第9話 初めての

「待って、自分で脱ぐから後ろ向いてて」

 中土井は大胆なことを言った。見せたい、わけじゃないと思う。


 キスをしながら片手で服を脱がすなどという高等技術を、航に期待はできないと思ったのだろう。

 自分の手で脱がしたい、そんな気もするけれど、もたつくよねきっと。航は中土井に背を向けベッドサイドに腰を掛けた。


 女の子が服を脱ぐ姿、見たい、見たい、見たい。けど、そんなことをして嫌われたら……。意識を集中すると振り返らなくても、中土井が何をしているかがわかるような気がする。


 ファスナーの音はスカートを脱いでいるはずだ。ごそごそしているのは服をたたんでいるのだろう。想像するだけで下半身の一部が膨らんでいく。


「いいよ、こっち向いて、あ、待って。津村君も脱いでよ、私だけ裸なんてやだ」

 いわれてみればその通りだけど、じっと見るのはやめてほしい、男でも見られているのはやっぱり恥ずかしい。


 そんなことを考えている心とは無関係に心臓はどんどん血液を送り込んでいる。


 えい、という気合で恥ずかしさを吹っ飛ばし、素っ裸になった航。中土井の顔が赤く火照ったように見える。

 その眼が自分の下半身をとらえたのを航は感じた。ほんの少しだけ、彼女の顔に浮かんだ表情は怯えかもしれない。


「来て」


 恥ずかしさの裏返しかもしれない。中土井は両手を広げおどけて見せた。

  正直これからどうすればいいのかわからない。本能のままに抱きしめた彼女の体は熱く、やわらかい。ショートの髪の毛からは何かはわからないが、とにかくいい香りがした。


 今まで見た本やネットで見た十八禁の動画、友人たちとの馬鹿話、この時のために山のように知識は仕入れていた。でもそんなものは全部吹っ飛んでいた。

 本能のままにだった。


 およそ失敗をすべてやった王な気がする。それでも中土井は我慢して協力してくれた。


そのとき中土井は一瞬身体を固くし、航の背中にまわした手に力を込めた。



 終わった後も二人は体を重ねたままだった。というより中土井が航を離さなかった。

「ね、もう一回いい」

 抱き合っているうちに航はあっという間に回復した。先生からもらったコンドームはまだまだある。


「右の胸、触ってくれなかった」

 中土井は恨めしそうな顔を見せた。

「左だけじゃ不公平だ、今度は右も」


 つまりはもう一回のお許しが出たということだろう。

「そうだよね、右もこんなに素敵なのに」


 手を伸ばした瞬間に頭の中で光がはじけた。

 そうだった、右胸に触れると。




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