第13話 美咲その2

「今の風景は、知ってる。覚えてる」

 美咲の言葉を待たなくても、航にも美咲の心が伝わってきた。


 ちょっと待って、美咲は姫じゃなかった、しかし、あの星で生まれている。どういうことだろう。

「そうだったんだ、思い出した。ツバイ兄さん、私がわからない?」

 

 え、美咲は今何と言った?

 兄さんと言ったような、ということは妹の生まれ変わり、俺には妹がいたという小尾Tなのか。


「兄さんは、もしかしてまったく思い出せていないの? 私、リュイだよ。双子の妹だった」

 航は驚くと同時に、正直胸をなでおろした、調子に乗って手を出していたら……、妹とそういうことをしたことになってしまう。


「よかった。これで兄さんとエッチしても。ずっと好きだったんだよ。でも兄妹だったから」

 美咲は航の思いとは真逆のことを言った。

「何いっての、妹とできるわけないだろ、まったく。からかうのもたいがいにしろ」

「今は血がつながってないから。いいじゃない」


 美咲はあっけらかんと言った。理屈はそうだ、でも。

「昔の関係を言う? じゃあ、逆に航のお姉さん、朋さんが姫の生まれ変わりだったらどうすんの。やっちゃっていいというの。無理でしょ、今の関係で考えてよ」


 まったく思いつきもしないことだった。朋というのは航の三歳上の姉で、今は大学生で一人暮らしをしている。確かにその可能性はないわけじゃなかったのだ。

「キサムさんはそこまで言わなかった?まったくあの人はそういうところが」

 キサムは先生の前世の名前だ、ということは。


「うん思い出した、兄さんの、うーん言いづらい、航がさっき見せてくれた映像で全部思い出した」

 そういうことなのだ、おそらく中土井も同じ光景を見た。そして、わからないままにも、姫とツバイの関係だけを直観的に理解したのにちがいない。


「中土井と違って、私は姫と航のことがあってもできるよ」

 美咲はそういうとスエットの裾に手をかけた、脱ぐ気満点らしい。

「待てって、それはうれしいけどさ、こっちだって心の準備ってもんがあるだろう」

「何言ってんの、いつも頭の中はやりたいばっかりの癖に」


 航はぐうの音も出なかった、確かにそれは言えていたからだ。

「そうだけど、美咲のこと、いや違うリュイの話を聞かせろよ、やるのはそれからでもいいだろう。たぶん先生も知ってるんだろ、俺だけ知らないのは嫌だ」


 そうかもね、話したら、してくれる? 美咲はそういうとベッドの上に座りなおした。問題はスウェットを脱いでしまってパンいち、ということだ。目のやり場に困が、まあ悪い光景ではない。


「兄さんが死んでから王国はちょっとした騒動になったんだ」


 神殿につかえる巫女が護衛の将校と心中したのだ。ツバルの家族は連帯責任ということで捕縛されたらしい。

 取り分け神官の怒りはすざましく、神の怒りを抑えるためにツバルの家族全員をいけにえにすると言い出した。


「わかる、兄さんのしたことで私まで殺されることになったんだから、怖かったんだから」

 美咲は、その時のことを思い出したもいだしたのだろう。話しながらも顔が恐怖に歪んでいる。神殿の前に膝まづかされ、首をはねられることになったのだという。


 航は言葉がなかった、前世とは言え自分のしたことで美咲をはじめ家族が殺されたのだ。

「あ、死んでないから。王が止めてくださったの、たぶんヘルムが無理やり引っ張ったのだろうと。王は姫の性格をよくご存じだから、罪はあれを巫女に選んだ私にあると」


 美咲は、航の落ち込んだ表情に、何か留飲を下げたようだ。くすくす笑った。

「よかった、そうなのか、早く言えよ。罪悪感持っただろうが」

 本当によかった。美咲にからかわれた感はあっても心からそう思った。あやうく寝ざめが悪くなるところだった。


 でもそうなると神官の怒りはどうなったんだ

 なんで美咲まで生まれ変わったんだ。









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