第59話 シホヒメの頼み

「うぅ……枕……うぅ…………」


 家に帰ってくるとソファーに座り、自分の足を抱きかかえたシホヒメが、目から大きな粒の涙をポロポロ流した。


「シホヒメ……わりぃ……」


「エムくぅん……」


「できれば、足を下ろしてもらえないか。さすがに女の子でそれはマズイと思う。というかスパッツでいいから履いてくれ。何があって配信規制かかったらシホヒメのためにならないから……」


「うぅ…………配信中は履いてるよ……」


 シホヒメの絶対領域の中が見えないように、シホヒメの後ろに立って頭を撫でてあげる。


 でも配信終わったからって脱ぐなよ。目に毒だろ……。


「明日はきっと引けるさ。また頑張ろう」


「うん……」


「まだポイント残ってるし、明日も百連引けるさ」


「あい……エムくん? お願いがあるの」


「お願い?」


「聞いてくれる?」


「聞けるなら」


「何でも聞くって言って?」


「言わない」


「うぅ…………」


 シホヒメなら何を言い出すか分からないからな。


「あらあら、志保ちゃん。パンツ丸見えよ?」


 美保さんがブランケットを持ってきてくれて、シホヒメの絶対領域に強制的に被せた。


 ナイス……! 美保さん!


「お姉ちゃん……エムくんが意地悪する……」


「あらあら~エム様は優しいのよ? 何でも言う事聞いてくれると思うわ~」


 …………。


「エムくんが嫌だって……」


「分かった分かった~! ただし、リンに刺されない程度なら聞いてやるよ」


 はあ……。


「えへへ~じゃあ! 今夜お願いするからね!」


 ああ……絶対ろくでもないことになりそうだ。


 美保さんが作ってくれた夕飯は想像以上に豪華で、これから毎日こんな夕飯が食べられると思うと心が躍る。


 一応ちゃんと生活費とかも入れるように話し合って決めた。


 美保さんからは、全く必要ないと断られたけど、ただの居候は嫌だと何とか押し付けた。うちのメンバー全員分で、俺と奈々と綾瀬さんと、シホヒメの分も。


 リンはソーセージばかり食べてるので、食費は殆どかからないし、いつも俺の頭の上にくっついているので、生活費も掛からないしね。


 夕飯と風呂が終わり、夜が訪れ寝る時間になった。


 部屋割は、俺が個人部屋だが肩書上ではリンと同じ部屋。


 奈々と綾瀬さんは同じ部屋。


 シホヒメは元々の部屋で眠っている。


 と、今日はシホヒメの部屋にやってきた。俺とリンと奈々と綾瀬さんと美保さんまで。


 全員が入っても余るくらい広い。子供部屋とは思えないくらいの広さで、みんなの布団を横に並べられる。


 住んでいたアパートの部屋とリビングを足しても、ここより狭いんだよな……。


「それで、俺は何をすればいいんだ?」


「えへへ~ここ!」


 ポンポンと叩いているのは――――シホヒメの太ももだ。


 シホヒメの寝間着は、ダボダボしたシャツに短パン。綺麗な太ももと足が丸見えだ。


「じゃ、じゃあ……失礼します」


「どうぞ!」


 シホヒメのお願いというのは、夜一人で過ごすのは寂しいとのこと。


 俺の後頭部に温かいシホヒメの太ももの感触が伝わってくる。


 暗闇とはいえ、薄っすらと俺を見下ろすシホヒメの顔が見える。


 目を開けると常にシホヒメの顔が見える感じだ。


 まさか、彼女でもない人に膝枕で寝る日が来るとは、思いもしなかった。というか、彼女とか関係なくそもそも膝枕で熟睡ってできるのか……?


 寝ようとしたら、シホヒメの手が俺の顔に触れる。


 声に出さずに笑うシホヒメ。


 暗闇でも分かる程には、シホヒメは美女だからな……。


 少し胸が高鳴って眠れずにいると、隣の奈々の寝息が聞こえてくる。


 アパートでみんなと一緒に眠る生活がとても良かったらしく、安眠枕なしでは一人で寝たくないそうだ。


 せっかくそれぞれ眠る部屋を貰ったが、もしかしたら、これからも毎日同じ部屋で寝る羽目になるかも知れないな。


 リンはわりと気を利かせてくれて、俺の胸の上で眠っている。


 最初は緊張していたけど、シホヒメが優しく顔のマッサージをしてくれて、意外にも気づいたらすぐに眠りに落ちていった。

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