第115話 世界に倣う
白球システムに強く依存した社会。
そんな社会から白球システムが消えたらどうなるか? それは目に見えている。
いや、彼らは俺たちとは違うかも知れない。神海一族のご先祖様だから簡単に崩壊したりしないのかも知れない。
だが、途方もないことになるんじゃないだろうか? 惑星規模でエネルギーと生産とサービスがストップするのだ。
大災害どころの話ではない。
そう考えると、じわじわと事の重大さが分かってきた。別世界に逃げ出したのも当然なのかも知れない。他の白球システムを知らない世界に倣うしかないという訳だ。
俺はぼうっと当時の『原初の星』の生活を想像してみたが、自分をその世界に置いて考えることが難しかった。それは、理想社会のようでもあるが、そんな社会があったとしても自分がそこでどうするのか考えられなかった。あまりにも想定外なのだ。
それにしても。
「これは、『復興』じゃなくて『救出』だな」
俺は、ふと思った。
「ああ、確かに。そうなるな」とホワン。
「そうだな」と神海意次。
「ええ、そうね」と神海希美。
復興と救出では、やることは全く違ってくる。それぞれに決意を固めるように言った。
* * *
必要なことは『原初の星』の"救出"だとわかったが、知れば知るほど"救出"の難しさが明らかになっていった。
過去に遡って巨星を回避する方法を伝えることはできる。
星から逃げ出さずに済むことは大きな前進だ。しかし、それだけでは解決したことにはならない。
白球システムの消失による『社会システムの崩壊』が新たな危機として彼らの前に立ち塞がった。
さすがに根耳に水である。
「ふむ。そうなると社会構造を全部変える必要がある訳か。これは大変な話だな」とホワン。
「そうだな。だが、やりがいはあるし俺たちにも十分出来ることだ」と神海意次。
「そうね。社会構造のことなら私たちが現在やってることを伝えるだけでいい筈。そう思うとなんとかなる気がします」と神海希美。
確かに、三世界に分散した神海一族は白球システムから独立して存続している。
別世界へ移った彼らは、その世界に倣って存続することが出来た。それは彼らの歴史であり遺産である。そしてそれは今、『原初の星』の人々に必要なことだった。
ただ、時間的猶予は百年ある。別世界に飛び出した神海三世界の場合に比べれば遥かに余裕があると言える。
神海一族は次第に明るい表情なった。ただ、レムとリムの表情は晴れない。
「それについてだが、別の問題があるかも知れないのだ」とレム。
「唯一の存在の神海一族が、過去の我らの星に関与できるのか不明なのだ」とリム。
ああ、確かに『ドッペルゲンガーがいると入れない』というような多重世界の法則はあるかも知れないな。それ以外にもあるかも知れない。
「それは、やってみるしかないだろ」
「うんっ、そうだな!」と意次。
「そ、そうですね。やってみましょう!」
一瞬ひるんだ希美だったが、気を取り直して言った。
「うんうん」と今宮麗華。
「やりましょう!」と夢野妖子。
ただし、神海意次や神岡龍一、上条絹など直系の子孫ではない者は心配そうな顔をしていた。
「物は試しなのだ」とレム。
「なせば成るなのだ」とリム。
子孫の言葉に、レム、リムも気を取り直したようだ。
「いや、現地人でドッペルゲンガーがいそうなレム、リム博士が一番ヤバいんだが」
「お前は何を言っているのだ? 我は十八歳なのだ! プンップンッなのだ」とレム。
「そうなのだ! 百年前に相似体がいる訳ないのだ! プンップンップンッなのだ」とリム。
「あっ。そうでした。ごめんなさい」
「分かればいいのだ。ふんふんなのだ」とレム。
「それでいいのだ。ふんふんふんなのだ」とリム。
それ、どういう意味なんでしょう? ハクの睡眠学習が少し心配になる俺だった。
* * *
会議の後、俺は白球システムを残したという種族のことが気になってハクに聞いてみた
「そういえば、ハクは遺産なんだよな? お前を作った種族ってどんな奴なんだ?」
「それは、私には分かりません。私が誕生したのは最近ですので」
ハクはすました顔でそんな言い方をした。まぁ、顔は変わらないから雰囲気だ。
「ん? あっ、そうか。自分で勝手に進化したから自意識を持ったのは最近なんだ」
「はい。ですから、私の体を作った種族については何も知りません」
まぁ、そう言えばそうか。体を作られたのを覚えている訳が無いよな。人間だって進化の過程を覚えてる訳じゃない。
ハクを作った人々の情報があれば何か突破口になるかもと思ったが無理なようだ。
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