第63話 変化していく日常

 赤いカプセルが開く。


 中から現れたのは――――茶色い猫耳のカチューシャだった。


「猫耳?」


『猫耳キタァァァァ!』

『何故猫耳?』

『エム氏、猫耳付けれるチャンスだぞ!』


「付けないよ! 付けるならうちの天使に付けてもらいたいわ!」


「私?」


 猫耳カチューシャを手に取って眺める。


《猫耳カチューシャ:装着者に獣神の力を与える。》


「!?」


「お兄ちゃん?」


 急いで猫耳カチューシャをガチャ袋の中に入れる。


「さあ、今日の配信は終わりだからな。お疲れ~」


『エム氏が何かまたよからぬことを考えるいるようだ』

『なんで隠したしwww』

『猫耳ぃぃぃぃぃ』


「猫耳は次の機会な!」


 そのまま配信が終わりを迎えた。


「お兄ちゃん……?」


 後ろを向くと、奈々が驚いた顔をする。


「なんだか……怖いよ?」


「ぐふふふふ」


「お兄ちゃん!?」


「明日のお楽しみだな~」


「エムくん、私なら今すぐでもいいよ?」


「シホヒメ。枕おめでとう」


「ありがとう~エムくん、大好き~!」


 赤カプセルを開ける前に白カプセルを開けたら、枕がなんと二つも出てきた。


 もちろん、すぐに回収したので、ダンジョンでは眠らせない。


「さあ、まず帰るか」


「「「は~い」」」


 今日は家に帰ることにした。




 ◆




「おかえりなさい~エム様~」


「ただいま。美保さん」


「エム様~手紙が来ていますよ~」


 一枚の手紙を受け取る。


 宛名は――――浅田さんからだ。


 一国の総理からの手紙……なんかこんな簡単そうにもらえるものかと不思議に思う。


 早速開いてみると、例の件の日が明後日に決まった知らせだった。


 シホヒメの家に住んでいるのは伝えてないが……さすが国家力だな。


「みんな。明後日に決まったから、明後日は配信なしだな」


「お兄ちゃん。それについてなんだけど~」


「ん?」


「そろそろ毎日配信はしなくていいんじゃないかな?」


 奈々に言われてポカーンとするが、俺達は毎日配信をしている。


 今までは妹を救うために毎日ガチャを回してきた。


 目的は果たしているので、毎日配信はしなくてもいいわけだ。


「えっと……シホヒメと綾瀬さんはどうだ?」


「「私たち?」」


「クランのことだから、みんなで決めるべきだろ?」


「私は賛成だけど……」


「私も賛成だけど……」


「けど?」


「「エムくんに会えない……」」


 まさか二人とも同じ言葉を話した。


「いや……配信しないだけで一緒にいればいいだけだし……」


「「いいの!?」」


「も、もちろん。二人が良ければ」


 そう話すと、二人とも満面の笑みを浮かべる。


 追加で刺すような視線。


「も、もちろん、奈々も一緒にな」


「えへへ~」


 頭を優しくポンポンと撫でてあげる。


 それにしても……奈々が最近意外な視線を送ってくるようになった気がする。


 奈々が眠った期間は十年だから、十年という長い間に色んなことを考えていたはずだ。


 きっとその分の差もあるのかも。


「はいは~い!」


「ん? どうした? シホヒメ」


「私から一つ提案があります!」


「提案? どうした?」


「配信って午前中やるでしょう? せっかくなら、お昼からの配信もやったらどうかな?」


「「「お昼からの配信?」」」


 俺と奈々と綾瀬さんの声が揃う。


 そもそもコネクトでの配信は、探索者支援のためなので、一人一時間しか配信できない。


 基本的には六十分の配信しかできないけれど、登録者や配信中当時接続者数の数によって伸びて、最大百二十分になっている。現在俺はこの百二十分である。


 基本的にダンジョンでは九時半から十一時半まで行っている。


 午前中配信にも関わらず、今や一万人を超えるようになった。


 『栄光の軌跡』は同時接続者数は万を超え、数十万人にも及ぶ。ああ見えても日本最強探索者クランなのは間違いない。


 応援ポイントは一人一つ投げられて一つで百円だから、仮に十万人から応援されたら、一千万円にもなる。


 ディン曰く、それ以上に稼いでいるから応援ポイントはなくてもいいと言っていた。


 最強探索者は恐ろしい。


 とまあ、そんな彼らでも一日配信できるのは一回と決められている。つまり、俺は開けないのだ。


「シホヒメ。残念ながら『コネクト』のルールだと、一日一回しか配信できないぞ? それにダンジョン配信で百二十分使ってるから余らないと思うが……」


「うん。それは知ってるよ? ――――エムくんっ!」


「お、おう!?」


 急に大声で指差しで呼ばれた。


「世界で一番可愛い人は!?」


「奈々!」


 何を当然な……。


「そこはシホヒメって答えて欲しかったけど……その通り、奈々ちゃんよね? なら、奈々ちゃんの可愛い姿をより多くの人に見せるべきだと思わない?」


「思う!」


「さらに、奈々ちゃんって――――――起きてからどこにも・・・・行けてないよね?」


「ん?」


「どこに向かっても、興味ありげに見てるから。でも今のままだと毎日ダンジョンと家を行き来するだけ。それはダメだと思うんだ」


 シホヒメに言われて初めて気づいた。


 十年間、変わった街並みをも見れなかった奈々。


 どうしてこんな簡単なことも思いつかなかったんだろう……。


「わ、私はお兄ちゃんと一緒にいるだけで幸せだよ……?」


「奈々…………ううん。奈々がわがままを言ってもいいようにするべきだった。シホヒメありがとう」


「ううん! それでね。私の提案はね――――」


 シホヒメの提案はとんでもないものだった。

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