第94話 試練の結末
『黄金の鎌www』
『鎌ちっせぇ~!』
SRから出た小指サイズの小さな金の鎌に、コメントが無数に流れる。
急いで投げるがそれと同時に、またもや蒼い炎が現れる。
「っ!? ナナああああああ!」
「大丈夫! 私もアヤ姉ちゃんと同じくやるよ!」
鎌が火竜に当たると大きく怯んだが、それと同じく蒼い炎がナナの乗っている岩にぶつかる。
空高く跳び上がったナナに一安心する。
ただ、このままでは次の狙いは――――
「み、みんな! もう一回!」
「「「「はいっ!」」」」
シホヒメは魔法職だ。二人みたいに猫耳や兎耳で身体能力が上がっていない。
そう思うとナナよりももっともっと焦ってしまう。
『エム氏! 次、絶対引けよ!』
『フラグ立てなくていいから!』
多く面白がっていたコメントも多かったのだが、それが一斉に心配するコメントに変わる。
みんなが念のため剣で炎を斬ってみたけど、爆炎剣でも氷水細剣でも斬れなかった。
やがて百連が貯まった。
「た、貯まった! すぐに引く!」
急いでガチャを引いて、現れたガチャ筐体は――――虹色に光り輝いていた。
『UR確定キタァァァァ!』
『フラグ回収!?』
『急げ~!』
悩むことなく、ハンドルを動かす。
ハンドルがくるっと回ると、次々カプセルが落ちてくる。
虹確定だと百二十連目になるはずだ。
シホヒメへの蒼い炎が吐き出される前に何とかしたい。
――――だが、俺の思惑とはならず、火竜から蒼い炎が放たれた。
間に合うか!?
出てくるカプセルに焦ってしまうが、急がば回れ。焦ってもカプセルが速く出るわけじゃない。
そして、虹色のカプセルが出て宙に浮かんだ。
他のカプセルには目をくれず、虹カプセルを開いた。
現れたのは――――
『でけぇwww』
『筋肉ムキムキの像?』
『今まで小さかったのにどうして今度はデカい像なんだよwww』
俺の身長よりも大きい2メートルの男の像が現れた。
神話に出てきそうな像だ。
投げるために持ってみるが、あまりの重さにとても持てそうにない。
ちらっとみた蒼い炎がゆっくりとシホヒメに近づいてくる。
焦りで何をどうしていいか分からなくなる。
こういう時、みんななら――――どう考えるんだ!?
『エム氏! ドロップキックで蹴り飛ばせえええ!』
「!?」
急いで離れて助走をつけて像にドロップキックで蹴り飛ばす。
少し傾いた
速度はわりと速い。ギリギリシホヒメに当たる前に当たりそうだ。
像と蒼い炎がすれ違う。
あまりにもギリギリすぎて先にシホヒメに当たってしまわないか心配になる。
「っ! シホヒメ! 周りに土の壁を作って落ちないようにしよう!」
「わ、分かった!」
シホヒメが周りを土の壁に囲んだ。
そして――――像が当たる直前、蒼い炎がシホヒメの柱に当たる。
「シホヒメえええええええ!」
土壁はあまりにも簡単に壊れ、柱が揺れ動く。
そのタイミングで像が火竜に当たり、凄まじい咆哮を鳴らした。
蒼い炎が消え、土壁が消えたが、立ったまま咆哮を受けたシホヒメが火竜に向かって前傾姿勢になる。
火竜が頭から一気に溶け始めて咆哮が終わった。
――――けれど、咆哮に耐えていたシホヒメが前に倒れていく。
「えっ……」
シホヒメはそのまま――――柱の下に落ちていった。
「し、シホヒメええええええええ!」
シホヒメが立っていた柱。
人の影一つなくなった柱が見えた。
ここが現実の溶岩地帯なのは薄々気付いている。
あの日、シホヒメから感じた熱い液体の温もりはいまでも忘れていない。
UR指定チケットがあれば、どんな傷でも癒せられる。でも……死んだ人は生き返らせない。
以前、リンに聞いた事がある。両親を生き返らせるかと。死んだ人は生き返らせられないと答えられた。
せめて……生きていれば……なんとか…………。
悔しくて涙が溢れた。
もっと……シホヒメによくしてやれば……よかっ…………。
「お兄ちゃああああん! 後ろ! 後ろに!」
「えっ……?」
「リンちゃんがああ!」
リン……?
溶けていくドラゴンの体の中には、以前魔女が使っていた鳥かごと同じものがあり、扉が開いて中にリンの姿はなかった。
――――その時。
俺から死角になっている柱の後ろから現れたのは、黒い体。いつも俺の頭の上に乗っているいつものリンの姿だ。
それと共に、人の手が上がってきた。
「シホ……ヒメ?」
目に大きな涙を浮かべたシホヒメが上がってきた。
シホヒメと目が合った瞬間に俺達は光に包まれた。
元居た火山ダンジョンに転移させられると、溶岩地帯よりは涼しく感じるが今はそんなことどうだっていい。
目の前に力なく座っているシホヒメを――――ただ抱きしめた。
「エムくん!?」
「シホヒメ……生きていてくれて本当にありがとう」
「また心配かけてごめんね? リン様が助けてくれたから」
「リン……ありがとう」
「あいっ…………」
火竜の中に閉じ込められてずっと暴れていたリン。彼女のもどかしかった感情が伝わってくる。
俺はただただ溢れる涙をこらえることができず、シホヒメを力強く抱きしめた。
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