第88話 暗闇が怖くなったら手を繋げばいい
湿地ダンジョンをクリアしてから、次の水曜日も同じく新しいダンジョンに向かう。
焦っているわけではないけど、平日は攻略を重要視することにしているから。
水曜日にやってきたのは、家から少し離れた場所にある森林ダンジョンだ。
ボーっと空を見上げる奈々。
「奈々? どうしたんだ?」
「ん~お日様がないから暗いなって思って」
「そうだな。森の中というのもあって、奥が見渡せられないのは少し怖いな」
「夜になるともっと怖くなるかな?」
実はダンジョン病から治った奈々は、暗闇が苦手になっていて、寝る時も綾瀬さんの手を握って寝ている。
あの九年間を思えば当然だ。
俺は奈々の手を握った。
「お兄ちゃん?」
「こうすれば怖くないだろう?」
「――――うん!」
頬が緩んだ妹がとても可愛らしい。
「でもこれだと私が戦えない……よ?」
「それなら爆炎剣を投げてもらうか」
獣人モードになった奈々は速度だけでなく、腕力もものすごく上昇する。
俺が渡した爆炎剣を片手で軽々と投げ飛ばせるのだ。
正直、奈々が戦わなくてもリンもいるし、シホヒメ達もいるから問題ないと思うけど、妹としては何もしない自分を荷物だと思っていそうだな。昔からそういう子だったから。
一層を抜けて、代わり映えの無い二層を歩いていると、いつもの配信が始まった。
『今日は仲良し兄妹か?』
『ナナちゃん可愛いよ~!』
『今までで一番羨ましい……』
ふっふっ……うちの妹は天使だからな! そう思われるのも分かるのさ!
現れる熊の魔物に爆炎剣を軽々と投げつけて倒すナナ。魔石を拾うのは綾瀬さん達がやってくれる。
それにしてもちゃんと眠ってもシホヒメは以前のようにアイドルみたいなことはしないな。
今まではそれが当然で、時には鬱陶しいとまで思った時もあったけど、ないとないで調子が狂うというか何というか。
森林ダンジョンも例に漏れず、非常に広大なステージで歩いても歩いても次の層までは時間がかかった。
湿地ダンジョンなら【エンジェルブロッサム】で飛んでいくけど、ここは樹木が邪魔でそれもできないので歩くしかない。
真っすぐ歩けないのもあって中々辛い。
俺の頭の上からアホ毛で下層への入口を指してくれるリンがいなかったら、もっと時間がかかったかもしれない。
「エムくん~」
「ん?」
マホたんがニヤけた表情で近づいてきた。
「森林ダンジョンも人が少ないでしょう?」
「そうだな」
「これには理由があるんだよ?」
「そうなのか? どんな理由なんだ?」
「ここって――――遭難しやすいダンジョンランキング一位なの」
「そ、遭難……」
そう言われると納得しちゃうというか、森の中って道に迷うと言われているからな。
「一応
「それは辛いな。青空ダンジョンがあんなに人気なのはそういう理由もあったんだな」
青空ダンジョンは入口前に出店や臨時パーティーを探す探索者も多いし、賑わってるからな。
「そうなのよ。だからリンちゃんがいるだけでとても楽なの~」
「そっか。やっぱりうちのリンはすごいな~」
リンを撫でてあげると、ぽよんぽよんした体が気持ちいい。
魔物は数も強さもそれほど脅威ではないので、ただ延々と続いている木々を眺めながら、歩き進めた。
二日後。
金曜日の夕方前にようやく十層の最深部にたどり着いた。もし森林ダンジョンが二十層まであったら、あと三日はかかるし、そう思うと嫌気が指す。
あまりにも代わり映えのない森の中は、色々不安な気持ちにさせつつも飽きるんだなとしみじみ……。
俺達は四か所目のフロアボスに挑戦した。
フロアボスは、漆黒ダンジョンのフロアボスで戦ったことがある巨大グリフォンと再戦となった。
危なげなく倒したけど、やはり今回も報酬は何もなかった。
【帰還の羽根】を使い一瞬で外に出て、迎えに来てくれた車に乗り込み、家に帰っていった。
そういや、魔石はどうしているのかというと、外に出たタイミングで大量に購入して、配信の終わりに百連を引いている。
湿地ダンジョンでも森林ダンジョンでも数百連を引いたが、意外にもR以上は出なかった上に、安眠枕も二日に一回分ずつしか確保できなかった。
まあ……三日間眠れないよりはマシか。シホヒメもそんな感じで苦笑いを浮かべていたしな。
土日はいつも通り、休息とジムに通ったりと平和な日を送った。
そしてまた新しい一週間が始まった。
俺達がやってきたのは、近場で一番の
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