第81話 人気配信者エム氏?

 フロアボスへの扉の周りで、ちらほらいくつかのパーティーが休んでいた。


 みんな、お互いをかばうように座っていて、あくまで休んでいるのが目的で、魔物を素早く倒してまた休んでを繰り返す。


 ダンジョンだと魔物がどこにでも出現してしまうので、休む場所次第では魔物に襲われてしまうのだ。


 入口の周辺にはやってこないので、基本的に入口階段の脇にある小さなスペースで休んだりするのが定石だが、フロアボスの前でもこうして休むんだな。


「みんなここである程度休憩してから、フロアボスに挑戦するんだよ」


「そっか。うちはリンがいるから休憩はあまり取らないからな」


「ふふっ。本当にリンちゃん万能だからね~」


 マホたんと話していると、周りのパーティーがざわめき始めて、何人かの女性がやってきた。


「あ、あの! マホたんさんとリリナさんですよね!? お会いできて光栄です!」


「どうも~」


 さすがはマホたんとリリナ。最下層にいる探索者にも顔が広まっているようだ。


「わあ~! リンちゃんだ!」


 女性陣の視線が俺に集まる。いや、頭に載っているリンに向いている。


 自然と俺も視界に入ることになるというか、女性十人くらいに囲われる形となった。


「お兄ちゃんがモテてる~!」


「ち、違う! リンが目当てでしょう!?」


「エムさんですよね!? 握手してください!」


「えっ!? 俺!?」


「はいっ! エムさんの配信、いつも面白く見ています!」


 勢いで握手を交わした。


「あ~私も! ニュースでダンジョン病をみんな治してくれたって聞きました! すごいと思います!」


 まさかの、リンではなく、俺と握手を交わす女性達。ちょっと驚きながらもこういうこともあるんだなと感動していると、彼女達の後方からは少し痛い視線が送られてきた。


 女性達に囲まれている男……しかも、奈々とか初日シホヒメとか綾瀬さんとかマホたんとかリリナとか美女ばかりだもんな。


 別にそういうのを気にしたことはないが、気づけば周りが美女ばかりになってしまった気がする。


 ふと、マホたんから「付き合って」という言葉を思い出して、顔が熱くなるのを感じた。


 何とか握手を終えて、俺達はフロアボスの部屋に入ることができた。




 フロアボスはそれぞれのパーティーで別々の空間に送られるため、同じ部屋にはならない。


 入った部屋は、どこまでも広がっている浅瀬だった。


 白い砂と青い水がどこまでも広がっていて、空からの陽の光を受けて真っ白い水面みなも模様が広がる。


 地面が揺れて、離れた場所から巨大な――――貝が地面から噴き出て高く跳び上がり、地面に刺さった。


 銀色に輝く殻と、その間から一本の触手が出ているのが印象的な。


「アイアンシェル! 強敵だよ!」


 シホヒメの緊迫した声に、みんなが身構えながらその場から散った。


《配信を開始します。》


『配信してすぐにフロアボス!?』

『でて貝だなww』

『フロアボスが出迎えてくれて草ww』


 戦いと同時に配信が始まった。


 アヤとリリナが補助魔法を唱えてくれて、彼女達から左右に分かれて離れたシホヒメとマホたんの攻撃魔法が展開される。


 最初に攻撃したのは、我らの天使ナナだ。


 猫耳カチューシャによって猫獣人モードになったナナの強烈なパンチが貝の殻を殴ると、巨体があっさりと倒れて水飛沫を上げた。


「「――――ライトニングスピア!」」


 雷の槍が巨大貝に直撃するが、あまり効いた感じはない。


「アイアンシェルの殻は全然ダメージを通さないの! 中身を攻撃しないといけないよ!」


 殻は随分と堅そうだ。


 シホヒメもマホたんも強い魔法使いなのに、彼女達の魔法でも貫けなかった。


 ナナの攻撃も非常に強いのに、殻に傷一つつけられなかった。


 倒れた貝に爆炎剣を突き刺してみたが、一切効かなかった。


 リンがぴょーんと空高く跳び上がり、触手を八本展開して、ドリルのようにして殻を突き刺した。


 みんなの攻撃では一切貫けなかったのに、リンの攻撃は簡単そうに殻を貫いた。


「「――――チェインライトニング!」」


 シホヒメ達の電撃魔法が巨大貝に包み込まれると、リンが開けた穴から中に電撃が流れ込む。


 硬く閉じていた殻が開いて触手で周りを叩きながら暴れ始めた。


 ナナが俺の隣にやってきた。


「近接はやることないね~お兄ちゃん」


「そうだな。殻が硬いとどうしようもないな」


「今度何か攻撃する方法も考えたいな~」


「ふむ……」


「お兄ちゃんは爆炎剣を投げたらいいよね?」


「投げる……?」


 爆炎剣を投げるという選択肢か……。なるほど?


 ナナに言われた通りに、感電している巨大貝の殻の隙間に爆炎剣を思いっきり投げてみた。


 くるくる回って飛んでいった爆炎剣が貝の中に突き刺さると、爆炎が広がり始める。


「おぉ……爆炎剣を投げる……か。何だかリンを投げていた頃を思い出すな」


「ふふっ。私も見たかったな~」


「ナナは見た事なかったな。今度リンにお願いしてみるよ」


「うん! ありがとう~!」


 巨大貝は殻さえなければ非常に弱いらしく、とくに雷魔法にはめっぽう弱くて、ずっと感電したまま動けずにいた。


 俺が投げ込んだ爆炎剣は遠距離回収からまた投げ込んだり、ナナにも投げてもらったりして、数分もしないうちに倒すことができた。

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