第11話 どうして知ってるの

『中土井さんとやったでしょ』

 一限目が終わったとたんに、航のスマホには美咲からのメールが着信した。


 メールということは他人に聞かれたくないということだろう、たしかにみんなに聞かれても困る。

 航は振り向いて美咲の席を見たが、彼女はいなかった。周囲を見たがどうやら教室にはいないようだ。


『何で知ってる』

 思わず返信してから航はしまったと思った、肯定したも同然だ。

『見てりゃわかる、ばか』


 言葉を探しているうちに、休み時間が終わってしまったが、美咲は教室に戻ってこなかった。

「なんか調子が悪いって、早引けするって言ってました」

 久野はどうしたという教師の質問に、美咲の友人が返答した。航の高校は単位さえ足りていればあまり面倒なことを言わない。航も気分でさぼることはたまにある。


 でも、あさイチで見たときは、いつもながらの美咲だった。つまりはさぼりかと思う。しかしその理由は、どう考えてもさっきのメールということになりそうだ。


 中土井とは、いつもどおりのというより、もともと教室では会話なんかしていなかった。そんなことをすれば周囲がうるさいに決まっている。


 このところ航と中土井は一緒に登校していた。もちろん、たまたま会った風を装っていた。それが今朝はいつもの時間に彼女はいなかった。教室で目を合わすこともなかった。


「どうしてばれたのかわかりません」

 昼休みに航は校舎の屋上にいた、もちろん先生と話をするためだ。

「うれしがって、へらへら彼女を見てたりしてたんじゃないの」


「そんなことしてませんって、第一、中土井は微妙に」

「君を避けてるか、だろうなあ、悲しい思いしたくないもんね、普通」


 何となく先生の物言いも辛らつに感じる。

「もしかして先生も妬いてます?」

 瞬間的に先生の目が黄色に変わった、ヤバい。


「冗談です、冗談ですって」

「今度言ったら殺すからね」

 うわ、マジにしか聞こえない。しかし、なんで自分がこんな目にと思うと、いささか納得ができない。航は頭を抱えそうになった。


「何言ってんの、あんなかわいい子とやれたんでしょ、あきらめなさい」

 すこしばかり機嫌は直ったみたいだ、言い方が柔らかくなった。

「問題は久野ね、もしかしたら彼女が、うーん、違うと思うけど」


 どういうことだ、聞きかけて航には閃くものがあった。

「美咲が、姫、ということですか」

 確かに彼女とは、言葉を必要とせずに分かり合える部分がある。

 困ったときや悩んだ時に、お互いに声をかけることが昔からよくあった。

 しかしそれは幼馴染だからだと航は思っていた。


「家に行ってみたら、触ってくれば簡単にわかるじゃない」

 先生は気楽に言う、彼女にとって目的は航と姫を結び付けるだけ、あとはどうでもいいのだろう。

「ほかにどうすればいいわけ? ぱっと探せればこんな苦労してないって」

 先生は切れ気味に答えた。この件について、頼るのは無理そうだと航はあきらめた。


「もしかしたら、いいや、考えすぎかもしれないから、気にしないで行っといで」

 何か航は知らない秘密があるのかもしれない。

 それを先生は隠している、どうも歯切れが悪い。

「わかりました、行ってみます」

 航は先生を屋上に残して早々に教室に戻った。










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