縫い包み

仲村 嘉高

縫い包み師




 チクチクと、運針縫いで布をつぐ。

 バラバラだった布が、少しずつ形になっていく。


 顔を作って、耳を作って、腕、足、胴体。

 今日の子は熊だから、尻尾は無し。

 色は可愛くピンク。

 依頼主の希望。

 明るい色の依頼は珍しいので、ちょっと嬉しい。

 いや、意外と白も多いか……でも、可愛い色では無いよね。


 今回は、手の平にサイズ。


 さてと、全部縫い終わったから中身を詰め……多いな。

 手の平サイズなのに、中に詰める詰め物が異様に多い。

 少ない時は綿とか足せば済むけど、多い時はとにかく無理矢理詰め込むしかない。


 全部れないと意味が無いから。


「あ〜、依頼がピンク色だったし、若い女の子のかな〜。だから髪の毛長いのかな〜」

 ちょっと茶色に染めてある髪は、今時の女の子っぽい。


 長い髪の毛をグルグルと棒に巻き、熊の中へ入れて棒だけ引き抜き、小さいぬいぐるみに押し込む。

 ひたすらそれを繰り返す。

 段々とぬいぐるみが固くなってきてしまった。

 パンパンに膨らんだ手足に、顔に胴体。

 中身が漏れ出ないように気を付けながら封をして、胴体に頭と手足を縫い付ける。


 顔は無い。


 出来上がったぬいぐるみを前に、手を合わせる。

「のぞみ通りに作りました。どうかおつかいください」

 しゅとなえると、ぬいぐるみがフルリと揺れて、立ち上がった。



 顔が浮かぶ。

 ぬいぐるみらしい可愛い顔だが、瞳の色が青いのは、やはり今時の女の子っぽいな。


 2歩歩いて振り返った熊は、手を振って挨拶をしてから、消えた。


 あの大きさだと、捨てても捨てても戻って来る、とかかな。

 首を絞めたり、鼻や口を塞いだりは出来ないだろう。




 出来上がりに満足して見送っていたら、後ろでドサリと音がした。

 作業台の上に、依頼箱が落ちてきたようだ。


「今回は大きいな」

 箱を開ける。

「うぎゃあっ!」

 ビックリした……まだ心臓がバクバクしてる。

 箱の中には、ぬいぐるみの材料の布と詰め物の……頭が入っていた。


 怖っ怖ぁっ!

 呪には体の一部が必要だけど!

 依頼主は皆、死人しびとだけど!

 …………余程の怨みが有るんだろうなぁ、この人。


 頭が入るほどのぬいぐるみかぁ、頑張ろう。



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縫い包み 仲村 嘉高 @y_nakamura

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