第77話 残念令嬢

 誰かが通報してくれたようで、配信を終えて青空ダンジョンから出ると、大勢の警察が待っていてくれた。


 すぐに身柄を渡す。


 その中にひと際目立つ男性がいた。


 真っ赤な髪の男性は、全身が筋肉質のとても強そうな見た目をしている。いや、見た目だけでなく、気配もそれ相応なものに感じる。


 底辺探索者だけど、ディンやマホたん達を見てきたからこそ感じられる。


「初めまして。警視監のアグウスといいます」


「どうも。エムです」


「貴方の活躍はかねがね聞いております」


 握手を求められ交わした。


「アンドレアスは私が責任を持って逮捕致します。それにしても、まさかアンドレアスが女性だったとは……」


「名前から男性だと思ってたんですけど、意外でした」


「ええ。今まで目撃情報から男性であることが多かったんですが、それすらもフェイントだったとは……何年も捕まえられなかったのに納得がいきます」


「どうかこれから犠牲者が出ないようにお願いします」


 彼女に操られた者達は、精神的にも肉体的にも相当疲労したようで、みんな救急車で搬送されていった。


 ダンジョンでは時折、悪意のある探索者によってイレギュラーな事件が起きたりするようで、救急搬送は常に体勢を整えているようだ。


 一連の騒動が終わり、俺達も帰路につく。


「警視監って偉いのかな? 周りの人達が随分とぺこぺこしていた気がするんだよな」


「ふふっ。エムくんって知らずに挨拶してたの?」


「お、おう……悪いな。あまり警部に関しては詳しくなくてな」


「ちゃんと覚えておいてね? 警視監って、めちゃくちゃ偉いの」


「めちゃくちゃ偉い……まじかよ……」


「階級でいうと上に警視総監がいて、一番のトップだね。警視監はその真下。つまり将来のトップの超エリートって感じ」


 確かに驚きではあるが…………だってね? うちに普通に総理とかやってくるからね。


 でも凄いことに変わりはないけどな。


「ふふっ。エムくんって警部の中にまで名前が広がっているんだね~」


「や、やめてくださいよ……俺はただのガチャを回す探索者ですから……」


「あの【操り師】を捕まえた英雄が、ただの探索者は無理かな~」


 ううっ……綾瀬さんの言うことも分かるけど……俺じゃなくてリンが…………。


 頭上に乗っているリンがドヤ顔をしている気がする。


 家に帰ってくるとディンとヤオが遊びにきていた。


「エム様!」「エム殿!」「ディン!?」


「ただいま~」


「ケガはないんですか? エム様!」


「ケガはしていないか? エム殿」


「――――ディン!」


「ええ。リリナが頑張ってくれたおかげで無事捕まえることができたよ。心配してくれてありがとうございます。美保さん。ディンもありがとうな」


「――――ディン!」


 ヤオはいつも通りで放置でいいか。


 美保さん…………俺が入口に向かって指差していた映像を切り抜いた写真をもううちわにしているんだよな……リンのアホ毛がちょっと可愛いな。


 バタバタして昼食は家で食べることになった。


「お姉ちゃん」


「なに~志保ちゃん?」


「家で配信してもいい~? お姉ちゃんはモザイクでいいよ~」


「あら。いいわよ~」


 シホヒメと美保さんが何か不穏な話をしているぞ。


「奈々ちゃん~」


「あ~い」


「日常配信はうちでやるましょう~」


「いいのぉ~?」


「うん。今日の配信はあっさりしたものだったから」


 どこがあっさりしたんだよ! 世界的な指名手配犯を捕まえたんだぞ!?


「わ~い! やる~!」


 …………止めるタイミングを見失ってしまった。


 綾瀬さんは美保さんの手伝いをしながら、マホたんとリリナは酒をくれくれアピールしている。


 程よくして外からドローンがやってきて、開けておいた窓から中に入ってきた。


 つくづく高性能なドローンだなと感心する。それくらいダンジョン産素材が役に立っているんだな。


 漆黒ダンジョンでは魔石しか落ちなかったけど、他のダンジョンでは素材が落ちるらしいからな。


 青空ダンジョンでも不思議な素材がちょいちょい落ちていた。一層の鳥型魔物を倒すと消えてから爪が一つ残ったり、極小魔石が落ちたりと。


 深層に行けば大きな魔石も出るし、色々出るらしいので楽しみにしておこう。


《配信を開始します。》


 画面が現れて日常配信が始まった。


「みんなさん~こんにちは~」


『ナナちゃん~日常配信お疲れ~!』

『ないと思ってたから嬉しいぞ~!』

『配信おつ~!』

『ナナちゃんの家キタァァァァ!』


 よく一目で家だと分かったな?


『エム氏の家ってめちゃお金持ち……?』


「違う違う。俺のうちじゃない。元々一部屋のアパートに住んでたんだけど、マスコミのせいでアパート出てしまったんだよ」


「ここは私の家だよ~キラーン☆」


『シホヒメの家お金持ちすぎ吹いたww』

『残念美女は令嬢!?』

『家の良さからリアル令嬢だよな。すげぇ~!』

『残念令嬢爆☆誕』

『残念令嬢☆彡 残念令嬢☆彡』


「残念令嬢じゃないぞ~☆ シホヒメだよ~☆」


「あらあら~志保ちゃんが躍っているわね~」


『顔がモザイクだけど、爆乳でめちゃくそエロいんだけど!?』

『逆にエロくて吹いたwこれ規制かからないのかよw』


「志保ちゃんの姉です~エム様の奴隷です~」


「やめろぉおおおおお!」


『『『『ギルティ』』』』


 妹の配信なのに相変わらずカオスな雰囲気になった。


 次々に美味しそうな料理が運ばれてきて、コメントにも『美味しそう~!』と多くのコメントが流れる。


「「「「いただきます~!」」」」


 みんなで手を合わせて食べ始める。


 こういう食事をする配信でも需要があるんだから不思議だ。


 シホヒメ曰く、こちらでは見えないリスナー達も一緒に食べているからいいらしい。


 とくにこの時間帯は会社員達も昼食時間なので、見てくれる人が多いらしい。その証拠に普段のダンジョン配信よりも視聴者数が上になっている。大体三倍くらい多くなっている。


「リリナ~」


「うん?」


「今日大活躍だったな」


 胸を張ってドヤ顔するリリナ。


「そんなリリナには、特別にワインをあげます~!」


「わああああ! ありがとう! ありがとうおおおお! 私頑張って良かった!」


 めちゃくちゃ興奮しながらワインを受け取った。


 となりのマホたんは随分と悔しそうに見つめていた。

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