第113話 原初の星-復興と限界-

 無限回廊調査隊本部の中央会議室は重苦しい空気で満たされていた。


 過去に戻って『原初の星』の復興に尽力していたレム、リムが実際に情報を持ってきたからだ。正確には情報をリンクしたのだが、実質的にはレム、リムが過去から戻ってきたとも言える。

 つまり、彼女たちが実際に過去の『原初の星』に戻って、復興のための活動をして来た訳だ。二人がどのようにして『原初の星』を復興しようとしたのか、そしてそこで何があったのか、その全てを把握している筈だ。


 彼女たちは、淡々とその『歴史』を語るのだった。


  *  *  *


 二人の話によると、『原初の星』復興には大きな障害が二つあったと言う。


 一つ目は、集団転移装置の成功率が低い事。

 二つ目は、神海三世界と神海一族との依存度が高かった事。

 

 一つ目の障害、集団転移装置の成功率が低いことは初めから分かっていた。

 浮遊巨星から逃げるためならば目をつむった成功率だが、復興は差し迫った危機ではない。当然、危機からの脱出に比べれば時間的余裕もある。となれば、当然成功率の向上を期待される。

 つまり、『原初の星』へ戻ることが可能だと分かった時点でゆっくりでもいいと考えるようになった。危険を冒すくらいなら復興を先延ばししてもいいと考えるようになったのだ。

 それは当然の反応ではあるが、そのため強制も出来ず効果的な移住には至らなかった。種の保存、存続に必要な人数を確保できなかった。


 二つ目の障害、神海三世界と神海一族との依存については当初より懸念されていた。

 三世界に旅立った彼等だったが、危機が去れば母星に戻るつもりだった。このため、極力別世界に依存しないように努力していた。

 依存度が低ければ神海一族が神海三世界から消えることに支障はない筈であった。少なくとも神海一族はそういう認識でいた。


 だが、その依存度は期待ほど低くなっていなかった。神海一族が依存していたというより他の国や民族が神海一族に依存してしまっていたのだ。

 直接取引は少なくても、神海一族はいつの間にか周辺の人々の基準となっていた。つまり文化的に依存するようになっていた。模範となる存在になってしまっていたのだ。

 彼らが母星へ撤退を始めた時、その事実は隠す必要があった。多重世界の別の星に移住するとは言えないからだ。

 すると、傍から見ると『先進国にも関わらず急速に人口が減る』という事態に見えてしまった。このため、周辺にパニックを引き起こしてしまったのだ。


「何度も移住を中断する必要があったのだ」とレム。

「説明することが出来なかったからなのだ」とリム。


「なんとか言い訳を考えては再度挑戦した」とレム。

「周辺国が忘れるような存在になるまで我慢したのだ」とリム。


「我らに技術的に依存しているような場合は、技術移転もしたのだ」とレム。

「他国へ移住したと偽装することまでやったのだ」とリム。


「それでも、三世界は急速な崩壊をしてしまった。文明とは脆いものなのだ」とレム。

「『原初の星』での人工授精による人口増加なども試してみたが十分ではなかった」とリム。


 しかも、これら二つの障害は互いに強め合う場合が多かった。


 レム、リムの報告を聞いて会議室は静まり返ってしまった。


  *  *  *


「昼食の時間なのだ~っ」とレム。

「デザートは、久々にケーキを食べるのだ!」とリム。


 会議室に二人の元気で場違いな声が響き渡った。

 この場の雰囲気を裏切るこのノリはなんなんだ? いや、元気なのはいいことだが、ケーキは確か昨日も食べてたよな?


 そう言えば、『原初の星』で過去の記憶を共有したんだったな。

 つまり、過去から戻ったレム、リムになったわけだ。復興中には旨いケーキは食べられなかっただろうから、『久しぶり』と言うのも間違いではない。

 それにしても、このノリはなんだ?


「あれ? 過去へ行って何年たったんだろう?」


「くだらないことを考えるな、なのだ」とレム。

「女の年を気にするのはロクデナシなのだ」とリム。おいっ。


 まぁ、ここにいる二人は肉体的には変化していない訳だしな。記憶を獲得しただけだ。ううん、どっちの人間なんだろう?


 沈痛な面持ちだった神海チームも、レム、リムを微妙な目で見ていた。


「お二方のような、何者にも負けない強い精神が必要なのでしょうね」と神海希美。

「さすがはご先祖様です」と今宮麗華。


 もちろん二人の顔には汗が。


「お主たちは何を言っているのだ?」とレム。

「まだまだ方法はあるのだ」とリム。


「えっ? 万策尽きて戻られたのでは?」と希美。

「そうです。やり尽くしたと言っていました」と麗華。


「もちろんなのだ。やり尽くしたのだ」とリム。

「そうなのだ、それでも戻ってやることはあるのだ」とリム。


 なんだって~っ?


 神海チームも俺たちも何を聞いたのか判断できず、微妙な雰囲気で食事を取るのだった。


  *  *  *


 午後の中央会議室は妙な熱気に包まれていた。


「これから、やることがあるとはどういう事ですか?」と神海意次。


 身を乗り出してレム、リムに食いついている。


「そうです、ご先祖様。それは、私たちにも出来ることがあるってことでしょうか?」と今宮麗華。彼女も紅潮した顔で言った。


「待つのだ。説明するから落ち着くのだ」とレム。

「とりあえず、食後のお茶を所望するのだ」とリム。


 仕方なく、みんなでお茶を配り両博士の説明を待った。

 そして、ゆっくりとお茶を堪能したレム、リムはおもむろに説明を始めた。


「お主たちは、我らが過去から逃げて来たと思ったのか?」と不思議そうなレム。

「我らは、逃げているのではないのだ。攻めているのだ」と胸を張るリム。


 何を攻めてるんだろう?

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