二つのぬいぐるみ
ろくろわ
古いぬいぐるみの想い出
我が家の棚の上には、まだ新しい猫のぬいぐるみと古ぼけた全く同じ猫のぬいぐるみがある。
何故、同じ猫のぬいぐるみが二つもあって、その一つだけが古ぼけているのか。
答えてしまえば簡単な事だが、家族と行った旅行先に妹が猫のぬいぐるみを持って行き無くしてしまった。その時の落ち込みようは酷いもので、余りにも気の毒に思った親が全く同じ猫のぬいぐるみを見つけて買ってきてたのだ。
だが妹は「それは違う」と
結局、猫のぬいぐるみは宿泊先のロビーに置き忘れていたと連絡があり、無事妹の元へ帰ってきた。
僕はずっと新しいぬいぐるみの方がいいのにと思っていたが、妹は思い入れのある帰ってきた猫のぬいぐるみばかりを可愛がっていた。
だから我が家には二つ、新しいままの猫のぬいぐるみとずっと可愛がられて古くなった同じ猫のぬいぐるみがあるのだ。
ーそんな事をボタンを押す直前に思い出し、僕は妹の身体を新しい機体に移し変える作業を止めた。
今なら妹が新しい猫のぬいぐるみを受け入れなかった理由が分かる。
姿や形が全く一緒でも、そこには過ごした時間や想い出が無いのだ。妹の身体を新しい機体にして記憶データを移行してもそれは妹ではないのだ。
新しい機体へのデータ移行を取り止め、僕は妹が目を覚ますのを待つのであった。
そんな様子を宇宙ステーションから観察するグループがいた。
お世話ロボットや兵器型ロボット等の技術が進み感情の無い「人類を滅ぼす事に特化したロボット」が反乱を起こしてしまった結果、地球に人類の住める場所は無くなってしまった。
宇宙へと避難した人類は考えた。そして感情の無いロボットに勝つ為、ロボット達に感情を学ばせる作戦に出た。その結果、偽物の想い出を学んだロボット達は少しずつ人類と同じような考えや行動を取り始めてきた。
人類とロボットの対話の日もそう遠くはないだろう。
了
二つのぬいぐるみ ろくろわ @sakiyomiroku
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
人見知り、人を知る/ろくろわ
★57 エッセイ・ノンフィクション 完結済 1話
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます