第90話 兎耳の行方

 火山ダンジョン二日目。


「お兄ちゃん~」


 奈々が可愛らしくぴょこんと顔を出す。


「今日は兎耳を付けるの?」


 昨日獲得した氷水細剣。今は戦いというより、自然エアコンみたいになってて、みんながそれぞれ順番に持って涼しんでいる。


 もう一つ一緒に出た兎耳カチューシャ。


 奈々が着用すると可愛らしい兎になるのは目に見えているが、何だか嫌な予感がした。


 だって、猫耳ですらああなるんだろう……?


《配信を開始します。》


『配信乙~!』

『相変わらず汗だくだな~』

『エム氏の配信っていつの間にかエ〇いよな』


 エ〇い言うな! わざとじゃないんだから!


『あれ? 兎耳がいない?』

『ナナちゃんはいつもの可愛い猫耳だな』

『ナナ☆彡 ナナ☆彡』


「猫耳はもはやナナのトレンドマークだからな。兎耳は――――次の存在に預けることにした!」


『おお~誰だ~!?』


 俺の前に並ぶのは、シホヒメ、アヤ、マホたん、リリナの四人。


 シホヒメが来るのは予想していたけど、他の三人が来るとは思いもしなかった。


 というか、最初からシホヒメに付けてあげようと思っていたのだが……。


「エムくん! シホヒメ~いつでもいけます! キラッ☆」


「ナナちゃんといつも一緒にいるから猫と兎で相性いいと思うの!」


「これで活躍したら酒が……あっ、違うの。心の声が漏れたわけじゃないんだからね!」


「兎は聖なる動物。私のような聖職者にこそふさわしいの~です」


 …………いや、兎耳くらいでみんな必死になりすぎだろう。


 後半二人は大体の理由は知っているが、意外にアヤまでもか。


 俺は兎耳を持ったまま彼女達の前を左から右に通り過ぎていく。


 みんな目を瞑って祈るように手を合わせて「お願いします……お願いします……」と口にしている。


 三人目だけ「酒……酒……」と言ってるのが気になるが、まあいいだろう。


 右から今度は左に通り過ぎる。


『はようせいwwww』

『ひっぱるな~ww』

『エム氏のいけず』


 何だかリスナー達と企画っぽいことをするの、久しぶりな気もするな。最近狩りばっかだからな。


 左からまた右へ――――そして、俺が選んだ女性の頭に優しく兎耳カチューシャを付けてあげた。


「エムくん……ありがとう」


 その場でシホヒメとマホたんとリリナが崩れ落ちる。


 そう。俺が選んだのは――――アヤである。


 アヤが眩しい光に包まれ、衣装込みで体のフォルムが変わる。ナナ同様体のラインがしっかり出ている。


 光が消えて姿を現したアヤは――――


『バニーガールキタァァァァ!』

『白いバニーガールかよ! 最高すぎんだろ!』

『めちゃくそエ〇い……』

『ダンジョン配信が……エ〇配信に変わった?』

『衣装がきわどすぎなんだが、ナナちゃんを思えば普通かもしれん』


 下から、白いハイヒールに白いタイツで、体はよく見るバニーガールの姿。こう……水着よりエ〇いと思えるくらいにはエ〇い。胸元は大胆にギリギリを見せないが、包み込むというより、乗せているに近い形の衣装だ。でも不思議と真上から覗いても見えない。


 いや、覗いてないからな!?


 頭には白い兎耳が付いているが、ナナ同様にリアルな飾りみたいになっているので、通常の耳は普通に残っている。でも兎耳は本物のようにピクピクと動いている。


 不思議なのは、背中に透明な天女の羽衣が付いており、右手には――――


「何故……鞭?」


 アヤは右手に持っていた白い鞭で地面を叩いた。


「あたいはアヤだよぉおおお~!」


「…………?」


「いや、なんか言わないといけないオーラを感じて……」


「ま、まあいいか。それよりどう?」


「う~ん。体がものすごく軽い?」


 アヤはハイヒールを履いているのにも関わらず、その場でぴょんぴょんと飛ぶ。


 兎耳がぴょんぴょんと揺れるのが可愛い。それと目の前に上下するたわわ。リンや美保さんのたわわは巨大すぎるが、アヤのは程よくいい感じのサイズだ。多分、世の中の男性が一番好きそうなサイズ感。


 それが上下に揺れ動く。


 …………痛くないのかな?


「ふふっ。触ってみる?」


「触りませんよ! シホヒメみたいなこと言わないでください!」


 思わず敬語になってしまった。


『エム氏……毎日シホヒメの……触ってる?』

『リン様の人型ん時、押し付けられていたよな』

『たわわ耐性◎』


「たわわに耐性なんてあるか! ひとまず、問題なさそうならいいけど、アヤ? 足は痛くない?」


「うん。ハイヒールなのに、靴を履いている感覚はなくて、これが足の感覚だから全然痛くないわよ? 走れるし跳べるし大丈夫っ!」


「そっか。それならよかった。戦う能力っがどんな感じか見せてもらえる?」


「は~い」


 見守っていたナナに嬉しそうな笑みを浮かべて向かうアヤ。


 猫と兎……灼熱地獄の中に咲く二輪の花のようだ。


「ほら、アヤの活躍を見届けるぞ~。一番解説上手かった人に好きなお酒一本やるよ」


「はいっ。わたくしめにお任せください」


「解説といえば聖女。私が適任ね」


 二人は闘志を燃やしてアヤのところに向かった。


 シホヒメは酒はいらんのよな。


「シホヒメ。いくぞ?」


「…………」


 うずくまって地面をツンツンと押しているシホヒメ。


 子供かっ!


「志保? 行こう」


「っ!? い、行く!」


 俺が伸ばした手を握り返して満面の笑みを浮かべた。

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