第71話 枕大好きシホヒメ。お酒大好きマホたん。

 初めて配信を休んだ休日が終わり、平日がやってきた。


 日常配信はともかく、ダンジョン配信は月曜日から金曜日まで毎日行うことにしている。


 これもメンバーの体調次第な部分はあるけど、綾瀬さんが体調管理に乗り気でいてくれて、おかげでそこはあまり心配していない。


「キラーン☆」


 朝から眩しいな……。


「エムくん。今日も漆黒ダンジョンに入るの?」


「ん~そうだな。それでもいいかなと思ってる」


 マンネリ化は防ぎたいと思ってて、違うダンジョンにも入ろうかなと思ってたけど、昨日は綾瀬さんの提案でゆっくりしたので、ダンジョンを調べていない。


「事前に調査して来週辺りからは違うダンジョンも攻略できたらいいなと思う」


「じゃあ、ダンジョンを調べるのは私がやる~」


「シホヒメが?」


「うん! こう見えても色んなダンジョンに行ったからね!」


「…………ちなみに覚えているダンジョンはあるのか?」


「…………キラーン☆」


 こいつ、絶対誤魔化したな!


 そもそもパーティーメンバーの顔すら覚えてなかったシホヒメが、ダンジョンの内容なんて覚えているはずもないな。


 美保さんが作ってくれた朝食を食べて、みんなで漆黒ダンジョンに向かった。




 入口に着くと、珍しい顔が揃っていた。


「やほ~エムくん!」


「マホたんにリリナ。あれ? ディンはいないのか?」


 二人の姿しかいないのが気になる。


「ディンとヤオはどっかに遊びに行ったよ。今日狩りに混ぜて~」


「お、おう……」


 日本最強クランメンバーが同行してくれるのは、とても嬉しいことだ。


「マホたん。羽根はどうだった?」


「使ってしまったの~またほしいな~」


「分かった。最近羽根がよく出るから五枚くらい渡しておくよ」


「ありがとう~私、エムくんのこれがないと生きていきないの~」


「おい。シホヒメの真似すんな」


 軽めにマホたんの頭にチョップを入れる。


 ふと、以前宴会の時のことを思い出して、顔が熱くなるのを感じる。


 そういや、まだちゃんと返事してなかったな……。


 まだ配信までは時間があるが、そのまま最深部に向かった。


 戦いは基本的に奈々が全てを担当してくれた。


 猫耳カチューシャがいたく気に入ったらしく、魔物を次から次へと倒して魔石を集めてくれた。


 最下層に着くと配信が始まった。


《配信を開始します。》


「キラーン☆」


『出だしシホヒメ安泰すぎてww』

『リン様☆彡 リン様☆彡』

『ナナたん☆彡 ナナたん☆彡』

『マホたんとリリナいて草ww』


「こんにちは~マホたんで~す☆ キラッ☆」


「!? し、シホヒメだよ~! キラーン☆」


『なんかバトルになって草www』

『ここ……エム氏の配信ってマ?』

『チャンネル主より目立つメンバーで草w』


 痛いとこを突くな……くっ……。


 配信カメラの前でシホヒメとマホたんがイチャイチャしている間に、ナナはダークドラゴンと戦い始めた。


 ナナが最近意外にマイペースに動いている気がする。いつも綾瀬さんが付いているので、心配はせずに見守る。


「シホヒメ! マホたん! そろそろ狩るぞ~!」


「「は~い」」


 切り替えはやっ!?


 みんな十層でまばらに分かれて戦い始める。


 俺はシホヒメとマホたんと一緒にダークドラゴンと対峙する。シホヒメもマホたんも魔法使いタイプなので、俺がダークドラゴンの注意を引いて、魔法を撃ってもらう。


 リリナは綾瀬さんと一緒に回復魔法使いだが、意外にモーニングスターを取り出してダークドラゴンを撲殺している。


 ナナは綾瀬さんと一緒にダークドラゴンをボコボコにして、ちょっとカオスな状況でもある。


 一時間の狩りが終わって、少し休憩をする。


 十層の真ん中でレジャーシートを敷いて、みんなで温かいお茶を飲む。


『ダンジョン最下層でゆっくりしてて草ww』

『エム氏がハーレムである』

『男一人しかいないに、色気一つないな~』


 くっ……。


「そういや、エムくんって異常にモテないよね」


「そんなダイレクトに言われると、いくら俺でも傷つくんだが……」


「ふふっ。仕方ないな~このマホたんが付き合ってあげるよ~」


「結構です! のんべえはお断りだ!」


 酔った女性を介護するのは疲れるからな。


「え~いいじゃん! 酔った女の子なら……色々できるんだよぉ?」


「そ、それはそうだが、まあ、できればシラフの方が俺は好きかな」


「ふう~ん」


『エム氏イチャイチャチャンネル。爆★誕』

『マホたんに……言い寄られる男がいるの信じられん』

『これ炎上案件じゃ……?』


「え"」


『まあ、エム氏だし、大丈夫っしょ』


「エムくんの女の私なの! マホたんのじゃありません!」


「ふふっ。寝不足女には負けないわよ?」


「エムくんは私の太ももに夢中なの!」


「夢中じゃねぇよ!」


『残念美女が必死な件ww』

『シホヒメも毎日ちゃんと眠れたら美人なのにな』


「そろそろ狩り再開すんぞ~」


「「は~い」」


 仲良しかよ!


 またダークドラゴンの狩りを続けて、数十分が経過し、配信終了間際になった。


 マホたんとリリナが倒した魔物の魔石を全部貰えて、何と中魔石が二百個を超えた。


 これで百連を二回回せる。


「百連二回か……いまさらだが、凄いな」


『昔は一日一連だったのにな~』


「もはや懐かしいな」


『エム氏が上級者になって俺氏は悲しいぜ』


「なんでだよ! まあ、今日もガチャを引いていこう」


 最初の百連を引くと、大量の黒いカプセルと所々白いカプセルが現れた。


 白いカプセルにはシホヒメだけでなく、マホたんも目を光らせる。


 最初の白いカプセルからは――――ワインが現れた。


「ワイ~ン!」


 マホたんが宙に舞う光り輝くワイン瓶に向かって飛びつく。が、掴められずに通り過ぎる。


 何度も掴もうと飛びつく。


「ぷふふ! ワイン瓶に向かって飛びついてて面白い~」


 次に現れたのは――――安眠枕。


「枕あああああ!」


 宙に舞う枕に向かって飛び込むシホヒメ。


 おいシホヒメ……お前いまマホたんを笑ったけど、同じことやってるぞ……。


 ワインと枕に向かって何度も飛びつく二人を見て、コメントは大盛り上がりを見せた。

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