第72話 上位探索者の仲間入り

 ガチャを引いても少し時間が残った。十分ってところか。


 せっかくだったので、みんなで十層の最奥にあるフロアボスへの扉を潜った。


 中は前回とは違い、砂漠ではなかった。


 今回は広い範囲が壁に囲まれており、周りに木々が点在している森だ。


 空には眩しい太陽が浮かんでいる。


 次の瞬間、上空から何かが羽ばたく音が聞こえてきて、鳴き声を上げた。


「グリフォンかも! 風魔法に気を付けて!」


 マホたんの言葉が聞こえてすぐに上空から大きな――――四足歩行の鳥が急降下してきた。


 地面にぶつかって爆風で石が飛び散る。


 いつの間にか俺の後ろに待機していた綾瀬さんがバリアの魔法で俺を守ってくれる。


「フロアボスって、こうかならず最初は範囲攻撃かな……」


「そうかもしれないわね。それは後で帰って聞いてみよう」


「分かった。アヤも気を付けて!」


「うん!」


 元はナナを援護していたアヤだが、すっかり強くなったおかげで援護の必要がなくなった。余った俺を援護してくれるようになった。


 離れたところではシホヒメとマホたんが一緒に詠唱を唱えて魔法を放つ。


「「――――チェインライトニング!」」


 二人の手から眩い雷が合わさってより大きな雷となりグリフォンに直撃する。


 グルァァァァァァ!


 以前のサンドワームと違って、グリフォンが非常に痛そうにする。


 俺も爆炎剣を持って全速力で走る。


 どんどん近くに巨体が見え始めて、雷が鳴り止んだ直後、頭部に向かって跳びこむナナの姿が見えた。


 真っすぐグリフォンの頭部に跳んで蹴りを叩き込む。


 巨体がいとも簡単に反転して後ろに倒れる。


 倒れた勢いの爆風が俺を襲うが、爆炎剣の炎を燃やして前方に放つ。


 爆炎剣の特徴は二つ。一つは斬りつけた部分が燃える。もう一つはこうやって爆炎を前方に放つことができるのだ。さしずめ、火炎斬りって感じだ。


 グリフォンが起き上がる前に斬りつける。


 斬った羽が燃え上がる。


「――――アイスランス!」


「――――チェインライトニング!」


 俺とナナが離れるとすぐに大きな氷のつららが、それぞれの羽に二本ずつ刺さり、雷が鳴り響く。


 グリフォンがビクビクとなったところに、空高く飛び一回転したナナが胴体にかかと落としを決める。


 周囲に爆音と凄まじい風圧が広がり――――グリフォンは粒子となり散っていった。


『ナナちゃんつえ~!』

『マホたんとシホヒメもあんなにいがみ合ってたのに、戦いではタイミング抜群だな!』


 みんなを称えるコメントが無数に流れる。


 それと同時に配信が終わった。


《応援数:10,712》


「あれ……? 応援数が何かおかしくない?」


 なんか五桁に見えるような……?


「エムくん初五桁おめでとう~!」


「お兄ちゃんおめでとう~!」


 シホヒメと奈々が真っ先に祝ってくれる。


 そうか……俺、応援ポイント初めて五桁に届いたんだ…………。


「あれ? 五桁って…………百万!?」


「ふふっ。これでエムくんも上位探索者の仲間入りだね~エムくん~さっきのワイン飲みたいな~祝いで飲もうよ~!」


 そこ普通逆でしょうが!


 マホたんの後ろから期待の眼差しを送るリリナの視線も感じる。


 ひとまず、帰還の羽根でダンジョンを出た。




 次に向かうのは――――焼肉屋さんだ。


 大衆向けの焼肉食べ放題の店クイーンである。


 しかもこの店、撮影用部屋まで完備していて、予約したおかげで撮影部屋に案内された。


 仕切りがしっかりしている部屋であり、ちゃんと配信カメラの場所まで確保している。


 今度は奈々のアカウントで配信が始まった。


「こんにちは~今日もお兄ちゃんとお昼飯やっていきます~!」


『8888888』

『ナナちゃん、今日カッコよかったよ~!』


「ありがとう~! それとお兄ちゃんの応援ポイントが一万を超えたの! みんなありがとう~!」


『エムくんが上位探索者の大台を突破してしまったか』


「あはは……それも全てリンとナナのおかげだけどな」


「えっ!? 私は!?」


「シホヒメは少しだけかな?」


「え~!!」


『シホヒメ今日のアヘ顔跳び込み、マジで面白かったwww』

『まさかのマホたんとセットは吹いたwww』


「私も!?」


 マホたんも反応する。


 君も随分と必死になって跳んでいたぞ。


「エムくん~ワイン飲みたいな~」


「注文すればいいんじゃない?」


「違うっ~! エムくんのが飲みたいの!」


『エムくんのwww』

『エム氏のチャンネル解除だな』


「風評被害なんですけど!? ワインは帰る時にあげるから」


「やった~! わ~い! エムくん大好き!」


 席順的に俺の隣になったマホたんが俺の腕に抱きつく。


 反対側にはナナが座っている。


『エム氏のハーレムチャンネルだった』

『俺らはナナちゃんを見て癒されようぜ~』


 注文した肉が届いたので、早速焼いていくのだが、俺の分は全てナナが焼く。


 トングを握っただけで『おお~ナナちゃんが焼いた肉食いてぇ~!』とコメントが流れたので、すかさず「ナナは誰にもやらん!」と言っておいた。


 もちろんナナが焼いてくれた肉は、世界で一番美味しかった。

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