第8話 我が家に彼女が
「これって、レコード? いいなあ」
中土井はラックに並ぶレコードを見て歓声を上げた。
声が本当にキラキラしている、中土井のこんな声は学校では聞いたことがなかった。
「前も話したけど、おじいちゃんの形見なんだ」
「三代目かぁ、めちゃ年季が入ってる」
何を話すにも、ずっと笑顔だ。見ているだけで航も楽しくなってきた。
「なんか聞く?、たぶんほとんどのリクエストはかなえられると思うよ」
「んー。津村君の好きなのかけて。私、昔のって有名なのしか知らないんだ」
中土井はちょっと困ったような表情を見せた。
「そうなの意外、中土井は詳しいのかなって思ってたから」
クラスではそういうことになっているはずだった。だからこそ、航はきっかけにフェスを選んだのだ。
「津村君がロックが好きだって聞いてたから、必死で聞いた」
中土井は、航から視線をずらして思いがけないことを言った。彼女の顔は真っ赤だ。
それを見た航も伝染したかのように顔がほてってきた。たぶん彼女と同じように真っ赤に違いない。
「津村君さ、二年も一緒のクラスなのに私のことまったく興味がなさそうだったから、何とかしたくて。この前、牧野先生に呼び出されたときも、全然会話してくれなかったし」
「ま、待って、まず座ろう。なんか飲み物持ってくるから」
突然の告白? まさかの展開、とっさにうまい言葉も見つからず、航はお客にはお茶を出すという日本の常識を利用した。
「津村の部屋が見たい、いいよね。ここじゃなんか……。」
何がいいんだか。ここよりいい理由、ベッドがある、頭の中はそのことでいっぱいになりそうだった。
でも向こうから言っているとなると、航に断る理由はない。
「階段上がって右。左は物置だから。先に行ってて」
冷蔵庫を開けて冷気にあたると少し気分が落ち着いてきた。展開が早すぎるような気がする。
初めてのデートの後は、朝待ち合わせて同じ電車で通うになったものの、まだ付き合っているというのは違うような気がしていた。
親にいないときに自宅に来るって、絶対やれるよ、先生の言葉が頭の中でリフレインしている。
大きく深呼吸をすると、お茶のペットボトルを取り出した。
「男の子の部屋って初めてだ、意外ときれいだね」
一応というか、かなりの期待を込めて掃除をしておいた。見られて困るものは段ボールに入れて隣の物置に動かしてある。
もちろん母親にもばれないように、上には古い参考書をおいてある。
「はい、中土井のお気に入りこれだったよね」
「え、うれしい。私の好きなお茶知ってくれてたんだ」
先生からの入れ知恵だった。女の子はそういう小さいことを喜ぶんだよと。
航は中土井をベッドに座らせ、自分は床に置いてあるクッションに座わった。実際には座ろうとして慌てて立ち上がった。
目の前にピンク色のパンツがもろに見えたのだ。床とベッドの位置関係を考えれば当たり前すぎた。のぞこうとしたみたいじゃないかと慌てたのだ。
「あ、いま見たでしょ。エッチ」
「う、ううん。見てない、見えてない」
航は必死で首を振った。が、バレバレだ。
「なんだ、見てないのかあ、津村君に見せたくて、かわいいのはいてきたのに。みて、ブラもお揃いなんだよ、ほら」
中土井はそういうとタンクトップの襟元を少し下げた。さっき見えたパンツと揃いらしいブラのカップがちらりと覘く。
完全に誘われている、えーっと、なんだっけ『据え膳』そんなことはどうでもいい。
理性は吹っ飛んでいた。航は中土井をベッドに押し倒すと、目をつむった中土井の顔に自分の顔を寄せた。ほんのわずかに中土井が震えているのがわかる。
航だって同じだが、先生とのキスのおかげで、少しは余裕がある。
「初めて?」
中土井の顔がわずかに「うん」というように動いた。
自分の心臓の音が馬鹿みたいに大きく聞こえている。
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