第5話 私は中古品だから

家に凪宮さんが来てから。

俺は心臓が高鳴りすぎて話にならない。

困った感じではある。


それはそうだろう。

この場に居るはずの無い凪宮さんだ。

だから高鳴るに決まっている。

そして真っ赤になるに決まっている。


好きだとは言った。

だけどこうして俺達が接する接点には鈍いのでは?、とか思ってしまう。

情けない。


凪宮さんはこの後、妹とかとゲームで遊んだ。

それから17時になり。

やばっ、と言い出す。


どうやら凪宮さんの家はそこそこに門限に厳しいらしかった。

凪宮さんはこんな感じなのに、と思ったが。

まあ女子だから、と思う。


俺は門の外まで見送る。

それから凪宮さんを見る。

凪宮さんは、じゃあね。また明日ね。カレピー、と笑顔になる。

俺は赤面した。

それから凪宮さんはラノベを見せてくる。


「リューキ。今日は有難うね」


「う、うん。良かった。君が喜ぶのが一番だよ」


「リューキ。君って本当に不思議だよね。私の為に動いたり.....。身体が目当てじゃないのも不思議」


「逆に何故それが当たり前なのかが不思議.....」


「.....私はこれでも褒めているつもり。.....君は今まで出会った中で一番不思議な彼氏だね」


俺はその言葉にグッとなる。

それから聞きたい事を聞いてみる。

するとその前に凪宮さんが深刻そうな顔をする。

そして顔を上げる。

そうしてから、あのさ、と切り出す。


「.....私は中古品だけど.....良いのかな」


「.....!」


「.....私は体が純潔じゃない。.....それでも愛して.....くれる?」


俺が聞こうとした事を先に凪宮さんは話した。

そして怯える子犬の様に見上げてくる。

頭を動かす。


それから直ぐに答える。

俺は君を幸せにしたい、と。

すると凪宮さんは涙を浮かべた。


「.....君は.....」


そこまで切り出してから、リューキと付き合って正解だった、とそのまま笑顔になる凪宮さん。

俺はその姿を見ながら複雑な顔をする。


この子はどれだけの日々を過ごして来たのだろうか。

そんな事を.....。

一目惚れから始まった恋だけど、でも。


「.....凪宮さん。.....俺.....君.....の事。誤解していた部分が多くあった」


「.....うん」


「.....でも俺。.....こ、こうして君に出会って良かったと思っている」


「.....」


凪宮さんは涙を拭く。

それから俺を見てくる。

リューキ。そう言ってくれて嬉しい。心から。

本当に、本当に君は不思議な人だね、とニコッとした。

俺はその姿を見つつ赤くなる。


「君に借りたこの本。必ず読ませてもらうね」


「.....ま、まあ程々に」


「程々?熱心に読むよ?」


「い、いや。まあ恥ずかしいから」


俺は慌てながら凪宮さんを見る。

そして凪宮さんはクスクスと笑ってから、じゃあね。リューキ、と手を大きく振ってから去って行った。


俺はその背中を見ながら胸に手を添える。

実感する。

俺には天使が舞い降りた、と。



翌日の事だった。

俺はベッドからゆっくりと起き上がって準備をする。

それから歯を磨いたり顔を洗ったりしてから。

そのまま朝食を食べて表に出た。

すると、あ、と声がする。


「.....な、凪宮さん!!!!?」


「おはおは!リューキ!」


何故か分からないが凪宮さんが立っていた。

それから俺に抱き付いて来る。

俺は慌てながら凪宮さんを見る。

凪宮さんは、リューキの匂いだ、とスリスリしてくる。


「な、凪宮さん?何で.....この場所に?」


「?.....逆に何で?私が来たらおかしいの?」


「い、いや。来てくれるなんて思ってなかったから.....」


「?.....え?彼氏彼女ならこういうのするよね?普通に」


「.....え!?そうなの!?」


ニコッとする凪宮さん。

俺はボッと赤面する。

流石はリア充達だな!!!!?

こんな心臓に悪い事を毎回するのか!?

俺は考えながら凪宮さんを見る。


「リューキ。これからどんどん重ねていこうね。.....恋人の一員として」


「.....は、はい」


「また敬語に戻ってる!」


「あ、うん!」


そして凪宮さんはぷくっと膨れていた顔を戻す。

それから、よし、とニコッとする。

そうしてから俺の手を引いてから歩き出す。

俺は!?と思いながら凪宮さんに聞く。


「ちょ!?このままもしや学校に行くつもりで!?」


「そうだよ?.....何かおかしいの?」


「待って待って!俺.....準備が出来てない!心の!それに.....凪宮さんは.....良くないでしょ」


「.....え?何が?」


凪宮さんは足を止める。

それから俺を見上げてくる。

そして首を傾げる。

俺は、凪宮さん。俺と陽キャの立場を考えて。.....君の悪い噂をされるかもしれないから.....一緒には登校しない方が良いと思う、と言う。

何言ってんだ俺は。


「それは.....私の立場を.....悪くしない様にしているの?」


「そ、そう。俺は陰キャ。君は陽キャ。.....これはかなり教室の反感を生むと思う」


「.....うーん。私は平気だけど.....でもそっか。リューキが言うなら.....。.....じゃあいつ話すの?」


「.....へ.....あ.....そうだね。.....休み時間に教室の外とか?」


うーん、と言いながら口をへの字にする凪宮さん。

それから、うーん。リューキと話したいけど確かにね、と納得した。

そして、じゃあそれで我慢しよう。手を打とう、と笑みを浮かべ.....え?

良いのか、と思う。

嫌がると思ったのだが.....。


「私はリューキが嫌がる事はしない。彼氏だから」


「.....!」


「.....リューキが嫌がるなら絶対にしない。.....じゃあ.....もし良かったらバラバラに登校しようか。リューキの立場も守らないと」


「.....凪宮さん.....」


それから俺達は検討の結果。

バラバラに登校してなるだけ教室では接触しない事にした。

リア充と非リアが場所を保つ為に。

何というか本当に神様が産んだ様な子だな.....凪宮さんって。

そんな事を考えた。

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