第114話 原初の星-試練-

「我らの星は今、タイムシフト分離をしている。それは知っているな?」とレム。

「我らはそこからやって来たからな」とリム。


 神海一族は固唾を飲んで聞いている。


「も、もちろんです」と神海意次。

「はい、理解しています」と神海希美。


「本当にそうか?」とレム。

「忘れているものがあるのだ」とリム。


「忘れている?」と意次。

「なんでしょう?」と希美。


「分裂した、もうひとつの『原初の星』なのだ」とレム。

「過去にタイムシフトした『原初の星』なのだ」とリム。


 確かに忘れていた。

 っていうか、未来へ向かってタイムシフトした『原初の星』からはレム、リムが来たが、過去にタイムシフトした星からは誰も出て来ていない。何の役に立つんだろうか?


「過去の星、つまり浮遊巨星に遭遇する前の星ならば、住民は全員いるのだ」とレム。

「星から逃げ出さずにタイムシフト分離で回避すればいいのだ!」とリム。


「そ、それはそうでしょうが」と意次。

「彼らは何も知りません」と希美。


「だから、我らが行けばいいのだ」とレム。

「行って教えてやればいいのだ」とリム。


 一瞬、部屋が静まり返った。


「うおおおおおおおお~~~~~~~~っ」意次、歓喜の雄叫び。

「まぁ~っっっっっっっっ」と口を押えつつも大きく声が漏れてしまう希美。


「そうか! その手があったか!」とホワン。

「凄いです! そんな手が使えるなんて夢のようです!」とレジン。


「驚きました。それは、過去に行くことにもなりますね」とリジン。


 さすがに、別の視点で考えてるらしい。


「ん? 過去から未来へ来たレム、リム博士がさらなる過去へ行くのか」とルジン。


 うん、お前の気持ちはわかるぞルジン。俺も、なんだか目が回りそうな気がするよ。てか、そんな手が本当に使えるのか?


「ただし、問題はあるのだ」とレム。

「そうなのだ、詳しい事情は後で説明するのだ」とリム。


 やっぱり、問題はあるのか。

 そりゃそうだろうな。問題が無ければ初めからやってるだろう。

 だが、これは新しい道が切り開かれた瞬間だった。それだけでもう、みんな有頂天である。


「全員いる! そうだ! 全員だ! 一人残らずだ!」と意次。


 確認するように何度も同じことを言っている。


「誰も欠けないのね。ご先祖様が、そのまま救われるのね!」と希美。


 自分の事以上に喜び涙ぐんでいる。


「凄いっ。ああ、早くみんなに教えたい!」と今宮麗華。

「私のおばあちゃんの喜ぶ顔が見える」と夢野妖子。ホントに見えてそう。


 そして、そんな神海一族の様子を、俺達も大きな驚きで見ていた。


「さすがに、とんでもない事になって来たな」

「リュウが言うと、ほんとにとんでもないって気がするわ」とメリス。

「ホントよね。誰が言うより説得力があるわ」とユリ。

「ふっふっふ。二人は出来る奴なのじゃ」とツウ姫。


 レム、リムはツウ姫のお墨付きを貰った模様。


  *  *  *


 レム、リムがタイムシフト分離で再び未来に来たのは過去から逃げるためではなく、新たな方法にチャレンジするためだった。

 それは、タイムシフト分離の過去にシフトしている星を利用して、過去改変を行うという野心的なチャレンジだった。


 だが、当然そこには大きな問題があるのだった。


「もちろん、今の神海一族を救い出すことにはならない」とレム。

「過去改変による世界球分離を引き起こすからな」とリム。


 なるほど。今度の方法がうまく行けば確実に世界球が分離される。つまり過去改変のなかった世界の末裔である今の神海一族はそのままになるという訳だ。


「それは仕方ありません」と意次。

「問題ありません」と希美。


 今いる神海一族のメンバーに影響がないと聞いて、むしろ俺はほっとした。


「うむ。ただ、分離した世界のほうには問題があるのだ」とレム。

「これは、非常に大きな問題なのだ」とリム。


「分離した世界に問題?」と意次。

「なんでしょう?」と希美。


 レムとリムは互いに頷いてから続けた。

 普通に考えれば、危機が起こらない平穏な世界になると思えるが。


「実はな、白球システムが消えるのだ」とレム。なに~っ?

「分離した世界では白球システムが使えなくなるのだ」とリム。


 過去改変すれば世界球は分離するだろう。でも、なぜ白球システムが消えるのだろう?


「あのシステムは唯一の存在なのだ」とリム。

「遠い昔、外世界から来た唯一の存在の置き土産なのだ」とレム。


 な、なんだって~っ?


 レム、リムによって予想だにしなかったとんでもない事実が新たに明らかにされた。


  *  *  *


 レム、リム博士によると白球システムは自分たちが作り出したものではなく、別世界から来た民族が置いていったものなのだと言う。

 もし、『原初の星』で作られたものであれば過去から数多く分離して多くの世界球に存在していなくてはならない。

 しかし白球システムは、この多重世界にひとつしかない。バックアップを含めても二つだけなのだ。この事実こそが白球システムがこの多重世界で作られたものではないことを意味していた。


「なるほど。そうか、確かにな」とホワン。


 今更ながら納得したという顔だ。


「だとしても……」


 白球システムが唯一の存在で消えるのは分かった。だが、だからと言って何が問題なんだ?


「あの白球システムは唯一の存在である、そして我らはこのシステムに強く依存して生活していた。それも限界までなのだ」とレム。

「そう、我らはこのシステムなしには存続できないのだ。エネルギーも生産も消えてしまうのだ」とリム。


「エネルギーが消える?」

「そうなのだ。無尽蔵のエネルギー源として使っていたのだ」とレム。

「白球システムの周りに集中して住んでいたのだ」とリム。


「生産も消える?」

「一度作れば物理生成できるからな。生産設備など不要なのだ」とレム。

「好きなだけ出て来るので無駄がない。不要なら消せるのだ」とリム。


 ああ、物理生成機能を極限まで使っていたのか。確かにそれは凄い。いや、凄すぎる。


「他にも問題はあるのだ。『原初の星』にあるアンドロイドが消えるのだ」とレム。

「サービスを提供していたアンドロイドが消えるのだ」とリム。


「ハクみたいなアンドロイドがサービスを提供していたのか」


「そうなのだ。大量に使っていたのだ」とレム。

「人間は手間がかかるのだ」とリム。


 そこまで白球システムを使い込んでいたとは思わなかった。


 『原初の星』は、白球システムに特化した文明の星だったのだ。

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