、そう来るよな。恋人関係、進んでないけどな。
「無責任な関係はダメなのじゃ。やはり親公認であるわらわこそ適任なのじゃ」
そういえば確かに公認だった。なし崩し的に。てか、もう覚えてないだろうけど。
そんな話をしていると、興味深そうに聞いている外野もいる。やっぱり、喫茶室はまずかったか?
「とりあえず、共感が安定するかどうかは確認できるんだよな?」
「えっ? あ、そうですね。計測可能です」龍一はちょっと呆れている?
「じゃ、それで決めればいいんじゃないか?」
「そんなのだめよ」
「そうよ。もっと繊細な問題よ」
「相性というやつじゃの?」
「ううん、でも白球システムが判定する相性なんだけど」
「あ、そうか。恋人占いみたいなものね」とメリス。いや、それ違うだろ。
「なるほど。じゃ、試してみましょう」とユリ。
「恋の占いなのじゃ~」
なに俺、遊ばれてる?
で、結果から言うと三人共に高い数値が出てしまった。
ホントか? 白球の触媒足りてるか? てか、どうすんだこれ?
「やっぱり思った通りね。これは確かに運命なのよ」と妙に確信したメリス。
「運命は否定しないけど、これが機械の限界かもね。私はその上を行くし」とユリ。
「こうなると思ったのじゃ」とツウ姫。そうだっけ?
面白いことに、この四人はどの組み合わせでも高い数値が出るのだった。つまり全員と相性がいいらしい。確かにどの組み合わせでも問題なさそうだ。まぁ、それも予想通りとも言える。
「そういえば、レム、リム博士の場合は一緒に共感遷移してるんだな」
彼女たちの場合は、バディが一緒に未来に来ている。
「そうですね。そういうやり方もあるようですね」と神岡。
普通の共感遷移とレム、リムの方法は違うのか?
「恐らく共感遷移を繰り返すというタイムシフト分離に特有の方法なんでしょう」と上条絹。
「うん? どういうこと?」
「バディの状態を確認しながら、時間を少しずつずらして遷移していると思います」と上条。
あぁ、なるほど。確かにバディが未来へ行った後でさらに未来の遷移を見守るには自分も未来に行かなければならない訳か。やはり、普通の共感遷移と比べて特殊なことをしているようだ。
ともかく、まずは普通の共感遷移の勉強だ。俺たちのバディは決めないまま共感遷移の説明だけを聞くことにした。
彼らによると、共感遷移は未来へ飛ぶ者もそうだが受け入れる側も精神的に安定している必要があるとのことだった。つまり、安定している未来の自分に憑依する必要がある訳だ。
また、そういう時間を作れないと共感遷移は難しいようだ。確かに定期的に何もしない時間を作って過去から憑依を待つなんて、そうそう出来ることではない。
なるほど、道のりは遠そうだ。
「リュウには……というか私たちには難しいかもね」とメリス。
「確かにな」
「そうよね」とユリ。
「のじゃ」
そもそも、俺たちには共感遷移の適性が無いかも知れないと思った。
習慣的な生活を送っていたことが無い。まぁ、未来へ飛ぶのも難しいが、じっと見守るのも難しいだろう。未来で憑依を待つのはもっと難しい。思わず、このメンバーを見回してつくづく思うのだった。絶対、じっとしていられない。
「普通の世界球に行ったら試してみましょう」今宮麗華は言った。
言ってみただけかもしれない。やさしいな。
* * *
神海意次と神海希美の低温睡眠学習が終わり、神海チームは神海三世界の説得に向かった。
替わって俺たちが順に低温睡眠学習を受けることになった。
低温睡眠学習は二人ずつなので、バディでもないのに相手を誰にするかでちょっと揉めたのは言うまでもない。
仲よくしような。
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