第106話 未来の休日

 それから三日間、レム、リム両博士の講義が始まった。

 もちろん、聞くのはルジン、レジン、リジンの三人を始めとした空間転移の研究者たちだ。

 俺は談話室で昼食後のコーヒーを飲んでいた。


「メリスたちは聞かなくていいのか?」

「半日聞いたけど無理だった」とメリス。

「うん、全然分からない」とユリ。


「俺たちも聞いてみたが諦めた」と神岡龍一。

「でも、上条さんはまだ頑張ってるよ」と今宮麗華。

「そうです。私たちのチームで唯一の希望です」と夢野妖子。


「今宮信二さんもいるじゃん」

「ああ。あの人は神海一族中央研究所のホープですから別格です」と夢野。

「やっぱり、みんな凄いメンバーなんだな」

「ビビるのじゃ」とツウ姫。本当か?


「そう言えば、後で情報収集の手伝いをする予定だけど大丈夫かなぁ?」

「そうよね。お三方に任せたほうが安心なんじゃないかなぁ?」とメリス。

「重要な情報を漏らしちゃうか心配? 大丈夫よ、そんなに賢くないから」とユリ。


「賢くないから大丈夫なのかよ」

「まぁ、確かにそうね。逆に気楽でいいかも」とメリス。

「意外と科学技術以外のことが重要かもよ? いわゆる常識になってることとか」

「そうですね! 当たり前すぎて気づかないで教えちゃうとか」と麗華。

「でも、それなら誰がやっても教えちゃいます」と夢野。

「それはそうか」と麗華。


「そういう文化的なことは、逆に知ってもらったほうがいいかもよ。文化的に価値のある民族として認識してもらうほうがいいかも」

「ああ、なるほど。言えてますね!」と神岡。

「おいしい料理とか?」と麗華。

「うん、それいいね」

「おいしい紅茶とか」と夢野。

「そうそう。そういうこと」


 実際、夢野の紅茶は旨いしな。


「香辛料で戦争することもあるんだから食文化の価値は高い」

「そうか!」とメリス。

「そうね」とユリ。

「料理は人を幸せにしますからね!」と麗華。

「味覚は一度覚えると忘れないのじゃ」とツウ姫。確かに。


 まぁ、一か月で覚えるかどうかは知らないが。


  *  *  *


 レム、リム両博士の講義が終わって、いよいよ俺たちがサポートする日になった。

 俺たちは転移室で二人を待っていた。


「どうでもいいけど、この人数が必要なのかな?」

「レム、リム両博士が指定して来たんだから、そうなんじゃない?」とメリス。


 そんなことを言っていたら、レムとリムが現れた。


「「おはよ~っ」」


 あれ?


「どうしたのだ?」とレム。

「今日はいい天気なのだ!」


 無限回廊の天気は確率天気だけどな!


「その話し方」

「ふふ。これは、私的な場合の話し方なのだ。公式とは違うのだ」とレム。

「やっぱり、驚くのだな。これだけ違うとな」とリム。


 どうも、自分たちでも自覚はあるらしい。


「博士。『原初の星』では、公式にはああいう話し方するんですか?」

「リュウだったか? もう普通に話していいぞ」とレム。

「そうだ。博士とか言わなくていいのだ」とリム。

「あっ、うん。分かった」


「もう、公式ではないのだ。記録も取ってないし」とレム。

「そう。ただの個人だから全然平気なのだ」とリム。うん? 情報収集は?

「じゃ、みんなで遊びに行くのだ~!」とレム。

「みんなで遊ぶのだっ!」とリム。


「「「「「「「「ええええ~~~~~~~っ?」」」」」」」」


 どうも、俺たちと一緒に遊びたくて公務みたいな言い方をしただけだったようだ。

 まぁ、博士とはいえ十八歳の女子だからな。天才だって遊びたいよな? でも、天才は普通の遊びをするんだろうか? てか、時代も星も違うから、どう遊ぶのか全く分からん。


 とりあえず今の世界の女子の遊びを紹介するということで、世界ゼロをメリスとユリが案内することにした。俺たちいらないんじゃね? と思ったのは神岡も同じらしい。ただの用心棒だと納得して付いていく二人だった。


  *  *  *


 で、まずはショッピングだそうだ。

 さすがにスペーススーツは防護スーツに変えた。これなら、服装モードがあるので街を歩いても可笑しくない。


 ショッピングの後は普通に遊んだ。

 遊園地を廻ったり、劇場行ったり、スイーツを食べたり、空を飛んだり、海に潜ったりって、これは普通じゃないか。まぁ、とにかく空を飛べるので世界中を遊び回ったのだった。


「ああ、面白かったのだ~っ」とレム。

「この世界は、三ツ星なのだ~っ」とリム。


 何それ。多重世界ガイドブックでも作る気か? あれ? そういうのアリなのか? まぁ、白球システムがあるからなぁ。でも、千年前の人たちだよな。帰ってから、同じようなもの流行らせるのか? 謎だ。


「毎日、別の世界球を訪問しそうだな」

「うん、当然するのだ!」とレム。

「もちろんなのだ!」とリム。

「まじか」

「まじですか」と神岡。


「そりゃそうなのだ。一か月しかないのだ。三十日なのだ。二度と来れないのだ~っ!」とレム。

「そうなのだ。行きたいけどいけないじゃなくて、絶対いけないっていうのが大きいのだ~っ」とリム。


「それは、そうですね」

「確かに」と神岡。

「しかも、千年未来なのだ。もう、面白くって仕方ないのだ」

「そうそう。千年前に行った世界とは、また違うのだ」


 あ~っ、このふたり、千年前の世界も飛び回っていたらしい。研究してたんじゃないの? 謎だ。


  *  *  *


 というわけでレムとリムの多重世界行脚が始まった。

 何これ。どう見てもバケーションだよね? まぁ、でも世界を救った天才少女だもん、このくらい許されるよな? ちょっとしたご褒美だよな? 

 もう、こうなったら俺たちも一緒に遊んでしまおう。よく考えたら、元々そういう予定だったじゃん俺。いつの間にか真面目に働いてるし。

 ってことで、それからは二人に付き合って気兼ねなく遊ぶことにした。


  *  *  *


「お土産を持って帰れないのが残念なのだ~っ」とレム。

「そうそう。だから食べまくるのだ~っ」とリム。


 確かにタイムシフトを解除して戻るのは記憶だけだからな。


「あの、レシピを持って帰るという方法もありますが」

「あっ、そうか! 食べても過去に戻るから平気なんだ!」とメリスが気が付く。

「うわっ。ずる~いっ」とユリ。


 誰も聞いてないし。


「ふっふっふ。食べ放題なのだ~っ。究極のダイエットなのだ~っ。しかも戻れば若返るのだ~っ」とレム。


 もちろん共感解除で百年前に戻るんだから若返るんだろうけど、それ以上に若返るのか? そう言えば、そんなこと言ってたよな。あれってタイムシフト分離でも有効なのか? 十八歳が若返ると何歳になるんだ?


「タイムシフト遷移のこれが正しい使い方なのだ~っ」とリム。


 レム・リム博士たちが怪しいことを言い出した。

 まさか若返りのために、この理論組み立ててないよな? まぁ、それはそれで面白いけど。

 タイムシフト・ダイエットとかタイムシフト・アンチエイジングとか? あ~でも、『未来でバケーションして若くなろう!』とかあったら人気出そう。てか、それ絶対流行るだろう! 食って遊んで若くなるんだよ? 世界が変わるじゃん、これ。どうすんの?


 若返りはともかく、そんな訳で一か月なんて、あっという間に過ぎていくのだった。

 てか、アンチエイジングって十八歳の博士が考えることじゃないか。

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