第69話 休日の方向性
土曜日はエリクシールの一件で過ごしてしまい、夜は美保さんが作ってくださった鍋を食べながら楽しんだ。
次の日はいつも通り起きた。いつも通り――――シホヒメの膝枕だ。
「お、おはよう。シホヒメ」
「おっは~よ……」
「いや、無理して明るく振る舞わなくていいぞ?」
「あい……」
安眠枕の持ち数の関係上、シホヒメは二日に一度眠ることを決心している。昨日は在庫が残り一つだから我慢しているのだ。
土日は配信を休みにすることにしたので、配信外でのガチャはリンが引かせてくれない。平日に何とか週末の在庫も確保したいものだ。
隣で眠っている奈々の静かな寝息の音が聞こえてくる。
手を伸ばして奈々の頭を優しく撫でた。
「美保さんと綾瀬さんはもう起きたんだね?」
「うん。二人とも朝食の準備をするって」
わりと俺も早起きの自信があるが、あの二人には勝てないな。
シホヒメはまあ……ちゃんと眠ったら一番寝ているが、連続で眠ると意外と早起きだしな。
奈々を一人ぼっちにするのもなと思いながら、眠っている奈々を見守る。
これでも一か月前とかは、毎日こんな感じだったんだよな…………。
エリクシールを手に入れてまだ二週間か……思えば、もうこんなところに来たものだな。
シホヒメと一緒に時間を過ごすようになったのも一か月か。ということはリンが生まれて一か月か。
相変わらず俺の体のどこかに付着しているリンを取り外して、じっと見つめる。
ブラックスライムは基本的に真っ黒いボディーに可愛らしい瞳が見えるのだが、普段は眠そうにしている。
「あい……?」
じっと見つめていることが気になったようだ。
「リン。ありがとうな」
「あい……」
触手を両手のように伸ばして俺の頬に触れる。
細い触手がひんやりして、もちもちしてて気持ちいい。
「ん…………お兄ちゃん……?」
奈々も起きたようだ。
「おはよう。奈々」
「おはよぉ……お兄ちゃん……」
みんな起きたので、みんなで顔を洗って朝食を食べた。
「お兄ちゃん~今日は何をするの?」
可愛らしく首を傾げる奈々。
そういや、休みにしたものの、とくにこうしたいとかはなかった。
メンバーの疲労を考えれば、のんびり休める日を作りたかっただけだ。
「ん~なんか、こう、決めたものはないかな? そもそも休むための日だし」
「そっかぁ……」
「奈々が行きたいところがあるなら、俺はそこでもいいんだが――――」
「それは反対っ~!」
意外にシホヒメが反対する。
「奈々ちゃんが行きたいところはできれば配信に回したい。もちろん、休日にしか行けない場所とかはいいと思うけど、極力はね?」
それはシホヒメから提案された時に言われている。
日常配信も毎日やれたらやる程度のつもりで、毎日やる予定でもない。それが却って負担になったらいけないからだ。
「それこそエムくんの方がこういうのが足りないなとか思うことはないの?」
「ん~足りないか~」
色々考えてみるけど、やっぱり思いつくのは――――ダンジョンでのことだ。
「どうしてもダンジョンのことばかりになるな」
「ダンジョンのこと?」
「ダンジョンの配信も慣れてはきたし、リンのおかげで戦いも楽にはなってるけど、やっぱり毎日歩き回ってて体のケア的なものが、足りないなと思って」
すると綾瀬さんが手を上げた。
「それなら、マッサージはどう?」
「「「マッサージ?」」」
「傷なら私の魔法で何とかなるけど、スタミナはそういかないからね。以前にも悩んでいたよね?」
「えっ!? 覚えてくれてたんですか?」
「うん! エムくんのことなら何でも知ってるつもりだよ?」
…………体調管理は綾瀬さんにお願いして良さそうだ。
「綾瀬さんに体調管理の件をお願いしてもいいですか?」
「分かった! ナースだった頃の知識を使ってみんなの体調を整えるわよ~!」
何故かシホヒメが不満そうにしていたけど、ここは素直に従うようだ。
綾瀬さんはすぐにスマホを取り出し、どこかに電話をして何かを決め始めた。それを数回繰り返すと、嬉しそうな笑みを浮かべた。
「決まったわ~行こう!」
「「「は~い」」」
俺達は綾瀬さんに連れられて、とある場所に向かった。
◆
最初にやってきたのは、スポーツ用品店で、そこから全員分の服を購入した。
次にやってきたのは、その隣にあるジムだ。
「今日から体力づくりをします!」
みんなで着替えて、ランニングマシンで走り込む。
速度はそれぞれで決められるらしい。
最初はゆっくり歩きながら、少しずつ速度を上げていく。
速度は七~十キロで決めるらしいが、どうやら俺は七でも結構しんどかった。
毎日ダンジョンに通っていたとはいえ、こういうトレーニングをしたわけではないので、やはりしんどい。
シホヒメは眠さもあるだろうけど、普通に走っている。
綾瀬さんもナース時代に体力づくりはしていたとのことで、七だと普通に走れていた。
中でも一番驚くのは――――奈々だ。
奈々はおすすめ最高速十でも平然と走ってる。むしろ、ちょっと退屈に見える。
「奈々ちゃん。息が上がるくらいに上げていいわよ~徐々にね~」
「は~い!」
綾瀬さんに教えてもらって、速度を上げていく。
二十分後、ランニング時間が終わったけど、奈々は最高速二十キロでも顔色一つ変わらないで走っていた。
シャワーを浴びて次に向かうのは、マッサージ店。
男女で入る場所は違うらしく、女性陣と別れて中に入った。
「初めまして……えっと、その黒いのは何でしょうか?」
「僕の従魔です。ブラックスライムって言います。危険はありませんので気にしないでください」
「かしこまりました」
それから着替えを渡されて、薄い衣装を着て、男性マッサージ師の施術を受けた。
痛気持ちいい施術に今までの無理してきた体が悲鳴を上げた。
「酷使し過ぎですね。もう少しで体が壊れてしまうところでしたよ?」
「あはは……やっぱりそうですよね……」
正直……ダンジョンに入るようになってから加減を知らず、ただただ奈々のために毎日頑張った。
一切苦とは思わず、必死だった。
これからは自分の体にも気を使いながら頑張っていこうと思う。
――【感謝!】――
前話で質問に答えてくださったみなさまありがとうございます!
数が多すぎて返事はできていませんが、全て一つ一つしっかり読ませて頂いております!ありがとうございます!
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