第56話 シホヒメの家
シホヒメの家は俺とシホヒメの子供の頃の写真がいっぱい飾られていた。
さすがに壁びっしりとかそういう感じではないけど、ちゃんとフォトフレームに入れた俺達の写真が至る場所に置かれている感じ。
妹に悪影響を及ぼさないといいけど……。
「わ~ここにもお兄ちゃんが~」
「エム様の妹ちゃんだね~妹ちゃんと可愛らしいわ~」
「えへへ~うちのお兄ちゃんがいっぱいで何だか嬉しいです!」
「ふふっ。色んなエム様がいるから探してみてね~」
「お兄ちゃん探しの冒険に出てきますっ~!」
いや、本人ここにいるけどな。
奈々と綾瀬さんが一緒に家中を歩き始めた。
「部屋とか勝手に入っていいからね~」
いいのかよ! 普通入るなだろ!!
「エム様。どうぞ~」
「あ、ありがとうございます」
ピンク色の飲み物を渡されて、飲んでみると桃味の炭酸飲料水だった。
いつもなら背筋を伸ばして座っているシホヒメだが、家ではソファーにぐでんとなっている。やっぱりうちでは色々我慢や無理をしていたのかも知れない。
「あらあら~リンちゃん~初めまして~」
俺の頭の上に乗ったリンに挨拶をする。
おかげで俺の視界の前はたわわ全開である。
べ、別に興味はないけど、目の前に出されたらちょっと反応してしまうのは男としての性かも知れない。
というか、リンみたいに押し付けられた方が気にならないというか、逆に目の前にぶら下げられた方が気になる。
美保さんが手を伸ばしてリンを撫でてあげると、ぽよんぽよんと音を立てる。どっちも。
シホヒメの家は絵に描いたような高級住宅で、リビングは天井が高く広々として開放感あふれている。
リビングから内階段で二階上がると、細々とした部屋があるようで、奈々達は二階を探索している。
一階にはリビングの他に、厨房、風呂場、トイレなどがあり、裏庭に出たところに広いスペースがあって、バーベキューセットがちらっと見られる。いかにもお金持ちの家って感じで、日本というよりはアメリカ式の家って感じだ。別荘みたいな作りといえば伝わるだろうか。
「お姉ちゃん~これからうちを拠点にするからね~」
「わかったわ~じゃあ、これからご飯は全部任せてちょうだい~」
「うい~頼んだ~」
「うふふ。うちの志保ちゃんがちゃんと喋ってくれるの嬉しいわ~」
「…………」
鼻歌を唄いながら厨房に向かう美保さんをチラッと申し訳ない表情で見つめるシホヒメ。
「ちゃんと伝えれば良かったんじゃないのか?」
「ううん……大丈夫……これからはちゃんと
「そうだな。明日はちゃんと安眠枕を引こう」
「うん!」
シホヒメほど悲しそうな表情が似合わない女子もいないな。ムッとしているか笑ってた方がお似合いだ。
リンがぴょ~んと飛び上がり、一気に二階まで飛んだ。どうやら奈々の所に行くらしい。
こんな広い家で、シホヒメと二人きりという不思議な空間になってしまった。
というか、いつも短いスカートなのに、ソファーにぐでんとなると絶対領域が見えそうで、気になってしまう。
「シホヒメ。男の前でその座り方はどうかと思うぞ」
「…………エムくん」
「ん?」
「エムくんって女に興味あったの?」
「あるわ! ないわけないだろ!」
これでも一応健全な男子だからな!
「ふう~ん。てっきりないと思ってた」
「ま、まあ……そんなことより大事なことが多かったから」
「……エムくんも良かったね。やっと家族と話せるようになって」
「シホヒメもな。どうして初日から帰らなかったんだ?」
「エムくんが
「逃げねぇよ! って、またって何?」
「…………やっぱ覚えてないんだ」
「ん?」
あれ……? 俺、シホヒメと何かあったっけ……? てかシホヒメと喋ったの、ダンジョンが初めてだよね?
「覚えてないんならいいんですう~それよりも明日からの行動、考えておいた方がいいと思うよ? ここからだと漆黒ダンジョンが少し遠いから」
「それもそうだな。あのアパートだと歩いて二十分くらいだったけど、ここだと倍はかかるな」
「うん。タクシーとか頼んでしまう方がいいかも?」
た、タクシー……。そんな贅沢なものを頼むのか……。
「魔石はともかく、応援ポイントたくさん貰えてるんだから、ちゃんとリスナーに還元してあげないとダメだよ? リスナーを優先しなきゃ」
「それもそうだな。シホヒメはガチャを引かせたいだけに見えるけど」
「てへっ。バレちゃった~」
寝不足が続いていた時は、あんなにダメ人間なのに、すっきりすると美女のシホヒメの笑顔が破壊力抜群だ。
毎日ガチャ以外のことは考えられなかったけど、奈々が起きたあとは色々振り返るようになっている。
住処も追い出されたのに、こんな豪邸で過ごすことになったりと、意外と俺は仲間に恵まれているのかも知れない。
意外と家の中ではだらけなかったシホヒメが、だらけシホヒメになって暫く談笑を楽しむと、美保さんから料理ができたと運ぶのを手伝った。
美保さんの料理はどれも美味しくて驚いた。まるでプロの料理家のような。
食事が終わると、奈々と綾瀬さんが一緒に風呂に入って、二人が終わるとシホヒメと美保さんが風呂に入った。
二組の風呂が終わってようやく俺とリンが風呂に入る。
今まで殆どシャワーで終わらせていたので、広い湯舟に浸かるのも久しぶりだ。
リンも珍しく湯舟に浮いて、ゆらりゆらりと浮かんでいた。
指で優しく突くと、ゆらりと湯舟を流れて壁にぶつかってまた俺の方に戻って来る。
そんな愛くるしい姿に癒されながら、疲れた体に湯舟は最高のリラックスとなった。
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