第6話
あんまり手ぬぐいの服を着たヒヨが可愛かったものだから、取りも直さず写真を撮った。あまつさえ、
「ヒヨさんはお人形さんではなくて、妖精なのですか」
期待に満ちた瞳。今さら、何を隠せるだろう。唾を飲み込む。
「ヒヨは、ぬいぐるみから生まれたのだよ」
「まあ…」
これきり、港さんは「まあ、まあ、まあ」と鳴く獣に成り下がった。頭が痛い。
「この事は、誰にも言っては駄目だよ」
「はい」
そうして、港さんは自身の生い立ちの秘密を話した。
「私は、姥捨山のばばあさんに育てられたのです」
言葉を失う。沈黙。
「えっと、何時代?」
「ある所にはあるのです。とにかく私は、父親の不興をかって、赤ん坊の頃に捨てられたのですね」
にわかには、信じがたい。しかし、港さんは平然としている。
「何故なら、私は人殺しだから。父の愛した人を殺したのです」
「それは、なんと言うか…」
出産のおりに、母親は命を失ったのであろう。子供より、親が大事。完全に理解できないとは思わない。いや、しかし…。
「山奥の、レンガ塀に囲まれたおうちでした。簡素なつくりでしたが、畑もあるし、一週間に一度は、肉や魚などが届きました」
港さんの浮世離れした雰囲気。
「まあ、でも、おばあさんですからね。当然、いつかは亡くなります。おばあさんは、畑の上で倒れました。綿や絹の和服を着て。私が死んだら落ち葉の布団をかけるのですよ。そうしたら、私は良い肥料になって、美味しい野菜になりますからね」
俯いた港さんの顔を、涙が流れる。
「でも、できなかった。私は、おばあさんが畑の肥料になる前に、あの家を出てしまったのです」
僕は、言ってやった。
「子供は、大人に庇護されるべき存在なんだよ」
港さんは、いやいやと首を振る。
「もちろん、今の両親にも感謝はしているのです。でも、それとこれとは話が別と言うか…」
胸元で手を組み、悔いている。
これでは、まるで、お伽噺だ。港さんは、近寄り僕の肩に手を置く。
「
しばし、何のことか考える。思い当たり、瞬時に顔が赤くなる。
「な、何を」
「私の、今の両親は、子は望めないのです。こんな化け物じみた子供をわざわざ引き取って…。私の子を、お二人の子として…」
何を言っているのか、まるでついていけない。
「いや、待って待って。それは、うん…。ノーコメントだけど」
目をそらす。ぎゅっと両手をにぎられる。
「港さんが、今、妊娠したら子宮が破裂すると思う。その、小柄だし…」
「うう…」
港さんが、唸る。
「だからさ、せめて、中学卒業は待とうよ。君と子供を作るのが嫌とかではなくて…」
僕は一体何を口走っているのか。そりゃあ、年頃の男子である。決して嫌とは言わない。言えない。
「天馬さん、私…」子作りが叶わないのなら、死んでやる。そう言われたらどうしよう…。「ヒヨさんに会いたいです」
当然、力が抜けた。背中は、冷や汗でびっしょりである。
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