第76話 炙り出し作戦

 突然やってきた総理との話し合いが終わり、彼らは俺が渡した酒を大事そうに抱えて帰っていった。


 酒代はそのうち支払うことになっているが、おそらく現金になると思われる。もちろん、総理のポケットマネーで。もしこれで税金でだったら幻滅していたところだ。


 朝食を食べた俺達は、今日も青空ダンジョンにやってきた。


 一層に入ってすぐに異様な空気を感じる。


「みんな。予定通り頼んだ」


「「「「はい!」」」」


 すぐに配信が始まった。


『配信乙~!』

『リン様☆彡 リン様☆彡』

『ナナちゃん☆彡 ナナちゃん☆彡』

『残念美女が輝いておる~!』


「今日も青空ダンジョンで配信していくぞ~」


 いつもと変わらない雰囲気で始まった配信。


 だが、ダンジョン内の空気感は今までのものとは異質さがあった。


 いつもと変わらず魔物を倒しているように見える探索者達。


 俺達が青空ダンジョンの中央に着いた頃――――周りの探索者達が一斉に俺に向かって走ってきた。


「来た……!」


 やってきた探索者達をナナが真っ先に投げ飛ばす。


 さらにシホヒメとマホたんは微弱な感電魔法を放ち、それでも突破してきた探索者はリリナが殴り飛ばす。


 さすが脳筋聖女と呼ばれるだけはあるな。


 殴り方もプロ顔負けというか、むしろ何か武術でも学んでましたか? と思えるくらいキレッキレの戦い方だ。


 やってきた探索者はざっと百人を超える。


 さらに遠くから向かってくる探索者も大量にいて、一層で活動している探索者全員が操られて・・・・いるようだ。


「リン。どうだ?」


「まだ……遠い……」


 どこかで探索者達を操っている者を見つけるのは、リンにお願いしている。


 リンは頭の上にアホ毛のようなものを一本生やしてくるくる回している。


 これは人を探す時に使うアンテナだと言っていたけど、本当に効くのかは分からない。ただ、リンなのでそこは問題ないと思う。


 リンが見つけ出すまで、俺達はやってくる探索者達を気絶させ続けた。


 俺を狙っているアンドレアスは【操り師】だ。


 このエリアのどこかで探索者を操って、こちらに仕向けているはず。


「もう少し頑張ってくれ! リンが頑張ってくれてる!」


「「「「はいっ!」」」」


『また何かイベントか?』

『あれか。エム氏を捕まえたら彼氏になってくれる的な』


 そのコメントに反応するかのように、メンバー全員が俺に向く。


「違うー! か、彼女なんて俺にできるわけねぇだろ! ま、まぁイベントみたいもんだ!」


 配信中であることをすっかり忘れていた。


 というのも、アンドレアスは配信を見ているはずで、俺が青空ダンジョンに来たのを配信で確認して行動に起こすと考えた。


 青空ダンジョンの中心部に着いた時に襲ってきたのはそういう理由があると考えたからだ。


『そんな告知見てなかったから驚いたな』

『なんか探索者達の目の色、おかしくない?』

『これって【操り師】じゃねぇ?』

『お尋ね者の?』

『操られてる特徴が一致するな』


 リスナー達……お前達は一体何者なんだ……。


「ああ。実は俺が狙われていてな。そいつを捕まえるためにこうしているんだ」


『すげぇ~! 二十年間捕まらなかった【操り師】を捕まえたらすげぇぞ!』

『指名手配犯☆彡 指名手配犯☆彡』


 軽いノリで言われるけど、言ってることめちゃくちゃだからな!?


「見つけた……!」


「見つかった!」


「あっち……」


 リンのアホ毛が入口付近を指した。


「リリナ! 走って!」


 マホたんがそう叫ぶと、リリナの体から青い光があふれ出した。


「――――聖女ダッシュ~!」


 凄まじい音圧と音が響いて、リリナが一瞬で遥か遠くを走っていた。


『出た~!wwwww聖女ダッシュwwwww』

『世界で一番早いスキル、聖女ダッシュwww』

『久しぶりにみたな~wクソはえーよ!』

『速すぎて笑う暇すらねぇwww』


 もし入口付近に隠れていたら逃してしまうかもと心配していたけど、マホたんが「それは多分大丈夫」と言っていた理由がようやく理解できた。


 俺達も急いで一層の入口に向かって走る。


 一番先頭を走るのは――――当然、うちの大天使ナナだ。猫耳と猫尻尾が可愛らしく揺らいで、どんどん距離が離れていく。


 あとはみんな俺の速度に合わせて走ってくれる。


 …………ちくしょ! これからちゃんと鍛錬するから!


 入口付近に着いた頃、リリナとナナと戦っていた人が殴られてその場で力なく倒れ込んだ。


「リン! この人か?」


 リンのアホ毛がピーンと真っすぐ床に倒れた人に向いた。


 そこに倒れているのはカジュアルな服装の長い金髪の女性だった。


『すげぇ~! 【操り師】を捕まえたとか、快挙すぎる~!』

『指名手配犯を捕まえた英雄エム氏!』


「いや、捕まえたのは俺じゃなくてリリナとナナだし……」


「ううん。リンちゃんがいないとできなかったから~それに作戦もエムくんの力だよ」


「あはは……ありがとう」


『ハーレムだけじゃないぞ! うちのエム氏は!』

『エム氏☆彡 エム氏☆彡』

『世界のエム氏』


 リスナーに褒められてくすぐったかったけど、何とか【操り師】を捕まえることができて、本当によかった。

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