第83話 呪いの腕輪
青空ダンジョンのフロアボスを始めて倒して、家に帰ってきた。
【帰還の羽根】がほぼ毎回ダンジョン攻略で回した百連分のガチャから出るので、不自由することなく使えるのは大きなアドバンテージだ。
美保さんが美味しそうな夕飯を用意して待っていてくれた。
今日は俺と奈々が焼かれている大型貝を眺めているところの写真がうちわになってる。
「「乾杯~!」」
頑張ってくれたマホたんとリリナにせがまれてお酒を渡すと、さっそく酒盛りを開いた。
『マホたんとリリナ、もう酔ってて草www』
『ガチャ産のお酒ってそんなに美味いのか?』
『ああ。ガチャ産のお酒は最高に美味いぞ』
ん…………? ガチャ産のお酒は美味いってコメント?
もしかして、永田さん……? さすがに浅田さんがコメントするはずもないよな。総理だし。
「くあ~! やっぱりエムくんのこれは美味しい~!」
「これ言うなああああ!」
「え~いいじゃんいいじゃん。私、もっとエムくんのがほしい……」
色っぽく笑うマホたん。普段から頼れるお姉ちゃんって感じなのに、酔うと眠れてないシホヒメみたいなテンションになるよな。
『マホたんに言い寄られるなんて、羨ましすぎて!』
『でもエム氏だからな~』
なんか男として魅力ないよね~みたいな言い方やめろ!
配信コメントで食卓がまた騒がしくなり、ナナは食事をしながらコメント読み上げしながらリスナー達と時間共有を楽しんでいる。アヤもナナと一緒に相槌をしたり、コメントを読んだりする。
非常に空気を読むのが上手で、ナナが食事している時にコメントを読み上げたり喋ったり、ナナが喋ってる時、食事をする。
回復魔法使いとしてもメンバーに合わせるのと、流れを読むのはさすがだ。
それから配信が終わるまで、宴会のような流れを過ごした。
その間、シホヒメは絶好調のはずなのにあまり喋らず、リンにご飯をあげたり、酔ったリリナ達の相槌をする係になっていた。
配信が終わり、酒盛りでマホたんとリリナはテラス席に移った。
「志保ちゃん? 今日、元気ないね~?」
「そんなことないよ?」
シホヒメって不思議と安眠枕でちゃんと眠れた次の日は、全身が輝いているよな。
美保さん曰く、ダンジョンが現れた日に覚醒したシホヒメは、金髪に変わったという。
そのためなのか、シホヒメは普段から全身が光り輝いているんだよね。もちろん、今日も。
眩しいシホヒメはいつも笑顔が可愛い超絶美少女なのに、今日はずっと静かにしている。
配信が終わってからシホヒメがちらちらと俺を見つめる。
「シホヒメ」
「う、うん」
「今日は早めに寝るか。さすがに風呂にも入らずに寝るのはダメだろうからな」
「そ、そうだね! ――――えっと……一緒に入るの……?」
「入らねぇよ! それはダメだろ!」
「そ、そっか!」
初日のシホヒメが……ポンコツ化しているだ……と!?
シホヒメの背中を押して風呂に押しやった。
美保さんと皿洗いを交代して、二人で風呂に入る。
シホヒメの家の風呂は広いから二人でも三人でも一緒に入れるから、時間効率を考えて女性陣は一緒に入ってもらう。
俺は一人かというと、リンと一緒だ。中身は女の子だが、スライムならそこまで気にはならない。
シホヒメと美保さんの風呂が終わり、奈々と綾瀬さんの風呂が終わり、俺とリンの風呂が終わった。マホたん達はまだまだ飲む気らしい。
さっそくシホヒメの部屋に集合した。
やはり相当緊張しているようだ。
「リン。あれを出してくれ」
「あいっ……」
触手でゆっくり降りてくる腕輪。禍々しいオーラが出ていて、見ているだけで呪われそうだ。
「シホヒメ。覚悟はできてるな?」
「うん!」
「もし眠りの呪いじゃなかったら、すぐに外して綾瀬さんに治してもらうから、心配すんな」
「あいっ!」
元気に返事するけど、声に微かな揺れがある。
横たわっているシホヒメの左手に、呪いの腕輪をゆっくり嵌めた。
「――――っ!?」
ブルブルっと体を震わせたシホヒメは、大きく目を開いて僕を見つめてきた。
「シホヒメ? 大丈夫か?」
「少し……眠いかも……」
「そっか! それは良かったな。今日はゆっくりお休み」
「あい……」
安眠枕ではないからか、少し辛そうにしながらも目を閉じたシホヒメ。
十秒もしないうちに静かな寝息を立てて眠りについた。
「これって明日の朝に取り外してあげればいいのかな?」
「そうね。呪いの防具は外すと効果がなくなるというから。明日朝に外して回復魔法をかけてあげようかしらね」
「そうしましょうか。さて、俺達もそろそろ寝ようか」
「志保ちゃん、ちゃんと眠れたみたいだし、良かったわ~」
ずっと心配していた美保さんも少し安堵したようだ。
みんなで寝ようとした時、リンが頭から降りて、じっとシホヒメの顔を眺めた。
「リン? どうした?」
数十秒間無言が続くと、リンがおもむろに触手を伸ばしてシホヒメのおでこに当てた。まるで――――奈々が眠っていた頃のように。
息を呑んでその様子を眺めた。
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