第79話 初の夕方配信

 リンのおかげでほとんど荷物を持たずに出発することになった。


「美保さん。数日帰ってこないと思いますので、よろしくお願いします」


「は~い。いってらっしゃいませ~エム様~」


 優しく手を振ってくれる美保さん。手を振る度に美保さんのたわわが揺れ動く。


 リンよりも大きいって……本当に恐ろしい。


 シホヒメは…………ああ。そうなるよな。


「いま、エムくんから嫌らしい視線を感じました」


「胸を張って言うな!」


「えっへん! 触りたい?」


「ふっ。もうシホヒメのでは満足できないぞ」


 衝撃を受けた表情になるシホヒメ。


「いや、冗談だから――――って! 奈々!? 奈々はいいんだからね?」


「だって……私が一番小さいし…………」


 両手で自分の胸に手を当ててしょぼんとなる妹がめちゃくちゃ可愛い。


「奈々。君はそれでいいんだ。逆に奈々の可愛さで大きいのは違うと思う」


「そう……かな?」


「ああ! もちろんだとも!」


 するとにぱっと笑ってくれた。


 そして、俺達は神妙な面持ちで青空ダンジョンに足を踏み入れた。


 前回は【操り師】の襲撃があったけど、今日は大丈夫だよな……?


 まだ各国が俺を捕まえようとするのは間違いないんだろうけど、浅田さんが何も講じないはずはないので、それを信じてダンジョンを進む。


 最悪な場合は【帰還の羽根】で逃げればいいしな。あとはリンがいるから心配していない。


 リンがまたアホ毛を取り出してクルクルと回り始めた。


 最近このアンテナモードが気に入ってるのだろうか。可愛いので問題ないが……。


 一層から二層に向かうまでも非常に遠い。晴天の空がとても気持ちいいし、魔物も漆黒ダンジョンほど頻繁に鉢合わせにならないので、のんびりみんなで歩いていく。


《配信を開始します。》


『配信乙~!』

『リン様☆彡 リン様☆彡』

『ナナちゃん☆彡 ナナちゃん☆彡』


 配信と同時にリンとナナのコールが始まる。


『残念美女はやっぱり眠れなかったか~』


「枕……枕……」


『シホヒメ頑張れ~!』

『ちゃんと引いてやるから』

『ちゃんと引いてやるから』

『ちゃんと引いてやるから』

『ちゃんと引いてやるから』


「うわあああ! や、やめろ!」


 こいつら……まだ忘れていないな!?


 シホヒメがニヤニヤし始めた。


 そんなこんな二時間の配信は、あっという間にすぎて、俺達が三層に着いた頃に終わりを迎えた。


「今日の夕方に野宿するのは日常配信で配信するよ」


『よろしく頼んだ~!』


 日常配信も人気が出てくれて本当に嬉しい。


 時には休憩しつつ、新しい景色に奈々と驚きながらもその日は夕方になる程に六層に着いた。




《配信を開始します。》


「じゃあ、野宿するか」


「「「「は~い!」」」」


『日常配信乙~!』

『待ってました~!』

『夕方にナナちゃんの配信を見れるなんて新鮮だな』


 その他にも初めて見る人もかなりの数がいた。


 最近の視聴者数は一万を越えそうで越えれないけど、意外にも昼の日常配信は既に三万を超えている。


 というのも、昼食時間に配信を見る人が多いからだ。


 僕が行っている配信時間は午前の十時から十二時。明るい時間帯の中では一番リスナーが少ない時間帯と言われている。


 まさかそれが一気に上昇しすぎて、視聴者数が三万を余裕で越えて、六万を記録した。


「皆さん~見てくれてありがとう~」


 妹がリンと一緒に手を振って感謝を伝える。


 すぐに『配信者可愛すぎ!』とか『噂のブラックスライム! めちゃ可愛い!』などのコメントが流れる。


 シホヒメは――――さすがに眠れてなくて、アイドルモードには変身できないらしい。


 もし今日が初日なら、絶対邪魔していたと思う。


 リンが持ってきてくれたキャンプセットを設営していく。


 昨日練習しておいて正解だった。


 妹がコメントと触れ合っている間に、俺達は急いで設営を完成させた。


 ガチャ袋から色々食材を出して料理を始める。


 シホヒメは洗い物を手伝ってくれて、綾瀬さんは調理を手伝ってくれる。


「そこの飲んだくれも働け~!」


「え~夕方はのんびりさせてよ~」


『マホたんとリリナが既にできあがってる件についてwww』

『酒持参なの笑うw』


「今日の晩酌セットあげないぞ~」


「「はいっ。手伝わせていただきます」」


『効果てきめんすぎるww』

『お酒に溺れた女達の末路』

『エムくんのあれがないと生きていけないですww』


 コメントは完全に可愛いナナとリンのコメントと、俺とかマホたんへのコメントに二分している。


「ナナ~食事の準備ができたぞ~」


「は~い!」


『エム氏、料理できるのかよ!?』


「お、おう……まあ、一人暮らしの歴は長いからな」


『やっぱり料理できる人はモテるな』


 モテ……る?


 いや、ガチャがモテるのは間違いだと思うぞ。


 俺はお酒を一本取り出す。


「「エムくん!」」


「ほら。俺じゃなくてガチャが目当てな」


『自分で卑下してしまうエム氏は配信者の鏡ww』

『エム氏とガチャは一心同体ではあるじゃん~』

『泣くなよエム氏。それでも周りには可愛い子ばかりだから』


「それはそうだな。うちのナナとリンは可愛いからな~」


「えっ~!? エムくん? 私は? 私はエムくんの女だよ!?」


「枕」


「大好き!」


『残念美女☆彡 残念美女☆彡』

『今日残念美女初めてカメラに映った気がするんだがww』

『脳筋聖女達に隠れてしまったようですww』


 確かにメンバーが増えたものな。


 それから食事を取り、ここまで集めた魔石でギリギリ百連を回した。


 珍しく枕が二つも出たので、シホヒメが興奮して暴れたのは言うまでもない。

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