第82話 初宝箱

「お兄ちゃん。お腹空いたね」


「そうだな。匂いがな」


 フロアボス部屋に充満する香ばしい匂い。


 倒した巨大貝魔物は粒子状で消え去っても、少し焼き貝の匂いがする。


『フロアボスを簡単そうに倒せるようになったね~』

『マホたんとリリナがいるから最上位パーティーだな』

『てかシホヒメも地味に強くない?』

『てか爆炎剣投げるのめちゃシュールだけど、効率いいよな~』


 無数のコメントが流れる。


 褒めてくれるコメントから、フロアボスに苦労もしないつまらないコメントから、最上位探索者のマホたん達のおかげだというコメントから、色んな内容が流れる。


 視聴者数が一万人を超えた上にコメント数も増えて、中々全部を読むのは難しくなっているし、中にはコメントが被って読めないものまである。


「これから投擲爆炎剣を使っていくよ。うちのナナが考えてくれたものだしな」


「えへへ~」


『ナナちゃんまじ天使☆彡』

『ナナちゃん☆彡 ナナちゃん☆彡』


「エムくん~! 宝箱が落ちたよ~!」


『すげぇ~! 宝箱見るの久しぶりだな』

『まさか宝箱ガチャが見れるとは!』


 巨大貝が消えた跡に横幅一メートルくらいある巨大な宝箱が置かれていた。


 それにしてもデカすぎだろう……。


 宝箱の上にぴょんぴょんと跳ねているリンがまた可愛らしい。


 みんなで宝箱の前に集合した。


「エムくん~ふぁいと~☆」


「ああ」


 宝箱の蓋をゆっくり開いた。


 中から眩しい光が漏れ出して、中に置かれていたのは――――一つの腕輪だった。しかも中々に禍々しい雰囲気だ。


『呪い装備キタァァァァ!』

『初の宝箱から外していくエムくん! よっ! 期待の配信者☆彡』

『呪い装備久しぶりに見た……確率はむしろ大当たりなんだよな』


 そうか……これが例の呪い装備なのか。


 ダンジョンのフロアボスを倒すと稀に現れる宝箱。


 そもそも宝箱が現れる確率も低く、フロアボスは一度倒すと、同じダンジョンで挑戦するには一週間が経過しないと挑戦できない。それもあって、毎週のように攻略するダンジョンを変えるパーティーが多い。


 肝心な宝箱が出た場合、確定で中に装備品が入っている。


 よく聞くのは武器と防具。


 武器も色んな種類があり、防具にも色んな種類がある。自分が狙ったものをピンポイントで引くのは難しいので、目当てを引くのではなく、引いて売るのを目的とするパーティーが多い。


 もし目当ての場合はパーティーの共有物としてみんなで使う。


 記憶にも新しい白騎士亮介が逮捕されて装備を元メンバーのキタミナミが持ってきてくれたように。


 それと、もう一つ大事なのは防具。


 防具は全部で鎧、兜、ブーツの三種類しか出ない。いや、そう言われている。


 以前、俺がガチャで引いた魔法耐性腕輪をディンが欲しがって会いにきたのも記憶に新しい。


 それくらい腕輪という防具は他の防具と併用して使えるので貴重だ。


 それがまさか、宝箱から腕輪が出現するとは。


「宝箱から腕輪が出ることもあるのか?」


「もちろんあるわよ――――ただし、呪いシリーズだけ・・だけどね」


「呪いの腕輪だけか……」


「ええ。しかもどんな呪いなのか装備してみないと分からないからね。ちなみに、売っても十円くらいしかしないわよ」


『初宝箱十円おめでとう~!』

『さすがのエム氏~可愛そうなので応援ボタンで百円あげる』


「十円よりは大きいけどよ! てか応援ポイントありがとう!」


 コメントに釣られてなのか、応援ポイントが一気に増え始めた。


 やっぱりみんな……同情すると応援してくれるよな。ありがたい。


 宝箱をじっと見つめるシホヒメ。いつもとは違って非常に真剣な表情だ。


「シホヒメ? どうしたんだ?」


「…………エムくん。これ、私が付けてみてもいい?」


「待て。外に出てからな。ダンジョンの中だと何があるか分からないから」


「うん」


 呪いの腕輪を大事そうに抱えて俺にくれるが、これはガチャ袋には入れられない。


 その時、リンがパクっと食べた。きっと胃袋の中に入れてくれたんだろう。


「まだ配信が始まったばかりだし、このままダンジョンを出るのもあれなんで、九層で魔石を集めてガチャ引こうか。枕があと一個しかないから」


「枕ぁぁぁぁ……」


「急いで魔石を集めないと百連んが回せられなさそうだ。頑張ろう」


「「「「お~!」」」」


 フロアボス戦のあとだというのに、みんな元気そのものだ。パワフルだね。


 部屋をあとにすると、みんなスマホを片手に配信を見てくれていたのか、拍手を送ってくれる。


 中に男性陣が「初ドロップ品おめでとう!」と嫌みたっぷりの声援を送ってくれた。


 シホヒメがキッと睨みつけたあと、小さく「私にとっては大当たりかもしれないからハズレじゃないもん」と呟いた。


 ああ……そうか……シホヒメは眠りに呪われたい・・・・・んだな。


 普段眠れないシホヒメだからこそ、腕輪で強制眠りにされたら眠れるかもしれない。


 それを思うと、ちょっとだけ呪い装備を引いたことが誇らしかった。


 ただ、まだ彼女が眠れるとなったわけじゃないので、結果を楽しみにしながら、九層に向かい魔石を集めた。


 その日、何とか百連を貯めて、配信終了ギリギリの時間で百連を引いたが、残念ながらRが二十八個出て、SR以上は出なかった。


 Rの中から枕が一つだけ出たので、シホヒメが満面の笑みを浮かべたところで配信は終わりとなった。

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