ゆいおっぷ(1)
広いドーム球場に大観衆が詰めかけている。この試合は武蔵クリッパーズのリーグ優勝がかかった大一番である。
マウンドに立つ武蔵クリッパーズのピッチャー種市孝介は、対戦相手の瀬戸内グリズリーズのバッターである福田和彦の姿を見据えていた。 一対一の同点で迎えた9回裏2死満塁という場面。グリズリーズは一打サヨナラのチャンス。
種市は大きく振りかぶった。
第1球は外角低めカーブ。見逃し。ストライク。スタンドから歓喜と落胆の入り混じった声が響く。
一塁側武蔵クリッパーズのベンチから、チームメイトがグラウンドに乗り出している。
第2球。いきなりストレート。ど真ん中。しかし、福田は空振り。2ストライク。球場の歓声がより一層大きくなってきた。
あと、一球。一球で勝負が決まる。
その時だった。
一塁側ベンチから突然、ヘッドコーチの広松が巨大なマグロの乗ったワゴンを押してマウンドまで走ってきた。ツヤツヤのマグロの体が、ドーム球場の照明の光を照り返している。
球場内のざわめきが大きくなった。
ついに来たか。この試合の一番の見せ場が。
種市はマウンド上にやってきたマグロを見つめた。このマグロなら間違いない。いける。
広松は1メートルほどの巨大なマグロ解体用の包丁を種市に差し出した。種市はグラブをはめていない右手でマグロ解体用の包丁を受け取った。
「ここで勝負が決まる。頼んだぞ」
広松はそう言ってマウンドを去っていった。
種市はマグロ解体用の包丁を脇に挟んで、グラブをマウンドに投げ捨てた。そして、包丁を握り直すと、刃をワゴンの上のマグロの中へ入れた。
種市は鮮やかな包丁さばきでマグロをおろしていった…。
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