第12話 美咲

 美咲と航は幼稚園の時からの友達だ。家が近かったこともあって、手をつないで登園していた。そのまま小中高とずっと同じ学校にいる。

 つまり一番近い異性だったはずなのに、彼氏彼女の関係にはならなかった。そばに居すぎるとそういうこともある、といつか直人が言っていた。


「一般論でいうと、津村に惚れてる、ということになるよね」

 先生の言葉が航を悩ましていた。

『家に行ってもいいか』

『いいよ、誰もいないから』


 美咲の両親はともに公務員だけれど、世間でいうほど暇なわけではなく、子供のころから遊びに行っている航でもほとんど顔を見ることはなかった。

 それもあって美咲のメールを読むまでもなく、彼女が一人であることは想像がついていた。


 あえてそれを言うということは……、航は考えることをやめた。どうせなるようにしかならないのだ。


「待ってた、入ったら鍵閉めてね」

 インターホンから聞こえた美咲の声は、いつもと変わらない。何となく安心したものの、鍵を閉めてという言葉が航の心臓を早くした。


「上がってきて」

 美咲は自分の部屋にいるらしい、階段の上から声がした。

 実は航の家も美咲の家も建売で、間取りはほぼ同じ。

 目をつぶっても歩けるというとオーバーだけど、聞かなくとも美咲の部屋はわかる


 部屋のドアを開けたとたんに、航はひっくり返りそうになった。

「私の体、中土井に比べてどう、そそらない?」

 美咲は全裸で待っていた。


 胸は、美咲の方が、そんなことを一瞬でも思った自分を航は腹立たしく思った。

「なにしてんだよ、とりあえず服着ろよ」

 航は手近なところにあったスウェットの上下を美咲に投げた。その拍子に何か白いものが床に落ちた。


 確認するまでもなく美咲のパンツだった。要するに航が投げたスエットは今の今まで美咲が来ていたものに違いなかった。

「ばか、すけべ」


 美咲は拾い上げようとする航の手から、パンツをひったくった。全裸は見せれてもパンツは恥ずかしいのか、航はやっぱり女の子はわからないと思う。


「中土井とは何回やったの」

 航は美咲が服を着ている間、背を向けていが、美咲の問いについ振り返りかけた。

「見るな馬鹿」

「言ってよ、何回やったの? 好きなの、彼女が」

「一回だけ、好きだ、、った。かな。よくわかんない」


 わずかな沈黙の後に、美咲が後ろから抱きついてきた。

「じゃ、私は二回して」

「愛してなんて言わないから、ずっと航のこと好きだったのに、なんで」

 明らかに泣いているのがわかる声だった。


「ごめん、気づかなかった」

 航も美咲は好きだった、でもそれは友達としてだと思っていた。

「な、大事な話がある。それを聞いてもらわないと、美咲とできない」

「なに、どういうこと」


 航は姫との話をすることに決めていた。でもその前に確かめたいことがあった。

「右の胸触らせてくれ」

「え?」

 美咲は両手で胸を隠した。

「なんで、揉み心地で決めるの、変態」

「違う、これから話す話を信じてもらうにはそうするしかないんだ、頼む俺を信じて胸を触らせてくれ」


 真剣に頼めば頼むほど、変態度が増すな。それぐらいのことを考える余裕はまだあった。姫なら話は簡単、違えば、また自分に惚れてくれる女の子をなくすことになる。そう思うと悲しくもあった。


「わかった、はい、どうぞ」

 航の態度に美咲は何か感じるものがあったのかもしれない、胸を隠していた手をどけた。


 ちょっとばかりおどけた態度はきっと恥ずかしいのだろう。処女の女の子がお男性に胸を触らすのは、いろいろな感情がまじりあうのだろう。


 航の手が美咲の柔らかい肌に触れた瞬間、映像が見えた。










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