第70話 休日の方向性②
マッサージが終わったら、今まで蓄積されたからか全身が痛い。
これ……明日大丈夫か?
「陸くん? 随分と痛そうだね?」
綾瀬さんが心配そうに覗いてきた。
「あはは……マッサージ師さんから、体が限界寸前だったらしくて、ほぐしてもらったら一気にダメージがきたみたいです」
「そっか。毎日頑張ってたもんね…………ふふっ。偉い偉い~」
「綾瀬さん!?」
急に俺の頭を撫でながら優しい笑みを浮かべる。
どちらかといえば、最近自分が撫でる側だったから撫でられる側になるとものすごく恥ずかしい。
いつもなら頭の上にリンが乗っているし、身長差もあるので、シホヒメの膝枕の時くらいだと思っていたのに、なんだか恥ずかしい。
椅子に座っている俺に屈んで撫でる綾瀬さんの胸元が目の前に見える。
一瞬はっとなって、視線を外した。
「――――リフレッシュ」
俺の体に淡い青い光が溢れる。
「――――ヒーリング」
続いて淡い緑の光が溢れた。
「綾瀬さん?」
「ふふっ。体調管理は任せておいて!」
「ありがとうございます。何だか体が軽くなった気がします」
「それはよかった!」
綾瀬さんもこういう笑顔……するんだな。
毎日ガチャのことで精一杯だったから、メンバー達の顔をあまり観察してなかったと反省する。
そういや……綾瀬さんが奈々を看護してくれる時、わざわざ仕事まで辞めてくれたっけ。
出世払いで雇うだの話をしたけど、クランを作った時、その話はなかったことにしてくれと本人から頼まれた。
ただ、いつまでも現状に甘えるのはクランリーダーとしてはダメだと思う。
マッサージを終えて満悦の笑みを浮かべた奈々とシホヒメが出てきた。
「奈々。どうだった?」
「凄くよかった! ちょっとくすぐったかったけどね~」
みんな満足したようなので、次の目的地を目指した。
次に来たのは綾瀬さんおすすめのカフェ。
どうしてカフェなのかと思ったら、まさかここも体調管理のために来たという。
注文は全て綾瀬さんがして、俺達は何が出てくるのか楽しみにして待つ。
みんなで明日はどうするかなどを話し合いながら待っていると、店員さんが配膳車を引いてやってきた。
普段は見ることができないような透明なガラス製の食器が並ぶ。
一礼した店員さんは慣れた手付きで、テーブルの真ん中にIHクッキングヒーターを置いてその上にティーポットを載せた。
その隣のピッチャーには水が入っている。ピッチャー一つにしてもおしゃれだ。
俺達の前におしゃれなティーカップが置かれて、最後に幾つかのティーバッグが入った箱が置かれた。
後はみんなの前に美味しそうなショートケーキが置かれた。
まさか……生きていてこういうお茶タイムを満喫する日が来ようとは思いもしなかった。
綾瀬さんはティーバッグの中を探して一つを取り出して、沸き始めたティーポットの中に入れた。
透明色だった水がどんどん色付き、赤い色に染まった。
みんなのティーカップにお茶を注いでくれる。
「これはね。ハイビスカスというハーブとローズヒップ、ローズをブレンドしたハーブティーだよ」
名前は聞いたことがある。
「中でもハイビスカスは疲労回復にとてもいいと言われているからね。少し高いけど、運動後にはとてもいいの」
なるほど……! ハーブにも色んな効能があって、それを計算してのこの店なんだな。
赤いハーブティーは甘味とほんのり苦みがあって、何より口の中に広がる香りがとても気持ち良い。
ケーキも普通のショートケーキではなく、不思議な食感のケーキだった。
一つ目のハーブティーが終わると、二つ目、三つ目をで計三杯のハーブティーを飲んだ。
こんなにも休日を満喫したのは一体何年ぶりだろうかと思いながら、家に帰った。
◆
家に帰ってすぐに、みんなの前にカードを出す。
「陸くん? これは?」
「これはクラン専用キャッシュカードで、登録した人じゃないと使えないカードです」
「キャッシュカード……?」
奈々がカードを前に首を傾げる。
「これからクランの収入はちゃんと分けようと思っててな。美保さんへの生活費を引いた残り額を全員で分配するよ。収入は基本的に配信の応援ポイントになるけど、最近では毎日たくさん応援してもらえるから、それなりの額になると思う」
視聴者数もそろそろ五桁にいきそうなくらいの勢いだ。
千人が応援してくれたら、それだけで十万円になるが、うちの配信は多分応援率が非常に高い。
配信サイト【コネクト】の運営方針で一人一回しか応援できず、応援も百円にして配信サイトは一切中抜きをしないので、ダイレクトに探索者の応援になる。一日百円という応援は意外にもお手軽のようで、みんな気軽に応援してくれる。
毎日四千応援ポイント越えてくるので、毎日一人十万円は稼げる形になるのだ。
そう思うと、人気配信探索者は配信だけで生計が立てられそうだ。
「クラン全員のための額はもちろん引いてからなので、みんな好きなように好んでくれ。というかみんなが自身で稼いだお金なんだから」
綾瀬さんもシホヒメも少し嫌そうな表情を浮かべ、奈々に限っては指でつんつんとカードを押したりと、みんな興味なさそうにしている。
「ちゃんと毎日頑張っている成果として受け取ってね。奈々も買いたいものがあったら、遠慮せずにな」
「うん……でも、私はお兄ちゃんに買ってもらう方が好きだけどな……」
「もちろん普段はそれでいいよ。でも俺がいない時に必要かもしれないだろ?」
すると奈々が驚いて泣きそうな顔で俺を見上げる。
「違う違う。いなくならない。ほら、今日みたいにマッサージで違う部屋だったりするだろ? そういう時、飲み物が飲みたいな~ってなったとき、お金がないと買えないでしょう?」
目に大きな涙を浮かべた奈々が納得したようで大きく頷いた。
「陸くん。質問」
「はい?」
「これは自由に使っていいお金なんだよね?」
「そうです」
「何に使っても文句言わないよね?」
「もちろんです。全てみなさんが稼いだお金ですから」
綾瀬さんが少し怪しい笑みを浮かべた。
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