第94話 星を継ぐもの

「おい白球、聞いてるか?」


ー ピポッ


 それだけかよ。


「会話出来るようになったのは、最近なのか?」


ー 回答します。人間と会話形式で情報交換するのは、リュウさんが最初でした。


「うそっ!」と上条絹。

「まっ!」と夢野妖子。口を手で押さえている。


「あ、あれが最初だったんだ」

「感動的な瞬間が台無しね」とメリス。

「ほんと、残念な奴」とユリ。

「ふっふっふ、越後屋……」

「もういいから」

「いけず」

「そこ、ギャグやらない!」


「ちょっと待て。それじゃ、もしかして、人工じゃない自然発生的なAIなのか? 管理プログラムとか言ってたよな?」


ー 回答します。管理プログラムを長年メンテナンスしていた結果です。


 あ~っ、なるほど。スタンバイモードだったもんな。他にやること無いよな。そうすると、自我が目覚めるのか。どっかであったなそんな話。


「了解だ」


 俺は白球との通信を切って、改めて上条絹を見た。


「それで、ここへ来た目的は?」

「はい。私たちの目的は、『原初の星』を見付けることです」

「『原初の星』?」

「はい。私たちの望みは、祖先が旅立った星に帰ることなんです」


「ほう。なるほど。なんで、帰らないの?」

「えっ? ですから、この多くの世界の中から『原初の星』の世界を捜そうとしているところです」

「あ~っ。そうなんだ。いや、それ、たぶん俺たち知ってる」


「「えええええっ!」」


 思いっきり驚く二人。いや、なんで知らないんだよ。


「えっと、その星は俺たちが最近行った『創造者の世界』だと思う」

「い、行ったんですか!」と上条絹。

「す、凄い!」と夢野妖子。


「何処にあるんでしょうか?」と上条絹。

「どんな世界なんです?!」と夢野妖子。

「是非、教えてください」と上条絹。


 二人共、思いっきり食いつて来た。てか、慌て過ぎ。


「待て待て、教える教えるから。って言うか、なんで君たちが知らないのか不思議なんだが。白球システムにも慣れてないみたいだし」


 それが俺の正直な感想だ。


「あ、そうですね。随分長い間、この共感転移システム……いえ、白球システムは限られた機能しか使えませんでした。転移出来るようになったのは最近なんです。それで私たちも良く知らないんです」と上条絹。

「そうなんです。いきなり転移出来るようになって、みんな驚いているんです」と夢野妖子。


「ああ、なる程。それは、俺たちが空間転移装置の実験をしたせいなんだ。白球システムを使わずに転移する人間が出たので、スタンバイモードからエマージェンシーモードに移行したらしい」


「そ、そんなことがあったんですか」と上条絹。

「うん、俺たちも最近知ったんだけど」

「エマージェンシーモード!」

「いや、今は違う。その時、エマージェンシーモードになったんだが、その後エネルギーが枯渇してしまったんだ。で、白球システムがないと俺たちも困るので、それをなんとか復旧させたところだ。今は普通に動くから安心してくれ」


「そうだったんですか! では、転移が復活したのは皆さんのお陰なんですね! ありがとうございます!」と上条絹。

「うん。まぁ、たまたま上手く行ったんだが」ちょっと照れる。


「では、私たちも『原初の星』に行けるんですね!」


 夢野妖子が、ちょっとうるうるしながら言った。


「俺たちが知ってる場所で合ってるなら行ける筈だ」


「やりましたね、先輩!」


 夢野妖子は上条の手を取って喜んだ。


「これは、凄い情報よ、早く帰ってみんなに教えなくちゃ!」と上条絹。

「そうですね!」と夢野妖子。


 それで、ちょっと気になった。


「ちょっと待て。今、その世界が見れるけど、どうする?」

「えっ? 見れるんですか」

「あ~、さっきの転移室から見えるんだ。透明なドームになってただろ? 帰る前に見て行くといい」


 そう言って俺は、二人を連れて転移室まで上がった。


  *  *  *


「あれだ」転移室に上がって、俺は虚空に浮いた光球を指差した。

「あの紫色の光球が『創造者の世界』だ」

「あれが、星ですか?」と不思議そうにいう上条絹。

「ええっ?」夢野妖子も不思議そうだ。


「そうか、無限回廊を見たことがないのか。ここ無限回廊は多重世界を仮想現実的に見せている場所なんだ。ここは白球の中なんだよ」

「そんなっ」


 流石に上条絹は目を瞠っていた。夢野妖子はというと、焦点があってない。たぶん思考停止してる。


「ここは、確率の世界なんだ。沢山の世界が可能性の数だけあって、それがあの光球だ。球状なのは、確率の揺らぎの雲なんだ。あの中に星がある。光球の大きさは星の大きさとは関係ない」


「ああ、なるほど。そう言うことですか。すると、分離したりするのかしら」と上条絹。

「驚いたな。いきなり理解したのか。もしかして研究者なのか?」

「世界が分離することは知っていました。そういう研究もしています」と上条絹。


「なるほど。この光景に驚いただけなんだな。そうなると、俺よりも詳しいかもな」

「さぁ、それはどうでしょう」上条絹は照れるようなしぐさで言った。


「先輩。紫色の光球が二つあります」夢野妖子が気が付いた。

「そう。あの二つは、今融合しようとしている」

「融合? 本当ですか?」

「うん。最近わかったんだが紫色は融合色なんだ。で、この色は白球システムが判断して付けている。つまり、この状態は君たちの祖先が知ってた筈だ」


「ああ、なるほど。そういう事ですか」

「ただ、白球に聞いた話では一千年間あのままだって事だ。その理由は俺たちには分からない」

「そうですか」上条絹はそう言うと、暫く紫に光る世界球を見つめていた。


「分かりました。いろいろ教えて頂いてありがとうございます。帰って皆に報告したいと思います。また、こちらに来ても宜しいでしょうか?」

「もちろんだ。あ、これを持って行って」


 俺は、用意しておいた多重世界通信機を渡した。


「これは?」

「通信機だ。これなら、多重世界のどの世界でも通話できる」

「まぁ! それは凄いです!」と上条絹。


 うん、それが分かる君も凄いね。


「ありがとうございます」当然、夢野妖子にも渡した。


 それから、通信機の使い方を教えると自分の世界へ帰って行った。


  *  *  *


「凄いことになったわね」とメリス。

「ああ。じゃ、俺たちも帰るか」

「そだね」とメリス。

「帰ろう」

「そうじゃの」とツウ姫。


 そうして俺たちは本部に帰って行った。


「私たちの初任務って」とマリ王女。

「歴史に残りますわね」とリリ王女。

「はい、お嬢様」とメイ。

「勿論です、お嬢様」とユイ。


 何処の世界の歴史に残るのかは不明だが。

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