第98話 唯一の存在

 神海一族との会談の最後に、実際に『創造者の世界』を訪れるメンバーを決めた。


原初の星探検隊

 調査隊チーム

  リュウ、メリス、ユリ、藤原ツウ

 神海チーム

  神岡龍一、今宮麗華、上条絹、夢野妖子


 二チーム八名の構成だが、それぞれのチームは全く違う性格を持っていた。

 まず、調査隊チームはもちろん防護スーツを着用している。しかし、神海チームは普通の服装である。前回、『創造者の世界』を調査した限りでは普通の服装でも問題ない筈だが、脆弱であることは確かだ。


 いっぽう、神海チームは全員共感エージェントという転移能力者だ。だが、俺たち調査隊チームにそんな能力はない。

 俺たちは多重世界通信機で白球と会話すれば転移可能だが、共感エージェントは共感通信というもので直接白球と接続して転移することが出来るらしい。つまり両チームは同等とも言えるのだが、いざとなったら彼らは瞬時に転移で脱出することが出来るところが違う。

 もちろん、俺たちも転移トリガーを使えるが無限回廊の状況により制限が掛かる。あるいは白球に頼めば同様に転移出来るのかも知れないが緊急時には差が出て来るだろう。


 防御力の調査隊チームと逃げ足の神海チームといったところか。両者の特徴を上手く使えば、優れたチームなるかもしれない。


  *  *  *


 夕食後は自由時間だ。

 談話室では各自思い思いに過ごしていた。探検隊の派遣は明日からなので、今夜はゆっくりすることにした。


「共感エージェントはペアになってるようだけど、どういう理由なんですか?」と俺は気になっていたことを聞いてみた。


「ああ、『共感遷移』の時に必要になるんです。未来へ意識を飛ばしている時は寝ているようなものなのでバディが見守っているんです」と神岡隆一が説明した。

「隆一は、いつも未来に飛んでたから、殆ど私が見守ってたけどね」と今宮麗華。


「未来へ飛ぶなんて、ちょっとわくわくするけど危険もあるんでしょう? タイムパラドックスとか起こらないんですか?」

「ええ、当然危険は付き物です。というか、過去改変になるんですが、やり過ぎると世界から弾き出されたりするので大変なんです」と神岡。


 あっさり言われると普通のことのようだが、よく考えるととんでもない話だった。


 まぁでも、実のところ俺たちは経験済みなのかも知れない。


「もしかすると、以前弾き出されたかも知れない」

「弾き出されたことが、あるんですか?」さすがに、神岡は驚いて聞き返した。


「まぁ、空間転移実験の影響だと思うので、単純に世界から弾き出されたとは言えないかも知れないんだが」

「でも、意識しないで気が付くと別世界なんでしょう? 考えられない!」と上条絹。

「私、怖すぎて眠れない」と夢野妖子。

「それを、リュウさんだけじゃなく、皆さんも経験してるんですね?」と今宮麗華が驚く。


「そうなのよ。いきなり、空の上で目覚めたときはびびったわ」とメリス。

「そうそう。メリスが助けに来てくれたと思ったのに、一緒に落ちててがっかりしたんだよな」

「それは、お互い様」

「信じられない経験してますね」と神岡。


「未来へ飛んで、毎回過去改変したら世界がバンバン分離しそうだけどな」


「そんな事はありません。恐らく、この世界球は複数の可能性が重なったミニ多重世界なんだと思います。雲のようになっているのが、その確率の揺らぎということです」と今宮信二が世界球を解説してくれた。


「あ、なるほど。世界球一つが複数の世界を含む多重世界なんだ」俺は、ちょっと驚いた。

「おそらく。『共感遷移』で未来へ行っても、普通は同じ世界の中で存在確率が変化するだけだと考えています」と今宮。


「なるほど。つまり、共感エージェントはその揺らぎの範囲で活動するんですか? あまり変わらないように思いますが、そんなリスクを取る必要はあるんでしょうか?」


「はい。一つの世界球には複数の世界を含んでいるんですが、私たちはその中の一つにしか住めない体なので」今宮はいきなり、怪しい話をした。


「私たちは、別の世界球から移って来たので、この世界の揺らぎに含まれないんです。ですから自分たちの世界を一つ選ぶ必要があります」と今宮。


 そうなのか? 全然わからん。


「別の世界から転移するとそうなるのなら、私たちもそうなんでしょうか?」とレジン。


「はい、おそらく、そうなっていると思います」と今宮。

「なるほど。多重世界の研究者が全員無限回廊に移って、世界球色が減色しましたが、そんな事情があったんですね!」とレジン。


「ああ、世界の存在確率から切り離されたってことか」俺も納得した。

「それって、元の世界に戻れば、元通りになるんですか?」


 ちょっと、気になるな。


「分かりません。そうなることを期待はしていますが。しかも、私たちの場合は長く離れていただけではありませんので簡単ではないでしょう。私たちは別の世界で生まれましたから」と今宮。


 なるほど、難しい存在になっているのかもな。現地人と混血もしているだろうし。


「ああ、そう言えば、他の世界から持ってきた物は、その世界の存在確率を継承していますね。それと関係あるのかな?」


「そうなのですか? それは、初耳です。興味深いですね」と今宮。新たな研究テーマを見つけたようだ。

「当然、関係してるでしょうね」とレジン。


「確かに。でも、その後世界には影響しないわけだし、離れた時の状態を覚えてるだけなのかな?」

「そうかも知れませんね」とレジン。

「面白い」と今宮は言って何かメモを取っていた。


 この日は、遅くまで談話室で盛り上がってしまった。まぁ、明日の派遣は道案内だけだからな! 大きな波乱はないだろう。

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