第57話 初披露!我が最愛天使

 次の日。


 事前に予約していたジャンボタクシーに乗って漆黒ダンジョンに向かう。


 それにしてもそろそろ違うダンジョンに向かってもいいのかも知れない。世界にダンジョンなんてごまんとあるのに、毎日漆黒ダンジョンばかり行ってるからな。


 入口に着くと、久しぶりに感じるキタミナミが待っていた。


「「姉御!」」


 そういや、シホヒメのこと、姉御って呼んでたな。


「みんな。ちゃんと持って来たわね?」


「「はいっ!」」


 二人が手一杯の袋を出すと、受け取ったシホヒメは「もう用はないわ。帰っていいよ」と冷たくあしらう。


「「ありがとうございます!!」」


 お前達もぶれないな…………。


 嬉しそうに俺達に手を振って颯爽と去るキタミナミに同情してしまうな。


「エムくん!」


「…………」


「褒めて!」


「褒めねぇよ!」


 軽めにシホヒメの頭にチョップを叩き込んで、キタミナミが集めてきた魔石を全てガチャポイントに変える。


 シホヒメのために使うんだから、キタミナミも喜ぶだろうけどさ。あいつらが可哀想すぎる……。


「まだ時間があるから十層に先に向かおう~!」


「そうだな」


 やけにテンションが高いシホヒメが俺達を引っ張り、ダンジョンの中に入って行った。


 暫く下層に向かって進んで行き、四層に着いた頃に配信時間まで数分となった。


「奈々~!」


「あい~?」


 くう……首を傾げる妹、世界一可愛い……まじ天使。


「奈々。今日は配信前にこれを飲んでくれ」


「えっ? それって前回出たハズレ・・・?」


「いや、当たりだから」


「そうなの?」


「そもそもハズレなら奈々に飲ませるわけないだろ? シホヒメにでもあげてるよ」


 シホヒメが顔を赤らめる。


 何故そこで恥じる!?


「う~ん。お兄ちゃんが飲めというなら…………いいよ?」


 ちょっとだけ不安そうな表情で見上げるうちの天使まじかわたん。


「さあ、一気に、ぐいっと、行っちゃって」


「エムくん。目が怖いよ?」


「いや、シホヒメにだけは言われたくないわ」


「え~そんなに褒めても~」


「褒めてねぇ!」


 最近シホヒメとの会話が漫才みたいになってきた気がする。


 俺から小さな瓶を受け取った奈々は、中身を一気に飲み干した。


 直後、奈々の体から眩しい光があふれ出した。




 ◆




《配信が開始されます。》



『配信乙~!』

『リン様☆彡』

『残念美女☆彡』

『残念ナース☆彡』


 綾瀬さんのあだ名も『残念ナース』で定着しそうだな。


『あれ? 我らのナナちゃんがいない?』


「ナナは俺の妹だっ!」


『残念兄貴☆彡』


「誰が残念兄貴だ! 変なあだ名つけるな!」


『残念兄貴に草ww』

『残念兄貴は妹がいなくてツンツンしております~』

『残念配信者と残念兄貴。どっちがいい?』


 どっちもいややわ!


 だが、まあ、いいだろう。この後、訪れる奇跡を考えれば、こんなコメントくらいどうってことはない。


『エム氏が変な笑いを浮かべたぞ』

『キ〇』

『〇モ』


「連携うめぇなお前ら!?」


 コメントが『wwwww』の弾幕で埋め尽くされる。


「まあいい。これからいつも応援してくれるお前らに感謝の気持ちを表して、素晴らしいものを見せてやるよ!」


『えっ……? エム氏? 配信者っぽくなってるよ?』


「配信者だわ!」


「ガチャ製造機……?」


「安眠枕引いてやらないぞ」


「エムくううううん! 私を見捨てないでえええええ!」


「ズボンを脱がしたら、一週間以上ガチャが引けないぞ!?」


 ピタリと止まったシホヒメが、Gみたいにカサカサと後ろに下がる。


「では、登場してもらいましょう~! 我が最愛の天使、ナナだあああああ~!」


 俺の号令に合わせてシホヒメとアヤがとある場所に右左に分かれ、ひざまずき両手を伸ばして手をひらひらさせる。


 柱の後ろから眩い光が漏れ出している。


 ふわっと――――真っ白な天使の羽・・・・が柱の左右に展開される。


 ゆっくりと柱の後ろから現れたのは――――言うまでもなく、我が最愛の――――


『ナナちゃん天使キタぁぁぁぁぁぁ~!』

『ナナたんまじ天使』

『ぶひ』

『リアル天使おって草www』

『えっ? どうなってんの?』

『天使マジかよ!?』

『小道具感一切ないの、逆に凄いわ』


 コメントが『天使』で埋め尽くされる。


 うちの妹は確かに天使だ。もちろん本当に可愛い天使なのだが、リアル天使ではない。いや、天使だけど。


 だが、今のナナは、リアル天使になっている。


 恥ずかしそうにはにかむナナ。背中に白い天使の羽が二枚。頭の上には天使の輪が浮いており、衣装は真っ白なワンピースで、絶対領域の中は光で見えない仕様になるらしい。


 ダンジョン病の唯一の良い所があるとするなら、患った者全員が超健康体に成長するというもの。


 それも相まって、スタイル抜群で、ワンピースのスカート部分から伸びた健康的で色白な太ももが露になっている。


「もう……俺は……昇天しても……満足だ……ぐふっ……」


「エムくん!? ダメぇえええええ~!」


「自分の太ももを見せつけてくんな!」


「え~これでもいい太ももだと思うんだけど」


 俺の視線が太ももに向いていると、どうしてわかったんだ……。


 ということで、天使になったナナをリスナーに見せることで、今日の配信は大いに盛り上がりをみせた。

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