第101話 ガニメデ・シアノバクテリア
「お、お前ら。千年前の人間を蘇らせるっていうのか?!」
無限回廊調査隊本部に戻って報告をしたら、ホワンが予想通りの反応をした。
「正しくは百年前らしい」
「そ、その話も、よく分からんぞ! どういうことだ?」とホワン。
君、君、落ち着き給え。コーヒーでもどうだ?
「まさに、驚くべき話だ! もちろん、この上ない朗報だ! これで全てが上手くいく可能性が出て来た」と神海チームの隊長、神海意次も鼻息が荒い。
「さすがに、ご先祖様が生きていたなんて、びっくりしたわね~っ」と神海希美の頬もちょっと紅潮してる。
「しかし、『原初の星』の百年が無限回廊の千年とは。エネルギーモジュールの触媒が枯渇する訳です」これは今宮信二だ。
さすがに考えてることがちょっと違う。てか、何の話だ?
「そうなんですか?」俺はピンと来なかった。
「ええ。今回の共感遷移では十年単位で未来へと意識を飛ばしました。しかし、無限回廊では百年単位で時間が経過していた訳です。つまり白球システムの維持に通常の十倍のエネルギーを消費していた筈です」と今宮。
「ああ、白球システムのエネルギー源は『原初の星』にしかないからか」
「そういう事です。恐らく二度目の遷移を終えた頃には触媒の大半を消費してしまっていた思われます」と今宮。
「ううむ。その状況で白球システムが稼働出来たことのほうが奇跡だな」とホワン。
「確かにそうですね。場合によっては異常な振る舞いもあったかも知れませんね」と今宮。
「そりゃ、スタンバイモードにもなるよな」
「そうですね。言い伝えによるとタイムシフト分離してすぐに転移出来なくなったようです。想定以上にエネルギーをロスした可能性すらあります」と今宮。
「当時は転移を多用していたでしょうしね」と神岡。
「そうですね」
なるほど。三つの世界に分散したばかりでは、俺たち以上に転移を使っていても不思議はない。
「タイムシフト遷移が完了しなかったのも、そのエネルギー不足が原因なのかな?」
「回答します。タイムシフト研究所のアンドロイドの報告によると、覚醒シーケンスに移れなかったとの事です」
「そこまで、枯渇してたのか。あ、もしかしてエマージェンシーモードが原因か?」
俺たちが白球システムに負荷をかけたことは確かだろうな。
「それでも、触媒は追加したんだから。覚醒シーケンスを実行出来るんじゃないのか?」とホワン。
「回答します。覚醒シーケンスの再実行を許可する必要があります」
「許可? 誰の許可だ?」とホワン。
なんだかヤバそうな雰囲気が出てきた。
「回答します。再実行キーが必要です」
「再実行キーって、なんだ? 誰が持ってるんだ?」ホワンは、意次を見た。意次は首を振った。
「回答します。再実行キーは『ガニメデ・シアノバクテリア』です」とハク。
そう来たか!
「なんだそれ? そんなもの持ってないぞ」と神海意次。
「そうね。そんな話は初めて聞いたわね」と神海希美。
「ご先祖様の古文書にもありませんね」と今宮信二。
「神海三世界にあるんじゃないのか?」と神岡。
「そ、そうよね。でも、今から探しに行くの?」と今宮麗華。
「キーじゃ、作るわけにも行かないわね」と上条絹。
「それ、なんですか?」と夢野妖子。
そんな、慌てる神海一族を見つつ、ホワンがぽそっと言った。
「なぁ、リュウ。もしかして、知ってるんじゃないか?」
「奇遇だな、ホワン。俺もそんな気がする」
「露天風呂関係だよな」とホワン。
「ガニメデの盃と言ってくれ」
「つまり、アレだな?」とホワン。
「ああ。多分、アレだ。だよなレジン」
「私に聞きますか」
微妙に、仲間になりたくないという顔のレジン。ふっふっふっ。仲間だから。逃がさないから。
「だって、あのバクテリアを見つけたのレジンだし。封止したのもレジンだし」
「敷石にしたのはあなたです」とレジン。
「いや、そっちはもう終わったし。キーはバクテリアのほうだし」
そんな俺たちの会話を聞いた神海意次が、怪訝な顔で聞く。
「知ってるのか? 露天風呂? 何のことだ?」
神海チームが全員こっちを見た。ちょっと居たたまれない。誰か話してやってくれ。俺は遠慮したい。
「よくわからないが、なんでもいいから知ってるなら教えてくれ。その再実行キーは、どこにあるんだ?」と必死な形相で俺に詰め寄る意次。近い近い近い! なんで俺に!
「し、知ってるというか」
「知ってるというか?」と意次。
「も、持っている、かも」
「な、なんだって~っ!」意次、眼を大きく見開いて言った。
そりゃ、驚くよな。うん。そうだとも。君は正しい。
「いや、ガニメデに転移した時にな……ま、詳細は省くが持っている。詳細は聞かないのが身のためだ」
「良く分からんが持っているんだな?」と意次。
「あ~っ、ハクよ。ガニメデ・シアノバクテリアって少量でいいんだよな?」俺はハクに向かって聞いた。
「回答します。もちろん再実行キーですので量は必要ありません」
「うん。大丈夫だ」
「本当か! うぉ~っ! やった~っ!」と意次。
「やりましたね! これで、夢が叶います!」と今宮信二。
「ほんとにホントなのね~? す、凄いわ!」と神海希美。
「やったなー! リュウ!」とホワン。ちょっと棒読み。
「ああー、そうだな~! ホワン」俺も棒読み。
こうして、多少チームに温度差はあるが、なんとかタイムシフト遷移を完了出来そうなことが分かった。
まぁ、終わり良ければ総て良しだ。
大喜びの神海チームを見つつ、ふと思い出したことがあった。
「なあ、ハクよ」
ピポッ
それって、「はい」の意味なのか?
「俺が確率風で飛ばされて、エマージェンシーモードになったとか言ってたよな?」
「回答します。リュウさんが飛ばされた時は既にエマージェンシーモードになっていました」とハク。
「そうなのか? なんだ、俺のせいでタイムシフト遷移が停止したのか心配したぞ」
「報告します。エマージェンシーモードになったのは世界球Fの転移実験の時が最初です。以降、適切な形で転移をサポートしています」
「なるほど。ん? 適切な? あ~、それって、俺の転移もサポートしたのか?」
「回答します。希望の転移先への転移をサポートしました。希望がない場合は、なるべく最適な世界球へ転移するようにしました」
「お前が決めてたのかよ!」
「そ、そういうことだったのね!」とメリス。
「そうか! やっと分かったわ!」とユリ。
「なるほどのぉ。つまり、そなたがリュウをわらわのところへ連れて来てくれたのじゃな!」
「回答します。転移が始まってからのサポートなので、確率風が強いときは最適とは言えませんでした」とハク。
「そうなのか? 確かに、突然転移するからな。でも、もっと早く教えて欲しかったな!」
「でも、転移が始まってからのサポートで、あれほど適切に転移させたのは見事です」とレジン。
「お褒めにあずかり、光栄です」とハク。
あれ? この応え方、ハクにしては珍しいな。進化してるのか?
「ん? ちょっと待て。じゃ、俺たちをガニメデに送ったのは触媒や再実行キーのためか?」
「回答します。それは単なる偶然です。あくまで存在確率が適合しただけです」とハク。
「ほんとかなぁ?」とメリス。
「怪しいよね。『計画通り」とか言って裏で笑ってたりして」とユリ。
「ふっふっふ。ハク、お主も悪よのぉ」
「ほんとに暗躍してそう」
ハクの思惑は知らないが、覚醒シーケンス中断の原因がエネルギー枯渇なら俺たちにも責任はあるだろう。何としても覚醒させてやろうと思った。
こうして俺たちは翌日、停止しているタイムシフト覚醒シーケンスを再開させることにした。
つまり『創造者の世界球』を融合させる訳だ。ただ、通常の融合現象は確認しているが、今回はタイムシフト分離という今まで経験のない世界球の融合だ。一波乱あるかもしれない。当然、慎重に進める必要があるだろう。
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