第99話 無限回廊を司る者

 翌日、俺たち『原初の星探検隊』は転移室に集まっていた。


「一人多いんだが」


 一応、道先案内も含めてチームリーダーとなった俺が言った。


「どちら様?」とメリス。

「知らない」とユリ。

「のじゃ」とツウ姫。

「そうですね。誰でしょうか?」と神岡隆一。

「誰かしら?」と今宮麗華。

「どう見てもアンドロイドだけど」と上条絹。どこか、嬉しそう。

「怖い」上条絹とは対照的なバディの夢野妖子。


 そこには、元々はメタリックシルバーだったようだが、かなりくすんだ色になった小型アンドロイドがいた。

 背丈は子供よりは大きいが女性としては小さめといったところだ。顔は人間を模しているが全体に扁平で、カメラがついていそうな眼と鼻があるくらいだ。口に至っては筋があるだけだった。一応発声装置は付いているようだ。


「回答します。私はハク。白球システムの管理プログラムにして、マンマシンインターフェースも兼ねたアンドロイドです」


「何それ。いつの間に」

「回答します。最初から存在しています。ただ、最初に使ったのは監視装置の多重世界通信機で会話した時です。通信機のボタンを押す必要がありましたので」


「「「「あっ」」」」


 つまりあの時、この「ハク」というアンドロイドと話していたことになる。


「でも、なんで出てきたんだ?」

「回答します。神海チームは共感エージェントですので直接私と会話出来ますが、リュウチームは多重世界通信機経由になります。このため、安全を考慮して同行することにしました」


「そうか? 通信機を使っても困らないとは思うけど?」

「回答します。私が一緒にいれば、この転移室から直接『原初の星』へ転移可能です」


「なんだって~っ!」

「す、凄い」とメリス。

「まじ?」とユリ。

「なんでも、アリじゃのぉ」とツウ姫。

「それは、いい!」と隆一。

「便利ね!」と麗華。

「優秀ね!」と絹。

「怖い」と妖子。


 夢野妖子の見解は変わらない模様。意外と頑固かも?

 まぁ、何れにしても、強い味方なのは確かだ。


「いいだろう。白球システムなら問題ない」そう言って皆を見た。皆、異存はないらしい。

「じゃ、ハク。『原初の星』への転移を頼む!」そう、言ってみた。


「質問します。『原初の星』のどこに転移しましょうか?」

「あっ? そうだな。タイムシフト分離を引き起こした施設を知っているか?」

「回答します。それは、タイムシフト研究所です」


「それでいいか?」そのものズバリな名前の研究所だが、一応神海チームに確認した。


「はい。それでいいと思います」神岡隆一は他の神海チームのメンバーと頷き合ってから答えた。


「よし、じゃ、タイムシフト研究所に転移してくれ」

「了解しました。では、タイムシフト研究所に最も近い転移室に向かいます。カウントダウン開始。百二十秒前!」


「おい」

「はい?」とハク。

「そんなに待てるか! カウント十からにしろ!」

「了解しました。カウント十、九、……転移!」


 俺たちは、無限回廊調査隊本部の転移室から、いきなり『原初の星』に転移した。もちろんそこは俺たちの知らない場所だった。


  *  *  *


「ここは、なんだ?」


 俺たちは、暗くて広いドーム状の広場のようなところへ出現した。


「回答します。ここは、集団転移装置の集団転移場です」

「なにっ! これが集団転移装置か!」


 いきなり凄いところに転移させるなぁ!


「ここなんだ! 確かに集団で転移するには、これくらい広さが必要だよね」とメリス。

「ドーム球場くらいありそう」とユリ。

「大仏殿より大きいのじゃ」とツウ姫。

「いきなり、重要施設を見つけたな~!」と神岡隆一。

「ちょっと、不気味ね」と今宮麗華。


 確かに天井が高く、黒っぽい壁が不気味だった。


「壁は何で出来ているのかな?」上条絹は技術的な興味が先行しているらしい。

「ちょっと黴臭くさい」と夢野妖子。確かに。


「ここには、良く来るのか?」俺は聞いてみた。

「回答します。ここは白球システムのメンテナンスで来るだけです。特に管理はしていません」とハク。


 管理対象外なのか? とりあえず空気の成分は問題ないようだった。それにしても、ハクは白球システムのメンテナンス用アンドロイドだったんだな。確かに、こういうアンドロイドが必要になるだろうとは思う。


「では、タイムシフト研究所に向かいます。こちらです」


 そう言ってハクは俺たちの先導を始めた。


「そうか、ハクがいれば俺たちは不要だったな」思わず俺は言った。ちょっと拍子抜けだ。

「案内役としては、そうよね。でも、貴重な情報を持って帰る役はあるわよ」

「そうそう。情報を見つけ出す役だよ」とユリ。

「なのじゃ」とツウ姫。


 だが、明るい通路に出てからが長かった。一体どこまで行くのかと思った。


「なぁ、ハク。まだ到着しないのか?」

「回答します。この施設の内部は転移出来ない構造なので歩く必要があります。タイムシフト研究所は、あの転移場からしか出入り出来ません」


 なるほど。セキュリティが万全な訳だ。誰もいないのに。ほかにも出入口がありそうなものだが今は使えないのかも知れない。千年前の施設だからな。それにしては、まともだ。

 そういえば、今は俺たちしかいないが誰かが来る可能性はあるのか? もしかすると、すんなり通路に入れたのはハクがいたからか? 迷路になってるとかドアが開かないとかあるんだろうか。


「タイムシフト研究所は集団転移場に隣接した施設です」ハクは歩きながら、それだけ言った。まぁ、隣ならいいだろう。


 歩いていて暇だったので創造者である神海一族の言語について、神海チームに聞いてみた。白球システムのマニュアルをそのまま読めるなら便利だからな。


「残念ながら、当時の言語は失われてしまいました」今宮麗華が答えた。


 彼女は純粋な神海一族らしい。夢野妖子も神海一族だとのこと。神岡隆一と上条絹は違うらしい。ということは彼らの言う古文書とは書き写したものなのだろうか?


 タイムシフト研究所は、確かに隣だった。ただし、集団転移施設が巨大過ぎた。それから、三十分くらい歩いただろうか。

 明らかに後から作られたと分かる施設の入口に到着した。外部の道に出ないところをみると、ここは地下施設なのかも知れない。窓が全くなかった。


「報告します。ここがタイムシフト研究所です」振り返ってハクが言った。

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