第112話 過去からの共感メッセージ
タイムシフト遷移室でしばらく待っているとレム、リムが入った低温睡眠カプセルが戻ってきた。
「リンク完了なのだ」とレム。
「情報は受け取ったのだ」とリム。
どうも、過去に戻ったレム、リムの経験を低温睡眠学習で取得して来たようだ。
つまり世界球スーパーノヴァに至る事情を全て知った訳だ。
低温睡眠学習、恐るべし。まぁ、俺たちも共感能力を訓練しているから使えるようになるそうだがちょっと怖い。
それにしても、低温睡眠カプセルからレム、リムの相似体が出てこなくてよかった。まぁ、同一人物なので無理だとは思っていたが。
「うそっ。タイムシフト分離するたびに増殖するかもってビクビクしてたでしょ」とメリス。
「おまえな~っ。でも、ちょっと怖かっただろ? 無限に増殖する人間を想像したら」
「ふふふっ」と、ちょっと引きつった顔のユリ。
神海チームも黙ってはいたが同じように思っていたようで小さく頷いていた。
まぁ、こんな心配もレム、リムがイリーガルなことをしたからなんだが。普通に過去に戻ってれば、こんな心配をする必要はなかった。
「何を言っているのだ? そんな訳ないのだ」とリム。
「そうなのだ、物質は増えないのだ」とレム。
レム、リムによって『無限に増殖する人間』は否定された。
それはそうだよな。白球の物理生成機能というのがあるが、あれは物質そのものを無から生み出している訳ではないそうだ。必要な成分を転移しているだけなのだという。つまり転移技術の応用なのだ。
本当に物質を生成するとしたら膨大なエネルギーが必要になる。そんなことは、たとえ白球システムといっても簡単にできることではないらしい。
そんなわけで俺は本当にほっとした。
帰りに寄った『創造者の白球ステーション』のマリ王女たちは、何故かがっかりしていたが。
まぁ、彼女たちはもう等価体を経験してるから平気なのかも知れない。むしろ、仲間が増えるのを期待していたのかも。
* * *
無限回廊調査隊本部でも、もちろん皆が結果を待ちわびていた。
さすがに、転移室の出口でホワンが待ち構えていたのには驚いたが。
「ぎょっとするから転移室の前で待つのは止めてくれよ」
転移室を出ていきなりホワンに出くわした俺の身にもなってくれ。
「すまんすまん。だが、人数だけでもすぐに確認したかったんだ!」
ホワンは済まなそうに言った。ちょっと汗をかいているか?
そういえば、転移室の前には内部の映像が映し出されている。
誰が転移して来たのか外部から分かるようになっている訳だ。場合によってはドアを開けないことも可能だ。
ホワンは部屋の前で、このモニター画面を見ていたようだ。中央作戦室からでも映像は確認できるんだがな。
「同じメンバーで、とりあえず安心したぞ」とホワン。
「そうか? タイムシフト遷移室のカプセルは空だった」
たぶん、ホワンの聞きたいことを予想して教えてやった。
「そ、そうか。良かった」
ホワンは安堵するように言った。やっぱりか。
「たぶん、レム、リムが転移した時刻になるとカプセルから消えるんだろうな」
「う、うん。そうだろうな。当然だよな」
ホワンは、自信なさそうに言った。
「そうか? 俺はむしろ、タイムシフト遷移室のカプセルからどうやって消えるのか気になるけどな」
それを聞いたホワンは、ぎょっとした顔をして固まった。
「み、見たのか?」
ホワンは、ゆっくりと言った。
「何を?」
俺はちょっと面白いから、答えを引き伸ばしてみた。
「だから、カプセルの中から消えるところだ」
そんなもの見てどうするんだろ? たぶん普通の転移と同じだと思うが。
「いや、カプセルの中なんてプールの中だから見えないよ。時刻も過ぎてるし」
それを聞いて、ホワンは安心したようだ。少しがっかりしたか?
「そ、そうか。まぁいい。全く、お前ときたら」
そう言って中央会議室に向かう通路を歩きだした。
「いやいや、別に何も起こってないだろ?」
後からみんなでぞろぞろついていく。
「そうだが、今の視点は考えてなかった」
なるほど。
「そう言えば、タイムシフト解除したあとは、あの世界にレム、リムはいなかった訳だけど。世界として物質がマイナスになってることを記憶してるのかな?」
すると、またぎょっとした顔で立ち止まる。
「すまんが、問題発言は会議室についてからにしてくれないか?」
問題発言なのか? てか、会議室についてからならいいのか? たぶんもっと驚くことになると思うが。てか、それはラム、レムにお任せだけど。
「分かった。善処する」
俺は、普通に無駄話をしてるだけだ。ホワンは過敏になってるだけだろうな。
俺たちだって、世界から出てきてるのを忘れてるだろ!
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