第78話 マホたんの狙い
「…………シホヒメ? 大丈夫か?」
「あいっ」
寝起きで目を覚ましたら、目の前に目が充血したシホヒメが俺を凝視していた。
うん。めちゃくちゃ怖い。
できれば枕をコンスタンスに引いてやりたいんだが、最近手に入る魔石数も減った上に、枕が出る確率だけが下がっている。
昨晩はディンとヤオも泊まったので、朝食を一緒に食べた。
それにしてもヤオは相変わらずディンのことが…………。
「ディン。帰還の羽根は大丈夫か?」
「ああ。まだ俺が二枚、ヤオが二枚残っているさ」
「なんだ、全然使ってないんだな」
「二人だからな。あまり深くまでは潜ってないし、軽く戦ってるだけさ」
なるほど……それにリリナがいないと回復魔法とかも大変だろうからな。
俺はリンのおかげで、フロアボスや試練くらいしか大変な思いをしなかったけど、リンがいないとなるとダークラビットにすら苦戦するくらいだからな。
「そういや、エム殿はフロアボスまで行かないのか?」
「あ~行きたいんだけどね。青空ダンジョンって二十層まであるんでしょう? しかも一層ごとに広すぎて一日じゃいけなくてな」
「うむ。ダンジョン攻略は元々一日でやるものではないからな」
「そう……なのか?」
俺にとってダンジョンは日帰りが当然だったから。
「普通は野宿して最下層まで向かうのさ。だからこそ、この帰還の羽根の重要性があるのさ」
「帰還の羽根、本当に便利よね~下層から一気に外に出れるから~」
「マホたん。おはよう」
「おっは~ねえねえ。青空ダンジョンの最下層目指すの?」
ソファーがそれなりに余ってるのに、わざわざ俺にくっつく距離で座った。
薄い部屋着のせいで彼女の肌が直に当たったように感じる。
「ん……せっかくなら行ってみたいかな。以前みたいにUR指定チケットが手に入るならほしいし」
「え? ほしいアイテムでもあるの?」
「エリクシールがほしいなと思ってな」
「エリクシール? どうして?」
「ダンジョン病って何も日本だけじゃないんだろ? ならエリクシールがあれば、ダンジョン病から治せる人のためにほしいなと思って。必死になってガチャを引くつもりはないけど、手に入る方法があるなら取りたいって感じ」
「ふふっ。エムくんって優しいのね」
「そ、そんなことはないけど……」
ニコっと笑うマホたんに思わずドキッとしてしまった。
朝食のためにみんなでテーブルを囲い、青空ダンジョンの最下層について相談した。
結果的に、満場一致で向かうことになった。
青空ダンジョンの最下層までは三日はかかるということで、準備も込みで今日の配信は休みにして買い物に出かけた。
普段まったく来ることのないホームセンターに来て、マホたん主導で次々に買い物を続ける。
インスタント食糧からテントまで色々購入していく。
全てマホたんのポケットマネーで支払われた。
「ま、マホたん? 俺も払うよ」
そんな俺に人差し指で口に触れてウインクするマホたん。
…………なるほど。
買い物を全部終えて、荷物は全てリンの胃袋の中に保管する。
日常配信は近くのラーメン屋さんにやってきた。
「っらっしゃいぃいいいいい!」
入ってすぐに店主さんの大きな声が聞こえる。
『随分元気のいい声やなww』
『ナナちゃん復活後初ラーメン!』
店員に案内を受けてカウンター席に並んで座った。
種類は一種類しかないが、細かく質問されて濃いとか普通とか色々選んだ。
ウキウキしているナナが微笑ましい。
カウンター席なので、映るのは並んだ席だから一番奥に座っているリリナは一番小さく映っているはずだ。
「へい! お待ちどさま!」
「わあ!」
麺とスープが別々に出される。つけ麵だ。
みんな食べることよりもナナに注目した。
麺をすくって、スープに浸して食べ始めた。
「ん! 美味しい!」
『今度そのラーメン屋行くわ……』
『ナナちゃん美味しいいただきした~!』
『美味しいキタァァァァ!』
コメントも盛り上がり、他のお客さんも笑みをこぼしていた。
普段ラーメン屋なんて行かなかったので、俺も新鮮な気持ちになる。
つけ麺はスルスルっと食べられて、少し濃いけどしつこくない味はまた美味しかった。
食事を終えて、明日からの予定をリスナー達に伝えて、明日から青空ダンジョンの最下層を目指すむねを話した。
『エム氏! 夕飯の日常配信よろ!』
「え? そんなことできるのか? ダンジョン中なのに?」
『キャンプ内なら日常配信できるはず。結構そういうパーティーいるぞ』
「あ~うちもそれやってたわね。多分大丈夫だと思う」
「そっか。マホたんのところでできたなら大丈夫か。じゃあ、夕飯の時にでも日常配信するよ」
『よろしく~!』
配信を終えて、ラーメン屋前からまた残りの買い物を終わらせて家に帰ってきた。
「マホたん」
「うん!」
期待の眼差しを送るマホたん。
「今日はありがとう。ワインを進呈します!」
「やったぁああああああああ!」
やっぱり欲しかったのはこれなんだな。
まあ、会計もしてくれたし、色々手引きもしてくれたからな。
リリナは昨日もらっているから、一緒に飲もうといい、二人でテラスに出て酒を飲み始めた。
あの二人って本当に酒が好きなんだな。
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