第105話 レムとリム
「報告します。驚天動地です。千年経過しているとは思いませんでした!」とレム。
「報告します。予想外の展開に混乱しています。まさか、このような影響が出るとは。新しい研究テーマです」とリム。
帰りの長い通路で、この世界のことを話したら思いっきり驚かれた。
やっぱり予想外だったんだ。彼女たちは今は百年後だと思っていたらしい。確かにシステム的には百年しか経っていないからな。
それと、どうも彼女たちは共感エージェントであると同時に研究者らしかった。
その後、俺たちは創造者であり神海一族の祖先で『原初の星』の住民であったレム、リムの二人を連れ、『創造者の白球ステーション』経由で無限回廊調査隊本部まで戻った。
白球ハイウェイなので、もちろん一瞬である。
* * *
「報告します。あなたたちは転移システムに住んでいるのですね。驚きました」
レムは転移室に到着すると珍しいものを見たという顔で言った。どうも想定外な使い方のようだ。
「これは、まずいのか?」と聞いてみた。
「回答します。それでいいなら問題ありません」
「まだ、住み始めたばかりだけどね」とメリス。
「そう。結構、行ったり来たりしてたしね」とユリ。
「それでも、彼方此方の世界へ行けるから便利なのじゃ」とツウ姫。
「報告します。なるほど。好奇心旺盛な民族なのですね」とリム。
メディカルチェックを抜けて俺たちは二人を会議室へと案内した。
「ここで多重世界の研究をすれば、自分たちの世界に影響しないから都合がいいんです」
俺は、ここにいる正直な理由を話した。
「質問します。世界球の存在確率への影響を心配しているのでしょうか?」とレム。
「うん。そうなんだ」
「告知します。一度世界球を離れてしまえば、その人は世界球の分離には影響しなくなります。ただし、他の人に情報を伝える場合は別です」とレム。
「やっぱり、そういうことか」
創造者から、はっきり言ってもらうと安心できる。確かに、所属不明になるからな。
「それは朗報だな。これで、自分の世界に戻っても問題ないわけだ」
「情報の漏洩だけは注意しないと駄目ですね」と神岡。そうだな。
俺たちは会議室のテーブルに付いた。
調査隊本部の会議室は大きい。さすがに調査隊本部の職員全員を集めるのは無理だが、主要メンバーにレムとリムを紹介するにはちょうど良かった。
テーブルを見ると、調査隊本部長の世界ゼロのホワン、調査隊副本部長の世界Lのホワン、予報局のマナブ、支援隊のレジン隊長とルジン副隊長、調査隊のリジンが来ていた。
「じゃ、いいか? まずは紹介しよう。創造者であり『原初の星』の住民、レムさん、リムさんだ。見ての通り双子だそうだ。年齢は十八歳とのこと」
まぁ、プラス百年だけど、そこは不問だな。低温睡眠の場合は、どうカウントするのか分からんし。
「報告します。共感エージェントでありタイムシフト理論を提案したレムです。よろしく」
「報告します。共感エージェントでありタイムシフト現象を発見したリムです。よろしく」
なに~っ? 専門家も専門家! 発見した本人たちかよ。って、十八でそんな研究出来るのか? この二人、とんでもない人たちかも。
いきなり会議室がどよめいた。
千年前の人間がいるだけで驚きなのに、おまけに天才科学者だった。『時を〇ける天才科学少女』だよ。しかも双子だよ。
神海チームのメンバーは『創造者の白球ステーション』で挨拶は済ませているのだが、さすがにタイムシフト現象の第一人者だとは知らなかったわけで一緒に驚いていた。
「じ、自己紹介ありがとうございます。今からお二人を博士と呼ばせてもらいます」と世界ゼロのホワンが気を取り直して応えた。
レムとリムは軽く頷いた。
「それで、お二人は、この無限回廊の情報を収集すると聞きましたが、どのような情報を求められていますか? 我々は可能な限り協力したいと思っています」とホワン。
「告知します。私たちの本来の目的は、浮遊恒星の影響など周辺宙域の調査でした」とレム。
「告知します。他世界の調査等は含まれていませんでした」とリム。
「なるほど。そうでしょうね」とホワン。
「告知します。しかし、タイムシフト分離の新しい現象を確認しましたので、私たちはこの現象の調査を優先したいと思います」
「告知します。同時に千年後の未来が私たちにとって有益かどうかを調べたいと思います」
「分かりました。私たちに出来ることがあれば遠慮なく仰ってください」
そうホワンが言うとレムとリムは互いに見合って少し会話しているようだった。どうも、共感通信を使っているようだ。
「告知します。私たちと共に行動してくれる人間の手配をお願いします」
「報告します。出来れば覚醒シーケンスを再実行してくれた人たちを希望します」
「分かりました。それは問題ありません。では、他に必要なものがありましたら、彼らに言ってください」
「告知します。協力に感謝します」とレム。
「質問します。あなたたちから要請はありますか?」とリム。
「ありがとうございます。それでしたら、こちらからもタイムシフト分離の理論的解説をお願いしたいのですが」とホワン。
「回答します。タイムシフト理論を提供します」とレム。
「回答します。必要ならば低温睡眠装置の情報も提供します」とリム。
「はい。是非お願いします」と満足そうなホワン。
「では、それについては私たちが教えを乞うことにしましょう。何日か時間を取って貰えますか?」とリジン。
「回答します。了承しました」とレム。
「回答します。快諾しました」とリム。
どうやら、ルジン、レジン、リジンのお三方で話を聞くようだ。
この人たちにお願いするしかないだろう。もちろん神海チームからは今宮信二も参加するとのこと。俺は聞いても無駄なので止めた。
それから、この無限回廊調査隊本部側のメンバー紹介などをして、お開きとなった。
* * *
レム、リムの紹介後は歓迎パーティーが開かれた。
「しかし、若くして偉大な研究者とは恐れ入りました。ずいぶん進んだ社会だったんでしょうね」と世界ゼロのホワン。
「回答します。幼少期より低温睡眠教育を受けています。主に知識の使い方の訓練です。単なる知識はリンクするだけで完了します」とリム。
どうも、外部ストレージとリンクしているようだ。俺たちが記憶のために費やしてる長い時間は必要ないって訳だ。それだけでも驚異だ。
「回答します。脳内にリンクする必要もない知識も多々あります」
「なるほど。ただ、詰め込めばいいというものではない訳ですね」
「回答します。使わない知識は、むしろ害悪です」
「回答します。正しく評価されていない情報も障害です」
なるほど。この二人と付き合うのは大変かもなぁ。あぁでも、一か月は俺たちがサポートするんだった。大丈夫かな。
まぁ、小間使いに徹するとしよう。
「これから一か月よろしくお願いします」
俺が心配そうな顔をしていたら神岡龍一が来て言った。
「こちらこそよろしく。あのおふたりの登場で、この無限回廊はガラッと変わりそうですね」
「そうですね。ちょっと怖い気もします」と神岡。
「それは、タイムシフト分離が完了していないからですか?」
「そうですね。融合した後、どうなるのか心配です。特におふたりは」と神岡は元気に歓談しているレム、リムを見る。
「ああ、そうか。『原初の星』では全員が外の世界に行ってしまったんですよね」
「ええ。でも、問題は回避された訳だから戻そうとするんじゃないかな?」
神岡は、レムとリムを眺めながら言った。
「なるほど。ということは歴史が変わるのか?」
「そうなりますね。世界球が分離することは確かでしょう」
「ということは、今の君たちとは別にタイムシフト分離が完了した君たちが生まれるのかな?」
「それはどうでしょう? 私たちは唯一の存在なので」と神岡。
「ああ。なるほど。ご先祖さんが『原初の星』に戻ってみんなを戻したら、皆さんはここには来ませんよね?」
「早速、タイムパラドックスに陥りそうですね」
神岡は、ちょっと遠い目をして言った。
もしかすると、神海チームは此処に来ないことになるのかも知れないと思った。
俺たちだけで覚醒させたことになるんだろうか? そんなことあるのか? ここにいる俺たちが分離することは出来ないと思う。とすると、俺たちが何かを勘違いしているのか? あるいは知らない何かが起こるのか?
「せめて、この料理をたくさん食べておきましょう」
そういって、神岡は気に入った料理の皿を取った。
俺は、もうすぐ見ることになりそうな全く新しい世界に思いを馳せると何も味がしなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます