第7話
「ねえ、たっくん。クラスに好きな子いないの?」
閉口した。男子中学生に何を聞く。無視だ、無視。
「だったら、気になる子は?」
隣を向くと、頬に人差し指が刺さる。眉をひそめる。
「変な女なら居る」
言うまでもなく、
「僕は、自己紹介で、名字で呼んで下さいと頼んだ。それなのに、あの女が
「たっくん…」
見ると、
「そしたら、あいつ、泣いたんだよ。おかげで、クラス中の女子からブーイング攻撃だよ」
思い出して、腹が立ってきた。ぽんと肩を叩かれる。
「学校というところは、集団生活を学ぶところなのよ。わかる?」
「知らない」
花澄子は立ち上がった。ホットココアを作ってきて、隣に座る。
「今の小学校って、男女ともに、下の名前にさん付けが普通なのでしょう。癖でそう呼んだだけであって、別に嫌がらせしてやろうと思ったのではないと思うよ」
「それは解るけど、結果、クラス中からあいつヤバイって思われたんだよ。可哀想なのは、どう考えても僕だよ」
とばっちりに、涙がにじむ。
「ほら、ココアだよ。もう、泣かないで。今度は、無視しないのよ」
鼻をずびずび言わせながら、頷く。
「私、思うんだけど、たっくんはきっとその女の子と仲良くなれると思うよ」
「は?」
自信満々に笑う花澄子。
「きっと、その子は、正真正銘のお嬢様か、頭クルクルパーのどっちかだから! ね、花澄子お姉ちゃんそっくりでしょう」
それが、春の頃の話だった。
その日、鳥羽港は風邪で欠席。教師からプリントを託された。
鳥羽家は、資産家には違いない。
あの子は、部屋で休んでいるから。中で、お茶でも飲んでいって。薪ストーブのある居間。壁には、家族写真。優しそうな両親に、弟、妹。
完全なる、頭クルクルパーである。花澄子より、酷い。胃酸がこみ上げてきて、出された紅茶が飲めない。
「良かった。あの子に友達がいて」
顔を上げる。首を傾げる。
「あら、聞いていなかったのね。港さんは、養子です」
「養子…」
だから、あんなに不安定なのか。例の内緒話の全てが事実ということはないだろう。でも、どうやら、いくつかの点は真実らしい。面倒な。
「その、父親に…」
「本当です。今も顔を合わせると、人殺しと罵倒して。あの人の事情も解るのです。だからって、ねえ…」
頬に手を当て、横に視線を流す。
「だから、どうか…」
言って、僕の手を取る。
「止めて!」
パジャマ姿の鳥羽港。
「その人は、
怒りに任せて、養母を手で払う。
「酷い。私の恋人に、色目を使って」
「港さん。ただ、私は、お話を」
あの時と、同じだ。教室で、無視された時。
僕の手を取り、背後に隠す。そして、手当たり次第、小物を投げ始める。
「出て行け! 人殺し、人殺し!」
泣いている。僕は、気付いた。これは、過去、鳥羽港が実の父親から受けた仕打ちなのだ。それを繰り返している。
「港さん、大丈夫。大丈夫だよ。さあ、落ち着いて」
一緒に、深呼吸する。正気を取り戻す。後には、割れたお茶のセット。養母はうずくまって震えていた。それを見て、港さんの顔が青くなる。そして、震えが伝染する。
「港さん、外に行こう」
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